4話 過去と現在
太陽は完全に沈んで辺りは真っ暗。
立花に呼び出されて俺は公園へとやって来た。
夜九時を過ぎて周りには誰もいない。
「ねえ、どういうつもり」
ベンチに座ってこちらを見上げる立花。おそらく昼のことを言ってるのだろうが、俺に非はない。
「あれはたまたま遠月に誘われて」
「……は? そんなの嘘でしょ」
「いや嘘じゃなくてマジだよ」
信じられない、という目でこちらを見る立花。まあ中学の俺を知っている立花に信じてもらうのは難しい。
「だっておかしいでしょ、遠月さんとアンタが一緒にいるなんて。さぞ迷惑してるんじゃない、こんなのオタクと一緒にいたら勘違いされるもんね」
切れ味鋭い言葉を浴びさせられ、俺は下唇を噛み締めた。
立花の言葉が正解なわけではない、でも間違っていると声を大にして今の俺では言えなかった。
「そうだけど、俺だってあの頃から成長しようとしている。それに遠月はお前なんかと比べて滅茶苦茶優しい」
苦し紛れに言葉を吐き出し、立花の反応を窺った。
ムッとした表情をして何か言いたそうにしている。しかし嫌味の一つも言うことなく、ぷいっとそっぽを向いた。
「とにかく金輪際、私に近づかないで」
そうやって高校一年を過ごしてきたんだ。今更、どうってことはない。
「わかってる」
今回のは事故だし、同じことが起こっても対処できる。
「それから遠月さんとも仲良くすんな」
「あ? それは別にいいだろ」
そこまで言われる筋合いはない。遠月と俺が関わっていようが立花には何の関係もないはずだ。
イラついた様子の立花は気怠そうに言葉を吐き出す。
「アンタの為に言ってあげてるんだけど」
「どういうことだよ」
「だって遠月さんがアンタと会話しているのって絶対無理してるよね。普通に考えてアンタと会話するメリットがないじゃない」
それは違う。
無理していたらあんな純粋な目はしない、それに彼女がオタクについて興味を持っているのは本心だ……と思う。
「心配ご無用、そっちこそ変に首突っ込んでくるなよ」
「わかってるわよ!」
明らかに怒った様子の立花唯香。小学校、中学校と一緒にいれば彼女がどんな気持ちなのか大体わかってしまう。
一呼吸置いてから俺はおもむろに言葉を告げる。
「遠月と喋りたいのか?」
「はっい? べ、別にそんなことないけど」
素っ頓狂な声を上げたがすぐに平静を保つ。なんでもないという顔をしているがその程度で動揺を隠せると思ったのだろうか。
「お前、遠月と喋りたいんだろ」
少しの間があった後、立花は開きなかったような表情をした。
「だとしたら、なに? 別にアンタに関係ないでしょ」
「そうだけどさ、……喋りたいなら喋ればいいだろ」
「はぁ!? アンタはわからないかもしれんけど遠月舞夜ちゃんはそれはもう可愛くて服のセンスがよくてオシャレ。舞夜ちゃんのSNSアカウントなんて何十万もフォロワーがいるんだからね」
えぇ、マジか。
全然知らなかった。確かに彼女はギャルで目立っている、それだけだと思っていたがまさかそんな凄い人物だったとは。
「話しかけるのも勇気がいるの! 嫌われたらどうしよう、とか考えちゃうわけ」
「それは平気だろう。だって」
そこまで言って立花は俺の言葉を遮った。
「わかってる。だってアンタが仲良くなれるんだから誰でも大丈夫でしょ。私なら余裕で仲良くなれるに決まってる」
自信満々の表情で告げた立花は俺の横を通り過ぎる。
「これでもう二度と話すこともないでしょ。お元気で、鈴城くん」
こっちだって立花と話すなんて願い下げだ。話したら話したでどうせ罵倒されるだけだしな。
立花が公園を出て彼女の背中は見えなくなる。
公園で一人になったタイミングで大きなため息を吐いた。
夏が近づいているとはいえ、半袖だと少し肌寒い。
さっさと家に帰ろう。
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