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森の入り口に立ち正面を見る
何の変哲もない森が見える
さっきの音のせいで何処か不気味に感じるが普通の森だ
「馬鹿デケー声がしたわりには普通の森に見えるな」
「普通に村の人が来てるみたいだし普通だったんだよ、前までは」
奥につれて木々に狭まれているが地面には人の通った道ができていた
けもの道というにはしっかりと踏み固められていて生えている草も少なくいつもだったら通っていたんだろう
それほど頻繁に通っていた道が今では使わない。いや、使えない
「じゃ、いくぞ」
「見通しの悪い森だから気をつけていかないとね」
「あんな大きい音が出せる野獣だ。体長も相当大きいだろうし気づかないことはないと思うが、もともといる他の野獣にも気を付けないとな」
ジンフィードに続いて森へと入っていく
入ってすぐの森の入り口は広かったが奥に行くにつれて細くやがて道は無くなった
木々は増えて間隔も狭い、時折道に迷わないように印をつける
そうして奥へと進んでいくと
「これか、折れた木ってのは」
中心からぽっきりと折れた木があった
折れた木は腐って折れたのでもなく正面からの大きい衝撃で折れたようで後ろに折れた上側が落ちていた
よほどの衝撃だったのだろうあたりに折れた木の葉が散らばっている
「結構しっかりしているのに折れてるよ…これ」
フィオネは折れた木の表面を叩き驚いている
すると傍に何か見つけたようで地面の葉を払っていく
「これなんだろ?木片にしては白くない?」
と何かを見せてきた
白い何かの破片
木と比べてみると全然色が違っていて手のひらほどの大きな破片
白い、乳白色のソレはこのあたりに比べて少し異質に感じた
目当ての野獣が落としたものだろうか
「お前ら、こっちだ」
二人で考えていると後ろから声がかけられた
周囲を見ていたらしいジンフィードは手で招くと近くの低木を指さした
そこには無理やり通ったのだろう半分が上から押し潰すようにして折れた枝が、そして何かの赤茶の毛が付いていた
「そのままこの先に行ってるだろうな」
「低い木だけどものともせずに上を踏みつぶしていくなんて…」
「…警戒していこう」
奥に進むにつれて緑が深くなっていく森は伸びる草も多く長い
遮る枝も増え視界が悪い
しかし野獣の進んだあとを見つけて進んでいくのは簡単だった
折れた枝、残された毛や足跡、木の幹についた傷がすぐ目につくからだ
残された痕跡を見て野獣の姿を想像する
おそらくは四足で、赤茶の毛皮、木の傷の位置から高さは、などと想像する
やっとの思いで進んでいくと
「な、なんだこれ…」
奇妙な光景だった
折れた木が見えた比較的折れたのは最近のようだ
まだその部分は新しく腐ってもいない
これはいい、さっきも見た
しかしそのすぐそばに落ちている木の幹がやけに大きい
巨木と言っていいほどだ
しかしそれの他に折れた上側の木が見当たらない
「こんな木初めてみたぜ」
「いや、おかしいよ…普通こんな風に育たないし育ったとしてもこれは大きすぎるよ、倍以上だよ」
「まあ、これぐらいになる前に折れる…よな」
薄ら寒いものを感じたが足跡を追っていく
先にも奇妙な光景は続いていた
木の葉だけがやけに大きく今にも折れそうな木の枝を大きくしならせていたり、さっきように一部が大きく育った木がミシミシと音を立てていたり、地面に咲いた花は自らの茎とは比べ物にならないほど大きい花を咲かせていたりなどが続いていた
さらには地面に残された何かを引きずったあとがあり不安をさらにあおっている
それは先へ先へと伸びている
恐る恐るしかし警戒は怠ることなく歩いていく
そうしてしばらく進んでいくと向こうに開けた場所が見えた
大きな何かが動いているのも見えた
二人と目を合わせる
こくりと頷くフィオネに挑戦的に笑みを浮かべるジンフィード
一斉に草むらから飛び出した
飛び出すと同時に剣をかまえ野獣を見据える
開けた場所にいたのはこちらに背を向けていた野獣は木に向かって何かをしているようだった
とても大きく赤茶の四足の野獣
野獣の大きな耳がこちらの方へ向かれ振り向いた
四足のうち一本の足だけが大きい。口から生えた牙はやはり片側だけが大きく、片側の顔全体を覆い隠すほどの大きさでそのゆがんだ口からはよだれが垂れていた
頭は牙のその大きさで重いのかバランスが取れずにいるのか不自然に傾けている
どこかその表情が苦し気に見えたのは気のせいか
ブイィギィイイィィ!!!!
と声を上げた
響く声は木々を揺らし森をざわめかせた




