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3.管理者に問う

 <<1日1度に限り、管理者に何でも1つ質問が出来る能力≫


 この力がこのクラスが勝ち残るためのカギになってくるであろうと、少なくとも俺は感じていた。


 ≪ではみなさん、頑張っても頑張らなくてもよいですが、せいぜい楽しい余生を謳歌してください。≫


 全員の能力を発表し終えたそれは、自身の名を≪タンニン≫と名乗った。

 クラスそれぞれに担当の構造物が割り当てられているらしく、このクラスの≪担任≫という意味合いで自称することにしたそうだ。

 いくつかの事項を説明したかと思うと、そいつはこちらからの問いかけに応ずることもなく、目の前で光の歪曲を帯びるとともに消えていった。


 やつがのこした説明の趣旨は以下の通り。


 1.この森は魔法的な領域で囲われており、物理的に脱出することは不可能である。

 2.他のクラスは全く異なる別の領域に飛ばされている。

 3.これから複数ステージに渡って他のクラスと争い合う必要がある。


 「何よりも重要なのは、このゲームのルールだよな。」


 こう言ったときに大体口火を切るのが前島だ、体育会系で誰とでも喋る熱い男であるが、逆にクラスでは目立たない方の俺と一番親しくしている、気の置けないやつだ。


 「やり合うっていうからいきなり殺し合いが始まるのかと思ったけど、ルールは7日間ここで生き抜くこと。だったわよね。つまり生き残れさえすれば敵を倒したりする必要はない。と。」


 追随する形で副委員長の巻瀬が続けた。

 俺が祭壇から帰るまではまだ目覚めていなかったようだが、その凛とした振る舞いからいつもの状態に回復したことが伺い知れて安心した。ここでは長い髪を後ろで縛り、いつにもまして凛々しく見える。


 そう、タンニンが言うには、このステージの厳密なルールは、≪今日を含めた7日間、能力を駆使してサバイバルを行い一人でも多く生き残ったクラスの勝ち》というものだ。


 別のクラスは別の領域におり、なおかつ領域同士は移動できない以上、クラス同士で殺し合いは行う必要がない、というより、()()()()ということになる。


 「他のクラスのやつら以外に、敵がいなければいいんだけどな。」


 前島の発言に沈黙に場が静まり返る。

 空気が読めない、わけではなく、極めて現実的な男なのだ。


 「そういえば、御堂、森の向こうには何かあったのか?」


 周囲の空気を意に介しているのかいないのか、話題を変えて俺に視線を送る。


 「ああ、明らかに現代の科学ではありえないような規模の祭壇と、タンニンをそのまま巨大化させたような構造物、それに、他のクラスの連中が一人ずつ、その祭壇に集まっていた。」


 「他のクラスの奴がいたのか!?」


 「いた。だがあそこはたぶん、各領域のハブ地点と言うか、どの領域の物でもないイレギュラーな扱いの場所なんだと思う。でないと領域間の移動が自由にできることになるし、タンニンの説明と矛盾するからな。」


 ふむ、と前島は唸る。


 「それで、他のクラスのみんなとは話ができたの?」


 後ろの方で影を潜めていた木更が足を踏み出した。

 心配と身体的な疲れが表情から伺い知れる、気付けばクラス全員が立ち上がれるようになっている。

 木更が尽力してくれたおかげだろう。


 「距離的に会話は出来なかった。ただ、γの五木、あいつが能力で爆発を起こして、祭壇から出てきた巨大なタンニンを攻撃していた。」


 一同がざわつく。巨大なそれを攻撃したことだけではなく、先ほど発表された能力の中に()()()()()。などと言った強力な効果を持つものは存在しなかったからだ。

 そんな中、巻瀬が声を上げた。

 

 「考えてもわからないことはわからないし、まずは能力ってやつを試してみない?」


 能力を確認したくてうずうずしていたやつらからは、そうだな、といくつか声があふれた。


 「だったらまず初めに、俺の能力を試させてほしい。」


 こんな状況で一番に手を上げる人間ではないのだが、俺には思惑があった。


 「これから全員の能力を確認するにあたって、能力の出力や条件、細かく把握する必要があると思う。その点、俺の能力は1日に一度という制限がある。今の時間が何時かわからないが、今日の分の能力行使を先に済ませてしまいたい。」


 さらに言えば、1日に一度と言うのが使用後24時間のことを指しているのか、特定の時刻を過ぎることを指しているのかわからない。それを試したいという理由もあった。 


 「管理者に何でも聞ける能力、だよな。」


 「何を聞けばいいか、みんなの意見を集めることにする?」


 本当はいくつか聞いておきたい質問の候補は浮かんでいたのだが、クラス内で不和を生じさせたくはない。

 それぞれの意見を募った後、多数決を行い、初日の問いの内容が決まった。


 「……じゃあみんな、今日の質問はこれでいいな?」


 前島の問いに皆がうなずく。

 

 みんなの視線を受け、一抹の緊張感を感じつつ、一呼吸大きくついて、俺は目を閉じた。

 森の冷たい風を感じる、聞いたことのない虫の声、じり、と誰かが靴を鳴らす音。


 能力の使い方、説明を受けたわけではないが、手を動かそうと思えば動くように。

 例えるならば、もう一本の手が生えたかのような感覚で、それを行使する方法は分かっていた。


 回答が音声で届くならば、誰もが聞き漏らさぬよう、全員の中心で空を仰ぐ。

 

 そして、どこにいるかもわからない()()に、語り掛けた。


管理者(ゲームマスター)に問う。≪お前は誰だ。≫」


 ……。


返答はない……。


と思われた一瞬の沈黙ののち、その声は俺の脳内に響くように返された。


≪御堂司の問いに回答する。管理者(わたし)の名前は……≫


半ば期待していなかったその回答を聞き漏らすまいと両耳をふさぎ外界の騒音をシャットアウトする。

自分の自由な思考を侵犯するかの如く別の思考が割り込んでくる。

その答えは、不気味なほど明確に頭の中を反響した。


管理者(わたし)の名前は古暮、Ωクラス 出席番号14番 古暮紗夜子(こぐれさよこ)。≫








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