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野獣がその場に崩れ落ちる
燃える炎はまだ上がっているがピクリともしない野獣
それは戦闘が終わったことを証明していて
「たおした…?」
フィオネのこぼした言葉がやけに大きく聞こえた
みんなが土で汚れていて一目でボロボロとわかる俺達だった
俺は細かい傷だけだが
「フィオネ、ジンフィード無事か?」
対してふたりは
「…危なかったけど、大丈夫」
「…なんとかな」
気丈に笑っているがフィオネは足を引きずり、ジンフィードは頭から出血している
手当てしようとすると
「俺は切っただけだがフィオネは足だ。そっち手伝ってやれ」
と布を傷口に押し当てて血を拭っていた
あんなふっとばされてそれだけじゃ済まないだろうにと内心思っていると手でさっさと行けと追い払われてしまった
苦笑しフィオネに向き合う
「い、いやひねっただけだからそこまでじゃ」
遠慮するフィオネは後ろに下がろうとして痛みに顔をしかめる
「ほら、痛いだろ無理するな」
「う、ゴメン」
地面に座らせ患部を出していく
赤く腫れている、ここでは冷やすのは無理だな
周囲から丁度良い長さの枝を拾いあてる。そのまま枝を左右に添え固定していく
「ごめんね、僕まだ回復術使えないから…できたらよかったんだけど…」
「気にするな。俺からしたら今でもすごいよ」
「あ、ゴメン……そういうつもりじゃなくて…」
「あー、そうじゃない!とにかく気に病むな!…な?」
落ち込ませてしまったフィオネに慌てて否定する
失敗したどうも俺はこういうのが出来ない
焦る俺がワタワタしていると後ろから小突かれる
「まーたやってんのかおまえらは!いい加減やめろ!!」
「「ご、ごめんなさい」」
手当てを終えたジンフィードが立っていた
その頭には出血を止めるために布が巻かれていた
「んでどーするよ?この野獣」
指さす向こうにはすでに火がおさまり消えていた
野獣の毛はもはや焼かれて野獣の全体が黒く焼けていた
「一応確認してから処分、の方がいいとは思うが…こんな大きさじゃ運ぶなんてできないな」
「…一旦村に戻って代表に来てもらうか」
「…その方がいいかもね、僕たちもこんなんだし」
ハハハと乾いた笑いをするフィオネ
それにつられて俺とジンフィードも笑い出す
ひとしきり笑い合い
「でも…本当に無事でよかった」
「…どうなるかと思ったが、なんとか倒せてよかったぜ」
「そーだね、倒せてよかった…」
風が流れる
それは焦げ臭かったが俺達にとっては心地の良い風に感じた
討伐したと実感させるその風は戦闘で強張っていた体を和らげてくれていた
すこしだけ軽くなった気のする身を起こし
「…そろそろ戻ろうか」
と手を差し出す
気恥ずかし気なフィオネが手を取り立ち上がるのを支える
歩けないフィオネに肩を貸す
それにごめんと謝るフィオネに大丈夫だと返す
そうして村に戻ろうと踏み出そうとして足を前に
出せなかった
目の前に大きい何かがいた
白いそれはさきほどの野獣よりも大きかった
そいつはじっと俺達を見ていた
とっさにフィオネを抱え走り出す
ヴゥゥヴガアアアアアアアアアアアァァァァァァアアアアア!!!!!!!!!!
咆哮だ
あの咆哮だ
あの村で聞いた咆哮だ
枝が頬を切りつけるのを気にせずに逃げる
あれはまずい
さっきの野獣よりも大きい
ましてや俺達は傷だらけのこんな状況だ
走る
背後から音が聞こえる
バキバキと枝をへし折り向かってくる音がする
ずるずると引きずる音はあの大きな体を引きずって俺達を追いかけている
上から森の木々がざわめく音がする
走る
足元の草がやけに大きく茂って進みずらくもつれそうになるが足を踏ん張る
視界の端で枝が、草が、蔦がが大きくなっている気がする
後ろなんて振り返る余裕もなく森の中を走り逃げる
走る
走り続けた先は
「行き止まりかよっ!!!」
深い谷がのぞく崖になっていた
落ちたらひとたまりもないほどの深い谷は底が暗く見えない
他に道はなくあるのは背後の森
「ジンフィード!頼む!」
「え、」
抱えたフィオネをジンフィードに押し付け剣を構える
なんとかフィオネを受け止めたジンフィードは剣を構える様子をみて
「おい!なにやってんだ!まさかお前っ!!」
怒鳴るジンフィードに俺は落ち着いて話す
「俺が引き付けるからお前たちは隙を見て逃げろ」
「だ、だめだよ!そんなこと!」
叫ぶフィオネ
その顔色は悪く青い
「俺はお前たちと違って軽症だ、ならまだどうにかできる」
「しんじゃうよ!!」
「死ぬつもりはない、俺も期を見て離脱する」
「だけどっ!!!」
そうこしているうちにそいつが姿を現す
「頼む」
人の手のような腕を地面につかせ体を引きずる
追いかけてきた時とは違いゆっくりとこちらに近づいてくるそいつは俺達の出方をうかがっているようだった
シュウウゥゥゥゥゥウ
漏らす声は低くその喉を揺らすと同時に揺れる体は丸みを帯びていてやわらかく弾力のある皮膚は白くひどく不気味だ
足が竦む
でも、二人を逃がすにはそうしていられない
剣を構え突っ込む
そいつは俺を体を横に転げ避ける
加えて追撃を食らわせていくと嫌がるように手を身を守るように庇わせる
「行け!」
「すまん」
横抜けて行くジンフィードはそのまま駆けて行く
「いや、いやだ!!カラト!!カラト!!!!!」
そのまま二人は森の中に消えていく
いやだいやだと暴れるフィオネを抱えるのは大変だろうがあいつなら大丈夫だろ
目の前のそいつは抜けて行ったジンフィード達を見て手を伸ばす
剣で叩き落とし行く手を阻む
背を森に向け立ちはだかる俺はそいつにとっては何とも小さいことだろう
そうだとしても
「ここから先にはいかせない」




