ネズミになりそこなった者と、ネコ。
西側に大きな森の迫る小さな村落がゴブリンのむれに襲われていた。
すでに東門と南門は破壊され、複数の人間の死体と百二十セチ・メール(約百二十センチメートル)ほどのあきらかに人ではない死体が、無造作に転がっていた。
西の森に夕日は落ち、村落の家々に放たれた炎が周りを照らしている。
「いいか、女と子どもは捕まえろ、そして若くまだ抵抗する男も二人から三人捕まえろ。奴隷商人たちが『剣闘士』に欲しがっているからな」
黒いロープを着た人間の男が一回り大きなゴブリンにそう伝えると、そのゴブリンは頭を下げてこう言った。
「解かり、ました、魔王、エルドル、様」
そしてそのゴブリンは村落すべてに伝わるぐらいの大声でゴブリン語を使って命令する、周りからゴブリン語でおそらく愚痴のようなものが発せられるも、魔王エルドルの側近らしいそのゴブリンは、青銅の剣を振り回して従わせる。
数時間後、まだ家々に炎がくすぶっている村落の広場に女と子ども、そしてゴブリン達に多大な犠牲を出して捕まえた二人の男が集められた。
「フム」黒いひげをはやした魔王エルドルは、捕まえた人間の値踏みでもするかのように土の上に座らされた人たちを見て。
「よくやった、今夜の収穫は大量である。よって今夜は好きに飲んで食ってよい、あと子どもの数が少し多いので二人ほど食っても良い!」
とらわれた人々から悲鳴が上がり、大柄なゴブリンが嬉しそうに他のゴブリンにそう伝えると、ゴブリン達から歓声が上がった。
その時、ゴブリン達の横を隠れていた一人の青年が走り抜けて魔王エルドルにナイフを突き立てた。ちょうど心臓のあたりに刺さるナイフ。青年はナイフをねじる、悪ければ即死、良くても大量出血という怪我をさせて青年は笑う。
「今なにかしたか?」魔王エルドルも笑っていた、死亡まちがいのない怪我を負わされたはずなのに…。
「あ、ああ、」青年は顔を青ざめて三歩後ろに下がる、その青年のひたいに魔王エルドルの指が伸びる。
「その勇気、称賛にあたいするが相手が悪かったな」
そう言って魔王エルドルは一言呪文を唱える【死】と。
それが青年の最後に聞いた言葉だった。
…青年は死んだ…。
最初はビビりました。が、その後は何とかなったと、思いたい。
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