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1.漂流学園

 気付いた時には見知らぬ場所にいたから、直前まで何をしていたのかは全く覚えていなかった。

ただ、全身に走る痛みと耳鳴りから、何らかの事故、爆発、そんなものに巻き込まれたのであろうことは

ぼんやりとした意識の中でも推察できた。


「おい、御堂も目を覚ましたぞ!」


 いきなりの大声に驚く。同じクラスの前島が俺の意識が戻ったことを周囲に知らせていた。


「待ってて!すぐ行くから!」


 小走りで駆け寄ってきたのは教室で隣の席に座っていた、華奢で小柄な女子、木更だった。


「ちょっとびっくりすると思うけど、今から傷を治すから、動かないでいてね。」


 そういうと俺の胸に両手をかざし、目を閉じる。


治癒(ヒール)!』


 緑がかった光が手から発せられ、じんわりと温かな感覚が全身に広がっていく。

と同時に、みるみる傷口がふさがっていき、朦朧としていた意識がはっきりとしてくるのを感じた。


「これは……」


「よかった……!」


 心から安心したような笑顔を見せる木更。いつもの呆けたような笑顔とは違う、もっと深刻な状況に

身を置いている中での、やっと零れ落ちた笑顔、そんな感じがした。


「木更さん!こっちにも早く!」


 誰かがまた目覚めたらしく、木更はすぐに腰を上げる。


「すぐに行く!御堂君、また、あとでね!」


 話したいことがあったようだが、地面に転がる何人かをうまくよけながら、目が覚めた女子生徒へと向かう木更。

 はたと気づき、自分も立ち上がる。

 あたりを見回すと、信じられない光景が広がっていた。


「なんだ……これ……」


 周囲にはクラスメイトの大半が横たわっており、先ほどまでの自分と同じく全身に傷を負い

息があるかもわからない状態の奴も見受けられる。意識のある者は木更から回復を受けたのだろう、

活発に動き回り、思い思いの手段で応急処置と木更の手伝いをしている。

 そしてこの場所は、森だ。学園は決して都会にあったわけではないものの近くにこんな森は存在しない。

 であれば、爆発の後、この場所に全員運ばれた?何のために?


「御堂、御堂!手短に説明するぞ!」


 後ろから前島に肩をつかまれ後ろを振り向かされる。


「俺も目が覚めたのは10分前ぐらいだから殆ど全くわけがわからねえ!でもおそらく、俺たちのいた校舎は爆弾か何かで破壊された!そして丁度βクラスのみんなだけこの場所に飛ばされたみたいだ!」


 普通に考えて、ひとクラス吹き飛ばされてその全員がきれいにまとまって、校舎の瓦礫もないこんな場所に飛ばされるはずがない。だが前島もきっとこの状況を説明は出来ないだろう。


「木更はかなり早く目が覚めたみたいで、自分で傷を治そうと思ったらあの魔法みたいな力が使えるようになったらしい。全く訳は分からないが今はあの魔法に頼るしかない!とにかく説明はこれだけだ!あとは自分で考えて行動してくれ!御堂ならうまくやってくれるだろ!」


 そう残すと前島は負傷者の意識を確かめに戻っていった。

 前島の説明を聞いてまず、俺は魔法が使えるかを試すことにした。

 聞く限りでは傷を治したいと思っただけで魔法が使えたという。

 見よう見まねで隣に転がっていたクラスメイトに両手を当て、目をつぶり、祈ってみる。


 が、何も起こらない。

 この状況、回復を行っている木更の負担が大きすぎる。そして彼女が倒れでもしたら

 後から目が覚めた連中は処置を受けられずおしまいだ。


 幸い目が覚めた連中はしっかりしたやつらが多く、この場は任せてもよさそうだ。


「前島!森の様子を見に行った奴はいるか!?」

「いない!森に行くのか!?」

「助けが近くで呼べるかもしれない!そう遠くまではいかないつもりだから!」

「わかった!気を付けろよ!」


皆を背に一方向を定めまっすぐ歩き始める。

あたりはまだ昼だが暗くなったら命はないかもしれない。

可能な限り石や木の枝で目印をつけつつ歩みを進めてゆく。


それは、20分ほど歩いただけの場所にあった。


「これは、祭壇……?」


 先ほどまでの自然とは打って変わって、先進的な文明を感じさせる巨大で白い円形の人工物。

 中央には巨大な穴が開き、地面は奈落へと続いていた。

 よくよく見ると、祭壇には等間隔に誰かが立っている。あれは、αクラスの溝呂木だろうか。

 その30度ほど隣の位置にはγクラスの五木もいる。


 おい、と声をあげそうになったところを、躊躇した。

 皆、きっと自分より”何か”を知っている状態でそこに立っている。そう感じた。

 ここで何も知らないことをさらけ出すのは、危険であると本能的に理解した。


 轟音が鳴り響いたのは、その時だった。


 底の見えない巨大な穴から噴火するかのように音が近づいてくる。

 それは祭壇と同じ白磁の構造でもって姿を現した。


 菱形を基調として流線型の帯のような構造物を身にまとったそれは、祭壇を囲む俺らに語り掛けた。


≪よくぞ集まった。貴様らの内生き残るは1組織のみ。与えられた力をもって他を滅ぼすべし。≫


 頭でその言葉を咀嚼する。


 祭壇に立つ各クラスの人間たち。

 1クラスまとまって転移したクラスメイト。

 木更の使う魔法。

 そして何も知らない自分。


 ここでの最善の行動を取るとするのならば。


 全力で逃げる!


 背を向け走り出した俺の背後から聞こえたのはγクラス五木の声だった。


『爆発せよ!!』


 爆音が鳴り響き、振り向いた視界は光で覆われた。













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「続きも読んでみようかな」という方は是非評価★★★★★、ブックマークを頂けると幸いです。


次回の更新は今週中、12時の予定です。


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