21話 二人ぶらり
放課後、学校の最寄駅近くの喫茶店。
俺は中へと入り、同じ制服の女子高生を探した。
遠月はすぐ見つかった。
「ちょっと来るの遅れた」
「うん、平気。ほら座って」
そう遠月に促されて俺は席に座る。
顔を上げると、遠月ともう一人女の子がいた。
そのタイミングで遠月が口を開く。
「彼が私と同じクラスで隣の席、そしてオタクの師匠。鈴城優生くんです」
遠月が気合を入れて紹介してくれる。
しかしメガネをかけ、三つ編みの少女はストローを咥えながら呟いた。
「知ってますよ」
「え? 知ってる? そうなの」
困惑した表情の遠月は俺の顔をまじまじと見る。
「うーん、まあそうだな。知り合いではある」
折角、遠月がこういう場を設けてくれたわけだし、少しくらいは乗ってあげてもよかったがそれはもう無理だ。
「え、いつの間に……」
「今日の昼休み、ですよね?」
同意を求めてくる藤宮。
俺は小さく頷いてコーヒーを飲む。
「鈴城くん、もっと早く言ってよ、私がバカみたいじゃん」
「悪い、まさか今日いきなりとは思わなかった」
遠月に喋るタイミングを見計らっていたら放課後になっていて、そのまま今に至る。
「なかなか意気投合しちゃってねぇ、深~くわかり合った仲なのです」
「そうだったか……?」
一方的に本を押し付けられた記憶しかないが、それはわかり合ったと言えるのか。
「わかり合った、ってなにかな」
鋭い目つきでこちらを見た。顔は笑っているのだが、目の奥は笑ってない。
「あのー、遠月さん? なにか誤解してらっしゃいませんか」
「誤解とか別にしてないけど」
そう言いながら疑いの視線で見つめてくる。
一つため息を吐いた後、俺は言葉を吐き出した。
「中庭のベンチで喋っただけだし、深いという言葉を使うほど語り合ったわけでもない。藤宮も変な風に言うな」
ちょっと驚いた顔をした藤宮だが、すぐに笑みがこぼれた。
「ふふっ、必死だね。んまあ、正確なことを言っちゃえば、鈴城さんとはちょっと喋っただけで何かあったわけじゃないから安心していいよ」
「……安心とかそういう話じゃなくて」
遠月はムッとした表情をして顔を逸らした。
それを見た藤宮がニヤッと不敵な笑顔を浮かべる。
「じゃあ鈴城くんと今度、デートでもしちゃおうかな」
遠月が藤宮を見て不機嫌そうな顔をした。
「なんでそうなるの?」
「大丈夫、オタク談義して楽しむだけだから」
「それがダメなの!」
ビシッと言い切った遠月の声はよく響いていた。もしかして遠月は俺と藤宮がデートをすることが嫌だってことじゃ。
実は俺のことが。
「舞夜ちゃん? えっと」
藤宮も戸惑った様子で聞き返した。
スッと遠月の息を吸う音が聞こえる。
「私が危惧していたのはそうやって二人でオタクライフを楽しんで、私を置いてけぼりにしちゃうこと。デートに行くなら私も連れて行って」
……つまり仲間外れが気に食わない、と。
なんだそういうことかよ。
「そうだね、二人より三人の方が楽しいもんね」
「鈴城くんも私を連れて行くこと。わかった!?」
有無を言わさぬ圧力。
俺がこくりと首を縦に振って答えると遠月は満足そうな表情で椅子に座り直す。
「鈴城さんは大変だね」
藤宮の同情含んだ眼差しを送られる。
「いやそれだけオタクに本気で関心を持ってくれてるわけだし、俺は嬉しいよ」
「……まあ確かに。唯香ちゃんも理解してくれるといいんだけど」
それは難しいだろうな。
遠月と藤宮二人で口説いたら、イケるかもしれないけど。でもオタクに理解を持ったところでもうアイツと関係を修復するのは難しいだろうな。
とその時、俺のスマホに一通のメッセージが届いた。
『至急、集合せよ!』
見なかったことにしたいが、既に既読をつけてしまった。
俺は椅子から立ち上がって二人に告げる。
「悪い、俺は帰る」
「ん? いいじゃん、まだお話しようよ」
「ちょっと用事ができた」
読んでいただきありがとうございます。
よろしければ、下にある☆☆☆☆☆から作品への応援お願いいたします。
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!




