後編
「命殿、休んでおれ」
勝手に口が動き自分の意思とは関係なく発語する。意識は先程よりはっきりとしてきたが身体は動かない。
まるで誰かに操られている様な。
「あなた、命ちゃんじゃ無いわね。命ち"ゃんを返じでッ"!」
輝星は別人かのようなドスの聞いた大声を出す。
「お主、命殿の友人ではないのか! なぜ襲う!」
輝星は蟻を纏った腕で殴り付けてくるが、刀を盾に防御する。
「アンタの中にいるんでしょ! 命を返しなさい!」
輝星の攻撃は激しさを増し、胸部へ直撃した。
「うぬッ!」
後ろへ大きくステップし距離を取る。
「命殿、すまない。やむを得ないようだ」
刃を一度鞘に入れ、構える。
「何をするのかしら」
輝星が喋るその瞬間、抜刀し紫色の閃光が彼女の右腕を斬り飛ばした。
「あ"あ"あ"あ"あ"!」
彼女の悲痛な叫びが響く。創部からは血液の様に無数の蟻達が飛び散って行く。
「お主、もう一度問う。なぜ命殿を攻撃する?」
「あ"あ"あ"あ"! アハハ。なんちゃって」
腕の断面からは蟻達が腕の形を模し、再生した。
「良いわ、教えてあげる。命はね、裏切ったのよ! 足が不自由な私を連れ出してくれると思ってた! ずっと待ってたのに!」
『私はそんなつもりじゃ!』
「でもね、クラウン様は違った。私に力をくれたわ」
「クラウン、其奴が元凶か」
「それでね、澤城家の恥扱いした、あのクソ親をまず殺したわ。この力でね。気分が良かったわぁ~」
「なんと酷い!」
「寄生した蟻達がね、沢山増えてクソ親から出てくるの! その子達が私の力になる。最高じゃない?」
鎧から熱を感じる。ミカヅチの熱い魂の鼓動を。
「許せんッ! いくらなんでも! 両親を手にかけるなど!」
「アンタこそ何者なのよ。命は私が愛してあげようとしてたのに」
「拙者はミカヅチ。この刀に宿るAiである。命殿の危機を見捨てられずには居られなかった!」
「Ai? 機械ごときが楯突かないでくれる?」
きっと言葉なんか、彼女にはもう届かないだろう。人間の心を無くしてしまっている。けど少しでも可能性があるなら......
『お願いミカヅチ、彼女を止めて......』
「いかにも、そのために拙者は来た」
「うるさいわね」
輝星は両手から無数の蟻を飛ばす。刀を振るうが全てを撃ち落とせずミカヅチの身体に纏わりつく。
「重い! 身体が思うように動かん!」
小さな蟻だが拘束されたように手足の自由が利かない。
「この鎧の中に命はいるんでしょ?」
彼女は近付き、仮面に手を当て剥がそうとする。
「うぬぬ! 手足が動かん!」
「命、貴方が悪いんだからね」
「このままではッ......!」
『私が輝星が狂わせたの? 私のせいで......』
「命殿のせいではない。クラウンとやらが彼女を狂わせた! 我らが止めるしかないぞ!」
私達が止める......。
「命殿なら彼女止めれる! 拙者は信じておるぞ!」
迷っちゃダメだ。友達を救う。
『行くよミカヅチ!』
「待っていたぞ、その思い!」
全身が発光し、空気が震える。
「何が起きたの! 蟻達が降りほどかれた!?」
ミカヅチと心が重なった感覚。奥底から力が涌き出てくる。
「ありがとう、命殿。行くぞ!」
刀を構えると、輝星は蟻を垂直に繋ぎ剣の様に持った。刃がぶつかり合う。蟻の剣は見た目以上に固く鋭い。
「それでも、その程度かしら貴方達は」
彼女はさらに蟻の剣を作り出した。二刀流の剣捌きに仮面を捕らえられる。
「ちゃんと中身は命ちゃんだね」
仮面の一部を切り裂かれた。
「命殿ッ!」
『私は大丈夫!』
「ならば、出し惜しみはせん!」
ミカヅチが叫ぶと身体から二体の幻影が出現し輝星をはね除け囲んだ。
「覚悟!」
狙いを定め瞬間移動し彼女の腕を切り裂く。そして一体目の幻影と重なりさらに追撃する。
「何、この力は!? この私が、アンタなんかに!」
輝星は無数の蟻を撒き散らし体勢を崩す。
「この一撃で!」
二体目の分身と重なり狙いを定める。瞬間移動し輝星の頚部を狙う。その時、遠くで爆発音が聞こえた。
『自爆装置が起動されました。避難してください』
研究所の警告音が鳴る。
「あの研究者共め。まぁ助かったわ。命ちゃん、また会いましょう」
輝星は身体を蟻へ分解し宙を浮き、その場を離れた。
「我らも逃げるぞ!」
私達も後を追い、研究所から脱出した。
気づけば目の前には海が広がり見知らぬ浜辺にいる。そして、鎧が解かれ感覚が完全に戻る。
「ハァハァ、戻った!」
ずっと深い眠りに落ち、夢を見ているようだった。深呼吸を行い精神を整える。
「いきなり身体を乗っ取ってしまい、すまない」
何処からか声がする。気が付くと右手には先ほどの刀が握られている。
「あなたがミカヅチ?」
「改めて、宜しくお願いいたす。命殿」
刀から言葉が伝わる、不思議な感覚。
「こちらこそ初めまして。助けてくれてありがとう」
「お怪我は無いか?」
「大丈夫ありがとう。あなたが居なきゃ死んでたね」
「滅相もない。命殿が無事で良かった」
彼、ミカヅチはあの施設で作られた機械の刀だと言う。Aiが搭載されていたが、自我が芽生え私の所に飛んできたらしい。所持者に力を与える能力があり、鎧を纏うのはその一つだと。
「輝星はまだ生きているんだよね」
「左様。あの場を去ったのが見えた」
「そっか」
旧友があんなことを思っているなんて、考えもしなかった。彼女の苦しみを理解せず、ただ私の自己満足で接していた。そして、私はいつの日からか彼女のことを忘れてしまっていた。
「ミカヅチ。一緒に輝星を止めてくれる......?」
「無論、共に彼女を止めよう。そのために私はお主を選んだ」
「ありがとう、ミカヅチ」
私が彼女を悪魔にした原因なら必ず止めてみせる。強くミカヅチを握り絞めると呼応するように輝いた。