8話 デート②
それから漫画コーナーにも寄って本屋を出た。
遠月は十数冊ほどラノベと漫画を買っていたが、もっと買いたがっている様子だった。
「今から本屋戻るか?」
「いや平気。これ以上買ったら重くて持って帰れないし」
俺が家まで持っていこうか、というとてもキモイセリフが浮かんできたが、口に出すのはギリギリで防いだ。
遠月は俺の方を向いてにこっと笑う。
「今度は鈴城くんの買い物に付き合おう」
遠月と買い物デートできることは有難いが、買いたい物とか何もない。強いて言うなら、服とかか。
でも着ていく機会なんてゼロに等しいし、その金あるならゲームに課金した方がマシと思ってしまう。
「どうかしたの」
「喫茶店でも行って休憩とか、どう?」
なんとか絞り出して出た結論。
喫茶店ならそこまでお金を使わず、遠月とも一緒にいられる。我ながらなかなかいいアイデアだと思う。
「そうしよっか」
遠月の了承を得て、喫茶店に向かう。
コーヒーを買って俺は席に座る。
土曜ってこともあり、思ってたより喫茶店は混んでいた。
周りには若いカップルなども多くいて、俺と遠月も他からどう見えているのか、なんて妄想をしてしまう。
「鈴城くん、立花ちゃんとは最近どうなの。上手くいってる?」
いきなりその質問はなかなか辛いものがある。
取り敢えず、さっさと誤解を解かないと面倒なことになりそうだ。
「あのな、俺は立花のことが好きじゃない、寧ろ嫌いだから」
「なるほど、照れ隠しってやつだね」
「初対面の人間より心の距離が離れてるわけ」
「嫌も嫌も好きのうち、と」
……ダメだ。
何言っても全く受け入れてもらえない。遠月は自分のミスを意地でも認めないって性質なのか。
ニコニコと笑顔を振りまいている遠月を見て、俺は半ば諦めモードに入る。
「つーか、立花って彼氏いるだろ」
あいつも結構モテる。
中学の時は彼氏いなかった記憶があるが、高校に入ったら流石に一人や二人できているだろう。
「えぇ、いるの!?」
「鵜飼だっけ? あいつと二人で飯食ってたりしてたし」
鵜飼が彼氏だとしたらちょっと残念だ。鵜飼には申し訳ないが、もうちょっとイケメン捕まえられるはずだ。
あぁ、うん、立花が可愛いことは否定しない。
意識を戻して、コーヒーを口に含む。
遠月を見ると、ポチポチと素早いタップ音で何やらスマホを操作していた。
「なにしてんの?」
「あー、えっと立花ちゃんに聞いてるの。ほら」
そう言って見せてきたのはラインのメッセージ画面。俺に見せた瞬間、未読から既読へと移り変わる。
その後、数秒とせずに遠月のスマホに返信がきた。
「よかったね、いないって」
遠月が嬉しそうに告げる。
割とどうでもいい情報だな。
幼馴染に彼氏がいないからなんだよ、って話だ。アイツからは本当に嫌われているし、やり直すのも不可能。付き合うなんて以ての外。
「逆に遠月は彼氏とか、どうなんだ」
「いないいない。急になに」
「いや俺に立花をくっつけようとしているから、遠月は恋愛に興味あるのかなと思って」
そう言うと、遠月はうーんと悩んだ顔をして唸った。
「正直、よくわからない。恋バナとか美咲がしようとするんだけど、なんか全然ピンと来なくてさ」
「それで何かズレてるわけか」
俺へのアドバイスが明らかに恋愛知ってる奴のモノではなかった。
苦笑しながら遠月は言う。
「そういうわけじゃないんだけど。……あ、でも鈴城くんは立花ちゃんとお似合いだと思うよ」
「はいはい、わかったから」
「彼氏かー、……んー、鈴城くんが彼氏とか面白そう」
「……えっ?」
「冗談。言ってみただけだよ」
こうして彼女に振り回される形で俺と遠月のデートは終わった。
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