表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

30年の年輪

「先生、お願いします」

「体調はどう?」

「落ち着いていますね」

「リチウムの血中濃度は問題なかったよ」


「精神の面はどう?」


ここはF市K大学病院精神科外来。

今日のF市は大雨だ。

病院の前の玄界灘は荒れている。


宏志はいつものように

精神科医に症状を伝える。

「先生、最近、

精神面で変化がありした。

樹木の年輪は、

寒く厳しい気候の地方の樹木は

年輪の幅が狭くなり

硬く丈夫な木になると聞きました」


「うん・・・」


「心の中にも

この現象は起きるのではないではないかと思い始めました」


「私は九州の貧しい田舎町で生まれ

虐めや自殺、暴力、虐待、

男尊女卑、貧困、ドラッグ、

部落差別、障害者差別

などを目にする機会が多かったんです。

そのせいで精神科にも通うようになって・・・」


「F市は苦しんで精神科に来る患者さんはたくさんいるな・・・」


「精神障害者だと

言われ差別的なことを言われたり

見下された経験も何度もありました。

その度傷ついたし人を恨んだし

憎しみさえ感じました。

自分の弱さが悔しくて

たまらなかったんです」


「だけど

30歳を迎え子供の頃の自分より

何倍も逞しくなって

経験も増えた自分になったことに

気がつきました。

今思えば・・・

今思えばですね・・・」


「うん・・・」


「今思えば

傷ついたこと悩んだこと嫌だったこと

怒ったこと、

人を傷つけたこと

傷つけられたこと

虐められた経験、

自殺未遂をした経験、

親の暴力で悩んだこと

思い出したくもない過去‥

すべて自分の心を丈夫にする、

木の年輪のようになって

いたのかもしれないです」


「今は精神状態は落ち着き始めました」


「診察をしていると

君はいっぱい悩んできた

患者だなと思うよ。

今日の診察はここまでにしよう。

薬はいつもの処方でいいね。

お大事に」


宏志は診察室を出た。

これからも困難を乗り越えて

心に年輪を刻んでいこうという決意と共に。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ