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黎命のミカヅチ  作者: Sangomiya
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前編

 あの日は今でもはっきりと覚えてる。人生で最悪の誕生日だったから。




「では、鳴神 命(ナルカミ メイ)さん。当病院への志望動機を教えて下さい」


 今、私は入社面接を受けている。安定していると言う点で看護師を目指した。死に物狂いで学生生活を送ってきたせいで、昔は人のために働きたいなんて考えていたけど、そんな気持ち置いてきちゃったな。


 なんてことを考えながら質問に答える。


「はい。貴院では、高度な看護技術を学べると感じかたからです」


「わかりました。では......」


「はい、それに関しては......」


 何度も練習した面接におけるテンプレ台詞を吐き面接は終わった。短い時間だが疲労感がどっしりと重く、のし掛かる。病院を出ると明るく青空が広がっていた。爽やかに吹く風、解放感が心地よい。


「あの子と最後に話した日もこんな青空だったな......」


 面接中に小学生の頃、足が不自由な女子友達が居たことを思い出した。車椅子生活をしており学生生活を手伝っていたな。あの子との出会いが看護師への道に進むきっかけだった。


 中学生になり別々の学校に進学したためそれから疎遠になってしまった。


「元気にしてるかな......」


 面接も終わり帰る先はアパート。看護学校が実家から遠いため一人暮らし生活中である。髪を結んでいるリボンをほどき、すぐにベッドに倒れこむ。家事をしなきゃいけないけど面倒臭い。


 TVをつけると、北区での大型動物による災害の話しで持ちきりだ。青いロボットが事件を終息させたなんて噂があるけど、疲れすぎてどうでもいい。


「そういえば明日、誕生日か......」


 ふと思い出したがそれらしいことは何も考えてない。国家試験もあるし、卒業研究もまとめないと。


「はぁー」


 深くため息をつくと、見知らぬ番号の電話が掛かってきた。誰だろう?


「もしもし」


「お久しぶりです。澤城輝星(サワシロキラリ)です」


「え」


 一瞬誰だか分からなかったが聞き覚えのある透き通る声。面接の時に思い出した、足の不自由な女の子だ。


「いきなりごめんなさい。覚えてますか?」


輝星(キラリ)ちゃんだよね?」


「覚えてくれてたんですね! 嬉しいです!」


 懐かしい声が耳に響き渡る。


「どうしたの急に?」


「私ね歩けるようになったのよ! だから命ちゃんに会ってお話しがしたくて!」


 いきなりの発言に戸惑う。


「え?」


「明日、私の家に来て! 待ってるから」


「あ、明日!?」


 いきなりの展開に整理が追い付かなかったが旧友に会えるうれしさで胸がいっぱいだった。彼女の家は引っ越ししてなければ実家から近い。今日は準備をしてすぐ寝よう。明日は休みだ。


「楽しみだな」


 夜が明け、電車に乗り地元に戻る。


「久しぶりだけど、何も変わってないな~」


 一度荷物を実家に預け、輝星の家に向かう。記憶からは薄れているが彼女の家は豪邸、近くに行けばすぐに分かるだろう。 


「ここだね」


 家を囲む壁をつたって行くと門が見えた。インターホンが鳴らすと輝星が出た。


「命ちゃん来てくれたんだ! 今開けるね」


 ガチャと音が鳴り門を押すと開いた。


「大きな庭~」


 とても綺麗にガーデニングされた庭に圧倒される。その中にコンクリートの道が家まで続いており、玄関の前に立つと輝星がドアを開けた。


輝星(キラリ)ちゃん! 久しぶ......り......?」


 後ろから頭を何かで殴られた。


(メイ)ちゃん、ごめんね......」




 気がつくと椅子に座らされ、両手両足は椅子から出た機械のアームで拘束されている。辺りを見渡すと真っ白な無機質な部屋、気分が悪い。


「な、何これ......」


 身体を動かし、もがくがほどけない。


「主任、ターゲットが覚醒しました」


「よし、ヤツを出せ」


 部屋全体に男性の声が伝わる。顔を上げるとガラス張りの部屋が見え研究者の様な人物が見える。声は彼らだろう。


「誰なの......?」


『ウィーン』


 前方で機械音が鳴った。視線を向けると壁の一部が開き車椅子に乗った輝星が出てきた。


「改めて、命ちゃん。お久しぶりです」


「輝星ちゃん......!?」


 白いワンピースと茶髪のゆるふわなポニーテールが良く似合う。こんな時でもそんなことを感じてしまう程、昔から変わらずの美少女。


「私ね、生まれ変わったんだよ」


 彼女はそう言うと車椅子から立ち上がった。


「どうしたの......? その足......」


「すごいでしょ! これ! ある方にね、手術をして貰ったんです!」


「ある方......?」


 輝星はゆっくりと足を前に進める。以前の彼女には無いプレッシャーを放つ。


「実験を開始する。やれ」


 また男性の声だ。実験? 


「命ちゃんは知らなかったですよね。手術ってのはね、特殊な蟻を私の身体に埋め込んで貰ったんです!」


「何を言って......?」


「その蟻の力で立つことができました」


 全身に巡る特殊な蟻が体力を強化していると輝星は言う。


「じゃあ、見てて下さい」


 そう言うと輝星の全身から蟻が肉を破り出現し、彼女の身体を覆い蠢く(うごめく)漆黒の鎧と化した。


「この子達はね、他の人間に寄生して数を増やすの。命ちゃんには、その役目になってもらいますね」


 近くまできた輝星が私の顔に手を伸ばす。


「や、やめて......」


「大丈夫、怖くないよ。私の一部になるだけだから」


「どうしちゃったの! 輝星ちゃん!」


 私が叫ぶのと同時に研究者がいた部屋のガラス張りが割れた。何かの光が私の元に飛んでくる。


「主任! これは!」


「ほう。ミカヅチが被験者に反応したか。これは良いデータが取れそうだ」


「逃げましょう!」


 紫色の光が目の前に落ち、その中から床に刺さった刀が見えた。その影響で椅子は故障し拘束アームが外れている。


「命ちゃん私と遊びましょ」


 一度距離を置いた輝星はすぐに接近し怯むことなく手を伸ばす。私は本能的に刀を掴み鞘から刃を引き抜いた。


 頭の中に流れ込んでくる、見知らぬ記憶。


「反旗を翻した超獣を......処刑するための......兵器」


 紫色の煙が纏わり付き、重い鎧の様なものが身に付いていくのがわかった。


 意識が遠退いていく中、誰かの声がした。誰かが私の中に居る。


『貴方は誰?』


 重い鎧をものともせず身体は勝手に動き、モンスターと化した輝星(キラリ)へ刃を向ける。


「拙者の名はミカズチ。命殿、助太刀致す」


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