三話
「ふー食った食った」
店内に入った俺は一通り食べたいものを食べて、帰る事にした。
低価格かつ高水準のパスタをオールウェイズ出してくれるのはとてもありがたい。
「ごちそうさまでした」
店員さんからの返事を背中に受けながら俺は帰り道へと向かう。今日は非常に素晴らしい一日だった!これでまた明日からの学業にも頑張れるってもんだ。
「おっと…ごめんなさい」
少し意識が外に向いていたせいか前から来ていた人にぶつかってしまった様だ。咄嗟に謝罪する。
「すみません…あれ?なぜあなたがここに?」
ぶつかった相手の声が響いてきた。ん?なんだか聞いたことあるような声だな…ってせなっちじゃねえか!ファンとしてはラッキーアイムハッピー!
「おぉ奇遇だな。ご飯食べてたんだよ」
なんか素っ気ないというか、嬉しい気持ちを出し切れない感じの受け答えになってしまった。
因みに、ここはライブ会場から遠く離れているというわけでは無いが、ライブは既に終わり二時間以上が経過している。せなっちが何も無いのに会場から少し離れた位置でぶらぶらしているとは考え辛い。
「あ、ごめんなさい私急ぎだから」
「あ、ああ」
やはりなんか用事があったんだな。情け無い感じの返事になってしまったのが悔やまれる。
「ん?せなっち何か落としたよ…?ってあれ」
せなっちが俺の横を通り過ぎたと思ったら、ぱたっと何かが落ちるような音がした。明らかにせなっちが落とした物だ。しかし、余程急いでいたのかもうせなっちの姿は無くなっていた。
「ん~まあ公式ホームページから事務所に電話してみるか…」
せなっちの落とした物を拾おうとしゃがんでみると何やら手帳の様な物である事が分かった。仕事の物だったら大変である。早めに渡してあげないと。
ん?いや学生手帳ってなってるな。…え?ていうかウチの、相沢高校の学生手帳じゃねえか!
おいおい…同じ学校に推しのアイドルとかどんなラノベだよっての!はは!
少し取り乱してしまった。
しかしこれなら簡単だ。わざわざ事務所に行って届けなくても良い。直接渡しに行けば良いからな!いや待て。それは良く無いかも知れない。ファンがアイドルの私的エリアに踏み込んでしまうのは宜しく無い。ここは職員室に届けるのが一番無難である。
よしっとしっかり拾って…え?
実は落ちた拍子にページが開かれてしまって居たようで、俺はその開かれていたページを見てしまった。しかも、そのページは氏名がのっているページでだ…
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
※
翌日、つつがなくまたいつもの様に極めて冷静に登校した。
しかし何というか体が重い。それは月曜日特有のアレ的なあれというのもあるのだが明らかに寝不足のせいであった。
「おはよう佐久間くん」
着席するや否や隣から挨拶された。既に登校していたが何処かに行っていたのだろう。
「…おはよう」
「あれ?寝不足?」
「いや、まあちょっとね」
うん。まあちょっとね。はは!
「悩み事?それとも病気?」
古河さんは心配そうだ。
「まあ少し考え事してたら、気がついたら寝不足になってたという感じですね。はい」
いつもより挙動不審な俺の言動に、古河さんは少し訝しげな表情を浮かべている。
しかしすぐにいつもの表情、というよりは少し困ったような表情を浮かべた…
「聞きたいことがあるんだけど…実は生徒手帳を落としてしまって…」
デスヨネーそうですよねーそれ聞きますよねー
「家を探したけれど見つからなかったの…」
そらあそうよ!
俺持ってるもん!きみの生徒手帳!!
せなっちが落とした生徒手帳の名前『古河瀬名』だったもん!!
もうパニックだよ!昨日も寝れなかったよ君のせいだよ!何なんだようぉい!
この胸のドキドキはまさか恋…!?で有るはずも無く。単純に動悸がやべぇって事です。なんて言って渡せばええんや…?これぇ…
まあ、普通に渡せばいいっちゃ良いんだが、拾った状況が特殊過ぎる。
あの状況…せなっち、つまりReal girlsのセナが古河さんであることは確定している。しかしながらよく考えてもみて欲しい。古河さんは全く芸能人、ましてや人気急上昇中アイドルであることなど周囲に気づかれていないどころか、Real girlsオタクの五郎すらも1mmも気づかれていない。完璧なカムフラァージュをしながら学生生活を送っているということ。
そこから導き出される答えは──
──古河瀬名は自らがアイドルである事がバレたくない…!
理由はいろいろあるんだろうが、ともかく隠しているという事実が大事なのだ…
「いつ落としたのか見当もつかないのだけれど、佐久間くんもし見つけたら教えて欲しいの」
しかしまてよ。いつ落としたのか分からないのであれば話は変わるな。現時点では全ての状況を握っているのは俺だけということだ。いつ落としたのか分からないなら、俺が拾ったのは高校で拾った事にしてしまえば良いのだ。そっちの方が色々と古河さんに気を遣わせなくて済む。
「じつは俺も古河さんに用事があったんだ」
「それは…」
そういって俺は生徒手帳を手渡す。
「じつは古河さんの生徒手帳、廊下に落ちてたから今日渡そうと思ってたんだよ」
「そうなんだ。ありがとう佐久間くん」
そう言うと古河さんは微笑んで受け取った。まあいいのだ。これは嘘も方便という奴なのだ。廊下で拾ったか道端で拾ったかはどうでも良いのだ。
「…やっぱり君は優しいね」
「…?なにか言った?最近耳が遠くてのぉ~」
「ふふっ…何でも無いよ佐久間くん。あとまだあなた耳が遠くなる様な年じゃないでしょ」
「そうか?」
うん。まあいつもの感じになったかな。これにてこの件は一件落着やな!!
今日は早めに寝よう…はぁ…




