9話 俺と皆川①
「ちっす、オレの名前は皆川裕二。よろしくぅ!」
「……鈴城だけど、なんだ急に」
休み時間、突如として現れたのは皆川裕二だった。コイツってこんな喋り方だったのか、陽キャになるってこういうことなのか。
「いっくんから聞いたんだけど、協力してくれるんだって? サンキューサンキュー鈴城ボーイ」
五島が送り込んできたのか。
こんな男が遠月と付き合う? 普通に考えて無理に決まってんだろ。でもこういう男が案外あっさりと付き合う、なんてこともある。
遠月は友達と喋っているので、俺と皆川の会話は聞こえてないだろう。
「好きなの?」
チラッと遠月の方を見ながら問いかけた。
「おいおい、それここで話すのかよ! ……そうだな。敢えて言うなら、好き」
俺にマジ顔で言ってどうすんだよ。
「……まあ、五島にも頼まれたし協力はする」
こういう所から関係性を築いていって陽キャになっていくのかもしれない。
皆川は軽く頭を下げてニカっと笑う。
「あれなんだろ、すずしーって遠月ちゃんと仲いいんだろ。」
呼び方がころころ変わりやがる。
すずしー、ってなんだ。涼しいって聞こえるぞ。
「多少話す程度だからそんな期待はするな」
「いやそれでもすげーって、オレなんか遠月ちゃんに話しかけても全然盛り上がらないっていうか上の空っていうか?」
少し悲しそうに言う皆川。俺と喋っている時や今も、遠月の表情を見る限りはそんな感じはしない。
「下心が見えてたりして、……なんてな」
「すずしー、なぜわかった!?」
「あるのかよ!」
「いやほら、すずしーも男だからわかるじゃん? 遠月ちゃん可愛いし、脱いだらどうなのかなって」
ぐへへ、とだらしない顔をして話す皆川。
下ネタとか遠月が嫌いそうな話題だし、透けて見えたのだろう。
「その考えは辞めた方がいいかもな。遠月はそういう話、嫌がるぞ」
「ふむふむ、なるほど。流石はすずしー、詳しい……ハッ、もしかしてすずしーと遠月ちゃんって」
「ねえから。付き合ってたら五島に協力しねえから」
「そっか。そうだな」
すぐに納得した様子の皆川は手鏡を取り出して髪をセットし始めた。
「なにしてんだ?」
「なにって、今の会話でなにか掴めた気がするからちょっと話しかけてくるんだよ」
「お、おう」
コイツ、行動力だけは凄まじいな。俺も陽キャになるなら見習う必要があるかも。
……しかし、今のアドバイスは初歩中の初歩みたいなもんだが大丈夫だろうか。
意気揚々と遠月の元に向かって行く皆川。
女子たちの会話に入ろうとしたと同時、タイミングよくチャイムが鳴って授業の始まりを告げる。
残念ながら時間切れだ。
だが皆川の表情は落ち込んでいる感じはない。どちらかと言えば、希望に満ち溢れている。
遠月が俺の隣の席に座り、不思議そうな顔で言う。
「皆川くん、なんか話そうとしてたのかな」
「……さあな」
余計なことは言えないのでここでは誤魔化しておく。
次の授業の教科書を準備していると、遠月が喋りかけてくる。
「あ、鈴城くん。また今度本屋行こうよ」
「本屋?」
「うん、もう全部読み終わっちゃったから」
今日は火曜日。
日曜、月曜で十数冊あったラノベと漫画を読み切ったと? それは流石にハマり過ぎではないだろうか。
俺としては遠月とまた買い物デートできるなら願ったり叶ったり。寧ろこちらからお願いするレベル。
「俺はいつでもいいよ」
「おっけー、じゃあ決まりね」
ふと頭の中に五島から協力しろ、と言われたこと言葉が過る。
こちらからあまり仕掛けたくはなかったが、少しくらいならいいだろう。
「遠月って好きな奴とかいるのか?」
どく、ドクっと心臓の鼓動が波打つように変化していく。別に俺の名前が出るわけじゃないのに、何か変な期待めいたものがある。
ちらちらと周りを気にする様子の遠月。
ふぅーっと静かに息を吐いてちょいちょいと俺を呼びよせる。
そしてそっと耳打ちをする。
「あまおしの甘実プリンちゃん! ほっんとサイコーに可愛いの」
どうやら皆川の恋が実ることはないようです。
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