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1話 出会い

「ずっとアンタが嫌いだった」


 中学の卒業式、告白しようと呼び出した幼馴染に言われたのがこれだった。

 同じ高校に進学することも決まっていたし、小学校からずっと一緒でこのまま付き合うものだと思っていた。


 どうやら現実は違ったようだ。

 それから幼馴染とは疎遠になり、高校二年になった今も同じ高校ではあるものの会話の一つも発生しない。


 社交的で明るい性格の幼馴染は陽キャグループに所属して元気にやっているようだ。それに比べて、俺は教室の隅でラノベを読んで一人で過ごす毎日を送っている。元から俺と彼女は関わるべきではなかったのかもしれない。


 放課後になり、教室は一気に騒がしくなる。

 部活にいく奴、駄弁る奴、俺は部活にも入ってない。友達もいないので真っすぐ家に帰るだけ。

 椅子を引いて立ち上がり、鞄を持ち上げて肩に担いだ。

 その時、鞄からラノベが飛び出て地面にバサリと落ちる。慌てて拾おうとすると白く細い指が伸びてきた。


「はい、どうぞ」


 俺が落としたラノベを拾った女の子は何の嫌悪感もない顔で手渡してきた。

 拾ったのは隣の席に座る遠月舞夜(とおつきまいや)だ。学年でも有名なギャルの一人で圧倒的陽キャ側の人物、俺とは真逆の存在と言える。

 おそらくラノベ、という単語すら知らないだろう。


「……ありがとう」


 彼女からラノベを手渡され、そそくさと鞄の中へと仕舞う。


「今のって?」


 バカにした様子はなく、単純な興味なのか。

 遠月は小首を傾げて尋ねてきた。

 どう答えるべきか、俺にはわからない。そもそも彼女はどんな返しを期待してこの質問をしているのだろうか。


「しょ、小説」

「そうじゃなくて今の女の子、もの凄く可愛かったね!」

「……俺も可愛い、と思う」


 思わず同意してしまった。

その後すぐにキモかったかも、と脳内で反省会をしていると遠月がキラキラとした目で大きく頷いた。


「だよねっ、他にも可愛い女の子いるの?」

「あ、ああ。いるけど……」


 ここで俺は一つの可能性に辿り着く。

 もしかして彼女は隠れオタクという奴ではないだろうか、それなら全く嫌悪を示さないのも納得がいく。


 でもなんかそんな感じもしないのはなぜだろう。

 無垢なる純粋な瞳というか、何も知らない女の子。いや、それでも彼女がラノベに興味を持ってくれている、それだけでも幸せじゃないか。


 オタク文化は一人でも楽しめるが、仲間と盛り上がっていくこともできる、面白いものは共有していく、そういうのが大切なんだ。 


「興味あるなら貸すけど、どう?」


 俺の出せる限界の力を振り絞って声に出した。

 しかしもうそこに遠月の姿はなかった。

 普段一緒にいる女子たちと楽しそうに会話しており、完全に俺は過去の人となっている。


「……帰るか」



 ◇



 翌日、学校に行くと珍しく遠月が自分の席に座っていた。

 いつもは友達と談笑しにいってるので席でじっとしている姿はほとんど見ない。

 なんとなく不穏な気配を察しながらも俺は椅子に座る。


「おはよ、来るの待ってたよ」


 嬉々とした表情で喋る遠月に戸惑いながら俺は会話をする。


「待ってた?」

「うん、昨日の話がまだ終わってないもん」

「そうだっけか」


 もちろん覚えている。

だが敢えてわからないフリをした。

万が一、ラノベの話じゃなかったらもの凄い恥になるからだ。


「で、一つ思ったんだけどさ」


 ごくりと固唾を飲み込み、遠月を待つ。


「私をオタクにしてくれない?」

「は?」


 思っていたのと違う遠月の言葉に思わず本音が漏れてしまった。遠月は少し照れた笑みを見せながら言葉を続ける。


「その代わり、鈴城優生くん、あなたを陽キャにしてあげる」


 正直、何を言ってるのか理解できなかったが俺は反射的に頷いた。


「ぜひお願いします」


 どうやら神は俺を見放していなかったようだ。

 これで俺の学校生活が少しでも変わっていく、そう確信していた。


読んでいただきありがとうございます。


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正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

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