森の外れのハロウィン
森の外れにあるこの小さな家に、ハロウィンの夜には可愛いお客様たちが訪ねて来る。
「「「とりっく おあ とりーと!!」」」
彼らは近くに住む子どもたちだ。
よほどお菓子が欲しいのか、普段は寄り付かないこんな所にまでやって来る。
本当はお菓子だけが目的じゃない事を知っている。でも気付かないふりをしてあげている。
子供たちのお化けの変装は様々だ。
こっちの子どもは包帯でぐるぐる巻きに。あっちの子どもは大きな帽子を被り、魔法使いらしい服を着ている。耳や尻尾の付いている子どももいる。
大きな子ほど巧妙に化けているが、幼い子はまだまだ拙いようだ。
でも、それもハロウィンの夜の可愛い御愛嬌。
この日の為に用意した特別なお菓子の包みを一人一人に手渡すと、子どもたちは満面の笑みを見せた。
玄関の扉を閉じると、こっそりといつもの様に覗き穴から外の様子を窺い見る。
子どもたちはお菓子を貰って気が緩んだのか、もう正体を現してしまっている。
「今年もバレなかったな」
「お菓子、おいしそうだね」
口々にそう言うと、変装……いや、変身を解いた子タヌキたちはお菓子を咥えて森の奥へ帰って行った。
どうやら、人間の子どもらが仮装をするハロウィンの夜ならば、下手に化けてもバレないからと。そして森の外れに住む人間はトロいので見抜かれないからと、タヌキの子どもたちが自分の変身技を試すいい機会になっているらしい。
あんなにタヌキの手足も耳も尻尾も出ているのに、気付かぬふりをするのも楽ではない。微笑ましくて、自然に笑みがこぼれてしまう。
でも気付いている事がバレてしまったら、もう来なくなってしまうだろう。
またあんな風に可愛い姿を見られるだろうか。来年も特別なお菓子を用意して、楽しみに待っていよう。