23話 告白と代償
「ぶっちゃっけ誰が告白してきたんだ」
「白石卓也って人なんだけど、知ってんの?」
「いや、知らない」
聞いた事もないな、部活とかやっているのだろうか。……にしても七橋のどこを見て好きになったのだろうか。
「ちょっと、今考えていたこと口に出しなさい」
エスパーかよ。
それともそんな顔に出ていたのか。
一度咳払いしてから俺は改めて七橋の顔を見据える。
「とにかく七橋はどうしたいんだ」
「んー、断ろうとは思ってるわけよ」
浮かない表情で告げる七橋の様子を見て、俺は違和感を覚える。
「じゃあその場で断ればよかっただろ」
「もちろん断ろうとしたんだけど、返事は明日お願いしますって言って帰っちゃったから」
なるほど、そういうパターンもあるのか。
もしかしたら相手の男は七橋が断るのを察知していたのかもしれない。
「……で、今の話のどこに至急の要素があるんだ」
断るって決まっているのに俺を呼び出す必要はない。今のところ告白された私、っていう自慢しか聞いてない。
「あのね、白石ってめちゃくちゃ勉強できるらしいの」
「急になんだ。……まあ、勉強ができるってのは良いじゃないか」
「しかも運動神経もいいの」
「文武両道ってやつか。完璧だな」
あれ、白石って名前……模試かなんかの順位表で見たことがあるような。そいつの顔は未だにピンと来ないが。
「これって付き合うべき?」
「そういう相談!?」
俺が勝手に思ってたのは、告白の断り文句どうすればいいのか、とか相手がしつこく迫ってきて怖い、みたいな感じなんだが。
付き合うかどうかなんて、こんなの答えは一択しかない。
「付き合うべき、だな。友達からでもいいんじゃないか」
今後、七橋を好きになってくれる人物で白石以上の男が出てくることは二度とないかもしれない。こんなチャンス逃したら一生訪れない、それくらいの危機感は師匠の弟子として持ち合わせている。
しかし七橋は途端に弱気な表情へと変わった。
「私じゃ釣り合わないよね」
「相手が好きだって言ってんだから関係ないだろ、いいじゃん付き合えば」
「……ッ! 弟子くんなんか今日はポジティブだな。いいぞ、その調子で私を励ませ」
七橋はキラキラと目を輝かせ、グッと親指を立てた。
褒められているはずなのに、なぜか腹立つんだよな。
まあ七橋が誰かと付き合えば、俺が雑にこき使われることもなくなる。デメリットは一切ない。
「そういや、何で断ろうとしたんだよ。勿体なくね?」
「え、だって好きでもないのに付き合うって面白くないでしょ」
一瞬、七橋がカッコいい存在に見えた。
おそらく俺の恋愛知識が中学生以下だから無意識に負けを認めてしまったのだろう。
「じゃあ付き合わないのか?」
「うーん、どしよ」
「友達からでもいいんじゃないか。無理して付き合ったってすぐ別れるだけだろ」
「そだね。じゃあそーしよっかな」
チラチラと七橋がこちらに視線を送る。まるで何かを訴えかけている、そんな目だ。
「言いたいことでもあるのか?」
「いや、鈴城って彼女いたことあんのかなって」
訝しむような目で見てきた七橋に対し、俺はため息交じりに答えた。
「いないし、いたこともない」
「へぇー、じゃあ私が付き合うってなったらどう思う?」
グイグイと聞いてくる七橋に俺は一つの仮定に辿り着いた。
「え、ちょっと待って。俺がお前のことを好きだとでも思ってるのか?」
「違うの?」
「……あまりにも違い過ぎて、頭の中真っ白になったぞ」
どんだけ自意識過剰なんだよ。
図々しいにも程があるだろ。
「じゃあ好きになってよ」
「遂に脳を失くしたか。そんな台詞、ドラマですらなかなか聞かないぞ」
「あんたと白石が私を奪い合うってなんかロマンチックじゃない?」
やはりコイツは大バカだ。
ファーストフード店を出て、俺と七橋は駅の方へ歩こうとする。
と同じように店から歩き出した二人の女の子。
遠月と藤宮の姿はすぐにわかった。そして向こうも俺と目が合って立ち止まった。
時が止まったような感覚になって、ぽつりと遠月が呟く。
「なにしてんの?」
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