4.一夜明け
「切断!」
五味さんが唱える度にどんどん木々が倒されては使いやすい長さ、形に裁断されていく。
「木に限る、とはいえ恐ろしい切れ味だな。これ。」
前島が木材を手に持ち苦笑する。
この森に飛ばされてから一夜明け、明るい日が差す中、一同には少しの心の余裕が戻っていた。
完全に道具がない中でのサバイバルであったなら、昨晩の内に凍えていた可能性もあるが、俺たちに与えられた能力には、衣食住に非常に役立つ能力がいくつも割り振られていた。
おそらく意図的に。
暗闇の中での木々の切断は危険と考え、昨日は加瀬の、≪夜間に限り、素手で穴を掘り進められる能力≫を用い、斜面に横穴を掘る形で洞窟上の空間を作成し、相馬の≪摩擦熱に限り、多くの熱量を生じさせることが出来る能力≫で火をおこし、暖を取った。
能力の出力に不安はあったが、相馬がゴム靴の底で木の枝を蹴り擦ると、一瞬で炎が上がり本人も驚いていた。
いささかの不便はあったものの、おおよその快適性を得ることはでき、最低限の準備しかできない状態であってもこの程度の環境は確保できるという点が、漠然とした皆の不安をやわらげてくれた。
今日は朝からより安全かつ快適な住居を整えるため、木材の切り出しを行っている。
巨木の伐採から細かい継ぎ目の加工まで、能力の融通はかなり利くようだ。
「寝床については、なんとかなりそうだな。」
木材運びをいったん休憩していた俺の横に前島が腰かける。
「ああ、昨夜のうちに家の基礎のための穴を掘っておけたのが良かった。加瀬には苦労を掛けちゃったけど。」
穴掘りの功労者。加瀬は筋肉痛を癒すため今日は休んでもらっている。
本人曰く、土は砂浜の砂よりも容易に掘り進められるが、シンプルに動かし続けた手が疲れた。らしい。
20人が入れる穴を掘り進めたのだから当然だ。
苦労を掛けた分、今日の作業では恩を返すべくと皆、より熱意が入っている。
「Ωクラスの古暮小夜子。結局、誰も知らなかったな。」
昨晩の能力の行使、結局管理者の回答が聴こえていたのは俺一人だけだった。
全員にその名前を共有したが、面識のある者はだれも誰もおらず、籍はあるものの学校に来ていない生徒だった気がする。という噂レベルの情報が得られた程度だった。
「そもそも、Ωクラス自体よくわからないやつらが集まるところだからな。」
Ωクラス、通常のクラスとは異なり学年の概念がなく、年齢やバックグラウンドの異なる生徒たちが集まり、それぞれの専門分野の研究に勤しむ。そんな情報だけは把握しているものの、学校行事やイベントにも顔を出さない、本当にあるのかも疑わしいとされていたクラスだ。
古暮小夜子なる人物が、本校の生徒自身が管理者であることに困惑は覚えたが、それが分かったところで何か取るべき行動が変わるかと言われれば、変わらない。
それゆえ機能はもっと別の質問を行いたかった面はあるのだが……。
「ま、それにしても。」
前島が急に大きい声を出すからびっくりする。そもそもこいつは常に声がでかい。
「うちの学校、クラスのネーミングセンス中二がかりすぎだよな!」
「それ、1年の時にさんざんみんなこすってるだろ。」
ははは、と笑い合い澄み渡る青い空を仰ぎ見る。
こんなにもきれいな空なのに、これから俺たちは、殺し合いの準備をしなければならないのだ。
「続きも読んでみようかな」という方は是非評価★★★★★、ブックマークを頂けると幸いです。
次回の更新は週末、12時の予定です。