「地獄の果てでも良いから一緒に居たい」って言ったけどホントにするなんて頭おかしいんじゃない?
「やあ、アリサ。ようこそ、俺たちの国へ」
全く見覚えのない、赤と黒の荒涼とした大地。
そこにそびえ立つ、巨大な漆黒の山城。
大きく開かれた門のど真ん中で、とびきりの笑顔を向けてくれるのは、つい先程今生の別れを告げたばかりの最愛の彼。
いや、確かに言ったよ?
『地獄の果てでも良いから、一緒に居たかった』って。
でもそれは、比喩的表現なわけで、本当に地獄に行きたいとかそういう訳じゃあないわけよ。
「どういう……こと?」
「だって、アリサはようやく願ってくれたじゃないか。《地獄へ行きたい》って」
「そうじゃないと思うんだけど」
状況がさっぱり分からなくて、ただ呆然とするしかない私に、やけに上機嫌な彼が語り続ける。
「アリサは本来、《魔神の最愛》という運命を背負って産まれてきたんだ。
それなのに、ニンゲンごときに奪われてしまった」
「奪われた、って言うけれど、無理して獲ったのなら、何であんなに酷い扱いだったのよ?」
公爵家の養子と、身分だけは高かったものの、最低限生きていられただけで、後は常に迫害されて生きてきた。
閉じ込められ、暴力を振るわれ、無理やりに働かされて。誰にも必要とされず、ただ辛いだけの日々。
「そりゃあそうだよ。アリサは《魔神の最愛》なんだから、ニンゲンにとっては恐ろしいんだ。だけど、手放すこともまた恐ろしい。
結果的に、アリサを虐げながらも手元に置くしか出来なかった」
「なら、もっと早くに助けてくれれば」
「俺たち『神』は、願われたことしか実行出来ない。どれだけ俺がアリサを渇望しようとも、アリサが俺と地獄を望んでくれなければ、手を出せないんだ」
確かに、それは常識だ。
神は全てのことを実現出来るけれど、唯一自分の望みだけは自由に出来ない。そんな枷を背負った存在。
「だけど、アリサは望んでくれた。だからもう、俺は、アリサを自由にできるんだ」
歌うように言う彼は本当に幸せそうだけれど、その笑みは魔神の名に相応しい、見る者に問答無用の恐怖を与えるようなものだと思う。
その笑顔を全く怖いと思わない私は、やはり彼のための運命を背負ったという《魔神の最愛》に相応しいのだろうと素直に思えた。
「ねぇ、アリサ。俺に、何を望んでくれる?」
嬉々として問う彼は、私には無邪気に見える笑顔を浮かべている。
だけど、その本性は魔神そのもの。
「何を望もうかしら」
「何だって言ってくれればいい。手始めに、アリサを虐めた奴らを全員ぶっ殺そうか?」
「それも、いいかもしれないわね」
ーー何気なく言ったことが実行されると分かった上で、薄く嗤いながらそう言えるアリサは、紛れもなく《魔神の最愛》に相応しい存在だった。
ありがとうございました。
ただ今日間ランキングに『長く連れ添っているあなたは空気と同じ。だから、いなくなったら生きていけないの。』がランクイン中です。合わせてよろしくお願いいたします。