2話 なる
「でさ、オタクってなに?」
呆気らかんとした様子で言う遠月。
どうやら本当に隠れオタクってわけじゃないみたいだ。
キラキラとした期待の眼差しを向ける遠月に対し、俺は言葉を濁しながら答える。
「ある特定の分野に特化した人たちのこと」
「へー、なんか思ってたよりカッコいいね」
「逆にどういう印象持ってたの」
恐る恐る尋ねてみた。
オタクという単語を知っているわけだから、どこかで聞いたことはあるのだろう。
遠月はうーんと唸って考えてから、あっと何かを思い出したように言葉を発する。
「美咲たちの話だと、暗くてキモくてダサい? 怖くてアニメとか漫画が好きそう。みたいな感じかな」
それ全部合ってるよ。
……とは言えない。つーかその知識あって何で俺に話しかけてきたし。
「な、なるほど」
「これ絶対違うよね! 香奈とか美咲とか絶対オタクのこと知らないのにここまでバカにするの酷いと思う」
「……そうだね」
心が痛い。
あれ、俺は今からこの娘をオタクにするわけ。
絶対無理だろ。そんなことをすれば確実に俺は嫌われるな。だって遠月の友達が話していることは大体合っている。
つまりいずれバレるということ。
「だから私がオタクになって違うって証明するわけ」
それが話の発端というわけか。
そういうことなら別に本場のオタクにしなくてもいいわけだ。所謂、ファッションオタクというやつ。
「任せておけ、俺が遠月を立派なオタクにしてやる」
「やったー、楽しみ」
笑顔の遠月はワクワクした面持ちでこちらを見た。
「鈴城くんの陽キャ計画に関しては任せてよ」
グッと親指を立てる遠月に対し、俺は一抹の不安を抱いていた。
陽キャになれる、そうさっきは喜んでいたが彼女で大丈夫なのだろうか。
「それでオタクになるにはまず何すればいいの?」
「うーん、好きなものを見つけるとか」
「へー、鈴城くんは何が好きなの」
「俺は……」
そこまで言って言葉を詰まらせた。
このままストレートにアニメや漫画、ゲームと定番メニューを並べたら引いてしまうんじゃないか。
ただこれ以外に好きなモノなんてないわけで、……まあ遠月なら平気か。
そう思っていると、遠月が喋り出す。
「あ、そう言えば昨日持ってた本はどうしたの」
本、あーラノベか。
鞄から昨日と同じラノベを取り出して遠月に見せる。
「これ?」
「そうそれ。可愛いイラストだよね」
俺は遠月にラノベを手渡した。
まじまじと見ながらぺらぺらっとページを捲る。途中途中の挿絵を見ながら楽しそうに眺めていた。
ふと俺の中の記憶がフラッシュバックする。
それは幼馴染にラノベを貸そうとした時の話だ。表紙を一瞥した後、「きもっ」と一言言っていた。
ショック過ぎて今の今まで忘れていた。
だが目の前にいる女の子はそんなことはしない。正に女神だ。
立派なオタクに育てあげたいと思うものの、育成失敗したら幼馴染のようになるかもしれない。それでも俺はこの言葉を言わずにはいられなかった。
「読む?」
読めばわかる。絶対、面白いハマるから。そこまで言うつもりはないが、面白いことを共有することでオタクは一つになれる。
「家で読んでくるから明日返すことになるけど、いい?」
「もちろん平気」
「じゃあお返しに今日は陽キャへのなり方を教えよう」
えっへん、と腰に手をあてて誇らしそうな顔をする遠月。もしかしてそちらの界隈に関しては詳しかったりするのか。
「お願いします」
「テキトーにワーってはしゃいで、ワーって肩組んで写真撮ればいいんだよ」
抽象的過ぎて何一つ理解できなかった。
ただ彼女はこれでどうだ、みたいなドヤ顔で決めているから困る。
変に否定して不機嫌になってオタク嫌い。ってなったらアレだしここは肯定しておこう。
「……お、おう。良い情報をありがとう」
そう言うと、遠月は嬉しそうな笑顔を見せた。
「よかった、これで陽キャになれるね」
もしかして彼女、陽キャって単語を勘違いしてるのではないだろうか。オタクって言葉知らなかったし、間違って覚えされている可能性がある。
まあいいか、こんな美少女と関われている今の状況が陽キャになった瞬間と言えるかもしれない。
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