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ハロウィン

作者: 紅凛刳



魔界のハロウィンは人間界で言う夏祭りのような物だ。

違うとすれば、衣装。

人間界であれば浴衣なのだが、魔界では特別な衣装を着ることになる。

なるのだが…


「……ちょっと露出多くないか」

「そう?可愛くない?」


確かに可愛い。

大きく開いた胸元、ざっくりと切れ込みの入った背中、惜しげもなく晒された脚。

不安な気持ちになってくる。

彼女の素肌が大衆を魅了するであろうことはもちろんだが、本当に心配なのは別だ。


「もしかして凛刳さん興奮した?」

「してる。ハロウィン中我慢できるか分からん」

「シたくなった?」

「なってる。可愛いよ、莉緒」

「んぐ、なんか言い方ずるい」


莉緒の一挙手一投足が俺の欲望を焚き付ける。

俺にあったはずの鋼の精神力は甘く溶かされてしまったらしい。

言葉に詰まる彼女を抱きしめたい。


「でも、まだダメ」

「分かってる。我慢はするさ」

「…僕もしたいから。また後でね」


無意識なのか意識的なのか俺の自制心を試してくる莉緒に翻弄されながらも、何とか魔界のハロウィン祭りへと繰り出したのだった。






「凛刳さん」


凄い不機嫌な声が聞こえた。

繋いだ手を引っ張られてそちらを見ればジト目で俺を見る莉緒の姿。


「今あの女の子見てたでしょ」

「見てないよ」

「絶対見てた!」


どうやら俺の視界のどこかに他の女がいたらしく、莉緒が拗ねてしまったようだ。

俺には莉緒しか見えていないのだが、不安にさせたのは俺が悪い。


「見てないけど不安にさせたならごめんな」

「むぅ!おいしいもの食べないと機嫌直んない!」

「…食べたかっただけじゃないのか……?」


祭りの通りを数メートル進む度に莉緒の両手は串で埋まり、俺の両腕にはビニール袋がかけられていった。

ご機嫌な莉緒の視線はあちらこちらの出店へ。


「凛刳さん!あれやって!」


そして指差したのは射的。

だが、射撃というと護衛としては必須スキルなわけで。


「俺がやっちゃうと面白くないけどいいか?」

「うん?僕は凛刳さんのかっこいい所が見たいだけだから」

「……しょうがないな」


正直なところ、そう言われると悪い気はしない。

実銃とは勝手が違うものの的に当てる分には問題ない。

軽く知育菓子とシガレットを当てて獲得。

きゃあきゃあと黄色い声援を送ってくれる莉緒に少し照れながらも、プロとしての意地で全弾命中は成し遂げた。


「全力出しちゃうのは大人げ無かったかもな」

「でもたくさんお菓子とれたよ」

「なら、いいか。莉緒が喜んでくれるのが1番だ」

「うん!だからご褒美!」


ずい、と差し出されるクレープ。

苦笑いしながら齧り付く。


「ん、うまい」

「僕があーんしたから?」

「もちろん」


口がつけられていなかったクレープはさすがに大きかったようで、頬のあたりに違和感がある。

さて、両手が景品で塞がって困った。


「ちょっとかがんで」


莉緒が俺の肩に手をかけ、背伸びをするように顔を寄せる。

何をするつもりなのか察した時にはもう遅かった。


「ん、甘い」


ぺろ、と頬についたクリームを舐めとる莉緒。

至近距離に迫った身体とこそばゆい感覚。

俺の視界が一瞬赤く染まりかけた。

無いと思っていた鋼の精神力で何とか抑えつけるものの、息は荒く、最早ごまかしようがない。


「莉緒、こっち来て」

「え、ちょ」


莉緒からしたら何てことないイタズラだったのかもしれない。

だが、俺のスイッチを入れるには十分だった。 


出店の間を通り、路地に入る。

莉緒を壁に押さえつけるような体勢で壁に肘をついた。


「り、凛刳さん?後でって」

「莉緒が魅力的なのが悪い」


言うが早いか唇を奪った。

頑なに閉じた唇を求めるように啄む。


「ん!んーん!」


イヤイヤをするように身を捩る莉緒の股下に膝を入れ、顎を掴む。


「俺から逃げられると思ってる?」

「あ、」


莉緒の瞳が蕩けるのが分かった。

今度のキスは拒まれない。

唇を喰み合うようなキスを繰り返し、衝動と愛を伝える。

応えるように開いた歯の隙間に舌を滑り込ませる。


舌先が触れ合った瞬間、ピクリと莉緒の身体が震えた。

額に優しく手が添えられる。

事前に決めたストップの意思表示。


「ね、凛刳さん?舌入れたら僕も我慢できなくなっちゃう」

「我慢なんてしなくていいよ。俺がさせない」

「違くて、その」


莉緒が一呼吸おいて俺の見つめた。

ひどく熱っぽく浮かされたような瞳からは否定の言葉が連想されず、思わず見つめ返して待ってしまう。


「今から帰って、しよ?」

「…………いいよ」


莉緒の脚を下から抱き上げてお姫様抱っこの構図に。

大量の買ったものと景品も手と腕に提げながら、鬼族の脚力を全開で帰路につく。



結局莉緒の衣装は翌日俺がクリーニングに出しに行く羽目になった。

……とてもじゃないがまた着るには汚れ過ぎた。



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