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野獣は頭を低くするとそのまま突進してきた
身体を傾かせて走るその姿は歪で突進の走りは遅く片側の大きな足がうまく動かせないようだった
足音から重量を感じさせる突進は拍子抜けするほどゆっくりとしたもので、俺達は危なげなく左右に跳び避ける
避けるすれ違いざまに剣で切り付ける
浅いが斬れる!!
突進してきた野獣はそののまま木にぶつかりぶつかった木は無残に折れる
折れた木を見てやっぱりこいつだと確信する
ここまで来るときにあったあの木はこうしてできたんだと
「お願い!フォロシー!!」
「こい!レティ!!」
ふたりが精霊を呼び出す
白い狐と赤い虎がそれぞれの傍に顕現する
フィオネの呼び出した白い狐はその足元に控えじっと野獣を見据えジンフィードの呼び出した赤い虎は前に構え今にもとびかかりそうに身を低くして野獣を睨む
その間野獣は上手く立てないのか蹲り、うなり声を上げ足をばたつかせる
そうしてしばらくの後野獣がやっと立ち上がる
フラフラと大きな身体を揺らすようにしてこちらに振り向く
漏らす息は荒く、興奮してギラギラとした目をしている
「あれにぶつかったらひとたまりもねーぞ!」
「心配だったが浅いが剣が通った、なんとか通用するようだ!」
低く構え再び突進してくる
避けるすれ違いざまに剣を振るう
先程よりは剣が入ったがまだ浅い
野獣の毛皮が厚く剣が入りにくい。なら
「俺が引き付ける!その間に頼む!」
突進直後の蹲る野獣に剣を振るう
たいしてダメージは与えてはいないが無いよりはましだ
ブギイイイィィイイ!!!
甲高い声をあげて突進を繰り返す野獣はかぶりを振る
でたらめに頭を振り回す野獣は涎をとばす
「援護するよ!かのものに力を!"ストレングス"!!」
自分の体に淡い光が灯る
それと同時に力が湧いてくるのを感じる
牙の小さいほうに避け、体に剣を突き刺す
毛皮に阻まれることなく深く、深く突き刺した剣は抜くと多くの血を噴出した
痛みにもがく野獣は声を上げ足を止める
「炎よ!燃え上がれ!"フレイム"!!」
隙を見逃さず炎を発生させ野獣を燃やす
火に囲まれた野獣は逃れようと踠くもそのまま炎包まれ激しく体を震わせ暴れだす
野獣の毛皮は火に焼かれ赤茶の毛を黒く色を変えていく
足をばたつかせ地面に身体をこすりつけ火を消そうともがく
身を低くしたその隙に剣を振り下ろし耳を斬り飛ばす。続けて野獣の腹に斬りつける
腹に斜めに入った傷から血が溢れ、大きな声を上げる野獣は勢いよく体を回転させ
「あ、」
「避けろ!っ!!」
振りあげた大足をうしろにいたフィオネにたたきつける
同時に近くにいた俺を体当たりでとばし離れさせる
大きな音と土埃を上げる
地面は砕け細かい石が散らばる
「フィオネ!!」
俺は大丈夫だがフィオネは?
仰向けに倒れた身を起こす
起こしたその状態で周囲を伺うが土埃で見えない
フィオネは無事か?、野獣の声が聞こえる、ただ大きい影が、見えるだけで何も、ジンフィードの声がする、俺は大丈夫だそれよりもフィオネは、
膝をつき立ち上がろうとしたその時
突如土埃を切り裂く、大きい何かが
何が、横なぎに振るわれた
「がっ!」
それは野獣の大牙だった
それはジンフィードを後方へと投げ飛ばす
その大牙は同時に土埃も同時に払う
払われたそこには焼けて黒くなった毛皮の野獣
流れた血はそのままに、傷を隠そうとも庇おうともせずにその歪な四つ足で先程よりもどっしりとした存在感を持って立っていた
ぎらついたその目は鋭く煤けた大牙は俺に向けられていた




