15話 俺と皆川⑦
遠月と皆川の会話はあまり聞かないようにしてるのだが、聞こえてしまうものは仕方ない。
「でさ、いっくんが笑ってて、サッカー部の奴等も爆笑しててさ」
「へー、すごいね!」
「それから世界史のハゲの授業、あれくそつまんないよねぇー。オレとか五秒で寝ちゃうんだよね」
それは五秒で寝てるからだろ。
もはや授業が面白い、つまらないの領域じゃない。
「へー、すごいね!」
……うーん、ぶっちゃっけ全然盛り上がってねえよ。なんだろうな、あんまし会話が噛み合ってない。
だがここで変に俺が会話に割り込んだところで邪魔するだけだし。いや寧ろ、さらに雰囲気悪くするかもしれない。
傍観者に徹するしかないか。
取り敢えず、皆川はもう少し盛り上がるような会話をしてくれ。
「遠月ちゃんはさ、最近ハマってるものとかある?」
「えっ」
この瞬間、俺の全神経が後ろの会話を聞き取るのに集中する。
ここで遠月がなんて答えるのか、それを聞く義理はあるはずだ。オタクをカミングアウトするのかどうか。
「私は」
「はいはい! 私は最近、置物にハマってるよ! 今日もいっぱい買っちゃたよ」
お前が答えんのかよ!
今、結構盛り上がるきっかけになってたのに何してんだ、この女。
え、もしかしてこの荷物って全部置物か。俺と遠月に見つからなかったらどうやって持って帰るつもりだったんだ。
「ちょっと美咲ぃ、ファミレスここでいい?」
どうやら、ファミレスに到着したみたいだ。
安達が七橋を呼んで、そっちに七橋は行く。声の大きい奴がいなくなり、遠月と皆川に何とも言えない空気が生まれる。
「空いてる?」
「うーん、ちょっと確認してくる」
安達が一人、混み具合を見にファミレスに向かった。
重い荷物を抱えながら、俺は一つため息を吐く。
すると、ちょんちょんと肩を叩かれた。振り返ると、遠月がいて心配そうな目で見てくる。
「大丈夫? その荷物」
「え、ああ、別に平気だけど」
「なんか美咲、鈴城くんにだけ厳しくない?」
遠月はちょっとだけ怒気を含んだ低い声音で言った。なんで七橋に絡まれているか、その経緯を説明すると長くなる。
「あーまあ、ちょっとな」
「なんか怪しい」
じーっとこちらを見つめる遠月。どう躱そうか、チラッと皆川の方を見ると不服そうな顔でこちらを見ていた。
やべ、また遠月と。
皆川に何て説明したらいいんだ。
「どしたの?」
「いや、えっとだな」
何か言おうとするも、うまい返しが出てこない。
皆川は何かを覚悟したような顔をしてゆっくりと俺に近づき、肩を掴んだ。
「すずしー、オレと勝負しろ!」
「……は?」
「勝負ってどういうこと。二人って仲悪いの?」
この状況の原因である遠月は困惑した様子だった。近くで話をしていた五島と七橋も会話を中断してこちらの会話に参加する。
「勝負とか、面白そう。ふっふっふ、私も参加しようかな」
「美咲は黙っておけ。で、どういう状況?」
五島の問いかけに、俺と皆川は互いに目を合わせる。
この場に遠月がいる限り、話すのは難しい。
「おーい、丁度六人席空いてたよ。早く入ろ!」
タイミングよく安達が戻ってきた。
「ちょっと先行っててくれ。男だけの話だ」
五島が安達にそう告げると、彼女は二つ返事で答えて遠月と七橋を連れてファミレスに入って行った。
「で、どういうことなんだ」
もう一度、五島が問いかけた。
皆川は小さく息を吐き、凛とした表情で答える。
「オレはすずしーとここで決着をつける。やっぱり遠月ちゃんはすずしーと喋っている時の方が楽しそうに見えた。だからこそ、今ここですずしーと勝負をして勝ったら告白してみようと思う」
「……本気なんだな」
「いいんだ、オレは勝負に負けても諦められる。勝ってフラれたとしても構わない」
「鈴城、どうなんだ? 勝負を受けるのか、受けないのか」
若干、責任は感じている。
遠月と二人でお出かけしなければ、きちんと作戦を練って皆川と遠月のゴールが見えたかもしれない。
この勝負を受けない理由はない。それがせめてもの皆川への誠意。
「勝負だ、皆川」
「すずしー、ありがとう。勝負内容はいっくん任せたよ!」
「ふっ、わかった。勝負はここファミレスで行おう」
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