5.以心伝心
即席ログハウスの骨組みが出来上がったころ、俺は巻瀬さんに相談を持ち掛けていた。
女子の中では高い身長でかつ、きりっとした顔立ちに普段は声をかけづらい雰囲気があるが、髪をまとめて腕をまくり、積極的に行動する姿は普段以上の魅力を感じさせる。
「家についてはある程度目途がついてきたし、何人かを募って周辺の捜索に当たろうと思う。」
「そうね。衣食住でいえば、食に関してはまだ見当がついていないし。」
それもあるが、いくつか試しておきたいことが他にもあった。
「ひとまず1時間以内には戻ってこようと思う。もし戻ってこないようなら狼煙を焚いておいてくれ、単純に迷っただけなら煙を目指して帰還する。」
「わかったわ。」
一見厳しそうな瞳の中にも心配そうな感情が伺い知れるのが彼女の心根の優しさを表している。
「それにしても。」
「ん?」
踵を返しかけた俺の背に彼女は。
「例の件があって以降、何かあると皆あなたに頼りがちなところはあったけど、普段は前に出る方じゃなかったじゃない?御堂君。ここに来てからはいつもより積極的に皆をまとめようとしているみたいだけど、あまり無理しないでね。」
「ああ、ありがとう。」
こんな状況だからか、普段なら恥ずかしくて言えないようなことも言えてしまう。
それなりには、俺たちも今置かれている状況にやられているのだろう。
―――場所は変わって拠点から1キロほど東、ここまで来るのに要した時間、約30秒!
「東風院さんストップストップ!思ったよりも早い!時速120キロ以上は出てる!」
「わかってても怖くて急に止まれないよお!」
「普通に止まればいいじゃない!あんただけよ足動かしてるの!」
「だって止まったら転びそうなんだもん! どうしたらいいの御堂くんー!」
「大丈夫だから! 出来るだけゆっくり手を放して!」
「あそっか。」
前半は無視してぱっと手を離される。
東風院さんを除く俺たち4人は慣性の力で前方に吹っ飛ばされた。
幸い、高速で飛ばされたわけではなく、通常の移動速度での慣性が適用された。
どさっ、と漫画みたいに転んだ俺たちを森の草木が受け止めた。
「いたたたた……。 ちょっと東風院!あんた冗談じゃないわよ!」
「ごめんごめん。あははー。」
水瀬さんが怒るのも無理はない。
「髪の毛が乱れたら直すの大変なんだから!」
そこではないだろ。と思いつつ方に着いた葉っぱを払う。
「想像以上だな。東風院さんの≪手をつないでいる限り、高速で移動できる能力≫。」
はじめは能力の対象が本人だけなのかを確認。結果、手をつないでいる相手も高速で動けることがわかった。
そして間接的に、手をつないでいる人間と手をつないでいる人間、これも能力が適用されることが実証された。
今回でいえば、東風院さんと直接手をつないでいたのが俺と水瀬さん、さらに俺とは無道、水瀬さんとは河東さんが手をつないでいたわけだが、全員同じスピードで走行が行えたわけだ。
持続力の確認がてら東にまっすぐ来てみたが、いまだ変わらず森の中。
「うむ、御堂、やはり俺は不満だ。なぜお前が女子と手をつないだ、職権の乱用ではないか。俺も女子と手をつなぎたいぞ。うらやましい。」
いや無道、俺に職権なんてないぞ。
「あれ、無道くん、じゃあ帰りは直接手つないで帰ろっか!」
「い……いや、遠慮する。」
対極的な二人のやり取りのばかばかしさに俺と水瀬さんはため息をつく。
「本題に入ろう。このメンバーに来てもらったのは食料探しがてら、能力を試すためだ。具体的には無道の≪目の届く相手に限り、思考を共有できる能力≫がどこまで、何人まで適用されるのか。そして水瀬さんの≪片目をふさいでいる限り、物体を透過して見ることが出来る能力≫、これが複合可能なのかという事。」
「ん、どゆこと?」
「正直複合については俺もダメ元で考えてるんだが……。ひとまず無道、能力を発動してみてくれるか。」
〈わかった。〉
びくっ、と無道以外の全員が身を震わせる。
「おい無道、その返事は地声でいいだろ、急に使ったらびっくりするじゃないか。」
〈すまない。〉
こいつ、わざとやっているのか。
〈なにこれー、え、これとどいてますかー?〉
〈うわ、思考に声色が乗ってる感じ、なんか気味悪いわね。〉
〈もっと大勢でやったら頭がパンクするかも……と思います……。あ、わたし河東です。〉
〈ひとまず5人まで、と相互の思考共有が可能であることは分かったな。あ、無道、一旦オフにしてくれ。〉
〈御意。〉
ひとまず5人まで、と相互の思考共有が可能であることは分かったな。
……なんだか使い慣れるのに時間がかかりそうだ。
「いまこれは、全員が全員を視認できる状態で行った。じゃあこれをみんなが互いを確認できない物陰に隠れて、なおかつ水瀬さんの透視を発動したらどうなるか? これが確認したいことだ。」
「なんだか理科の実験みたいでわくわくするね!」
理科の実験みたいかは分からないが、確かに心を躍らせつつ、俺たちはそれぞれが木の影へと身を隠した。
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