第最終話 人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます
今回で最終回です。
明日、エピローグを投稿するのでそちらも見てください!
「ついこの前に俺がどうして、この学校に拘るかは言ったよな」
「はい、確かご両親の事件の真相を調べるためだとか」
「あぁ、そうだ。しかし、この事は古沢以外には喋っていない。風魔家ってのは庶民主義でな、どんな事にも庶民感を求める家だったんだよ。変わりもんだよな。そんな家だからこそ、当然このようなお嬢様学校に通うことはすぐに認められるわけがなかった。こんな学校に通うなんて庶民感を損なう原因にもなり得る」
今でも父さんにこの学校に通いたいと言った時の反応を覚えている。とても険しい表情で、俺の事を睨みつけながら「ダメだ」と一喝。
初めてこの事を言った当初は俺も幼かったので、その父さんの一言で萎縮してしまった記憶がある。しかし、それでも俺は諦めなかった。その事が功を奏したのか、遂に父さんの口から「分かった」という言葉を引き出せたのだ。
しかし、その事で浮かれている暇はなかったのだ。
今までそんなに一蹴してきた父さんがすんなりと俺が通うことを認めてくれるわけはなかったのだ。当然条件のようなものを提示された。
「この学校で成績上位を維持する事を条件に、この学校に通うことを許可してくれたんだ」
「それが理由でいつも上位に居たんですね。しかし、上位に居たら嫌でも目立ってしまいますよね……なんで目立っていなかったんですか?」
そう、そこが問題だった。
俺は目立つのが嫌いだったのだ。なので、この学校でもひっそりと事件を調べながら過ごしたいと、そう思っていたのだが、父さんの条件は上位にいること……スピーチのせいで目立ってしまうのは確実。入学説明会の時に俺はどれだけ絶望した事やら……。
しかし、結果を見てみると俺は目立たずに済んだ。今は悪目立ちしているけど、倒産前の俺は実際に目立たないことに成功したのだ。
「……俺はこの為だけに鍛えた技術がある」
「技術ですか?」
「あぁ、マジックなどにも使われるとされるミスディレクションだ」
「ミスディレクションですか? それってあの、相手の注意を他に逸らすって奴ですよね。そんなことが可能だったんですか?」
「あぁ、かなり難しかったけどな。俺よりも目立つ奴を作り、そして俺はそいつの影に潜む。こうすることによって俺は目立たないで済んだんだ」
テストでは毎回表彰されるギリギリの順位、十位を狙ってとり、俺よりも俺より高い順位の人の方がすごいと力説。これによって、俺は全然凄くないという認識を全員に与えた。
「まぁ、こんな感じだ」
「目立たないことへの努力が凄いですね」
「あぁ、俺の命を引き換えに目立たないようにして貰えるならば、喜んで命くらい捧げるだろう」
「風魔君が言うと冗談に聞こえませんね」
冗談じゃないからな。
「でも教えてくれたって事は私を信頼してくれているって事ですよね」
「まぁ、そうだな」
信頼していなきゃこんな話はしない。
その俺の回答に満足したのか、古沢は満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、そんな風魔君に免じて、私も言いたいことがあります!」
「なんだ?」
「私は風魔君の事が好きですっ!」
「………………」
「え、えっと……風魔君? そこで黙られると困るんですが」
「あ、あぁ、悪い。少し脳がキャパオーバーしてしまった」
「もう……っ!」
それにしても、古沢が俺の事を好き? 何かの冗談なのか? それにしてはかなり本気っぽい雰囲気。
もしもそれが本気だったとして、どうして俺のことが好きなのかが分からない……分からなすぎて一瞬思考が停止してしまった。
俺と古沢が関わったのは一週間程度、その中に好きになる要素ってあったか? 俺が考える中ではそんな事は無かったし、その事には全く気が付かなかった。
だから俺は聞いてみることにした。
「どうして、俺のことが好きになったんだ?」
「実はね、今のように主従関係になる前に風魔君には助けられたことがあるの」
「え、そんなこと、あったか? 古沢のように可愛い子を助けたなら覚えていると思うんだけど……」
「か、可愛いって……」
俺のさり気なく言った一言に赤面する古沢。今まで意識していなかったから気が付かなかったが、古沢ってこんなに可愛らしい生き物だったのか。
「でもでも、風魔君が気が付かないのは当然なんだよね……私、あの時は地味な見た目だったから……ショートヘアーで、顔隠れている根暗だったから」
あ、確かに金髪のショート根暗女子、覚えがある。金髪で奇抜な見た目なのに、なんだか暗そうな印象を受ける。そんな、俺の中では印象的な女子だった。
「でも、なんで今のようなスタイルにしたんだ?」
「だって……風魔君に気に入られたくて……風魔君の趣味を調べて、使用人に調査させて、隠し撮りして……やっとこの姿を思いついたんですよ」
「うん、前半までなら良かったけど、後半を聞いてゾクッとしたんだけど」
古沢の愛が重すぎる。今どきの女の子は意中の男性に気にいられるために、ここまでするのか……。
しかし、その成果は出ているようだ。俺はこっちの見た目の方が好きだし、ぶっちゃけ好みどストライクだ。
「私、上級生の方に迫られていたんですよ。あの時の私に迫るとは物好きな人達だなと思いましたが、その時に助けてくれたのが、風魔君です。風魔君は『その子、嫌がっているじゃないか。離してやれ』と上級生に言い放ちました。しかし、上級生はそんな風魔君に苛立ったのか殴り掛かりましたよね。そんな上級生を簡単にあしらうと、私の手を引いて逃げ出してくれました。私はあの時にあなたに惚れてしまったんです。なんでかっこいい人なんだろうって」
……若干美化されているようだが、概ね間違いはない。
手を引いて逃げだしたと言ったが、逃げ出すどころか、その上級生を全滅させてから古沢の手をとって引っ張り回した。それだけの事だ。
でもあの時か……。なんであの時はあんな事をしたんだろうか……あんな事をしたら目立ってしまうのが確実。
案の定目立ってしまったが、別の人をヒーローに仕立て上げることによって、その場は何とか切り抜けた。
「やっと言えました。やっと風魔君の事が好きだって告白出来ました」
「そうか……だが、お前にとっては俺はずっと執事、使用人なんじゃなかったのか? 使用人とお嬢様の恋っていいのかよ」
「良いです! 誰がなんと言おうと良いんです! もし反対されるなら駆け落ちも考えています」
「駆け落ちはしないけど……でも、俺は腹が決まった」
「え、答え決まったんですか?」
「あぁ」
その俺の言葉にキラキラとした瞳を向けてくる古沢。
この答えが古沢にとってどうなのかは分からない。だけど、俺はこの答えが最適だと考える。今までの違いを全て胸に秘めて言葉を紡ぎ出す。
この答えがこの先の全ての運命を握っている。その緊張の台詞のはずなのに、俺の口角は上がっていた。
俺はもうこの学校は退学だ。そんな俺がお嬢様の隣に居ていいのか、古沢の話を聞いた後でもまだその不安は拭い切れない。
だけど、それでも俺は、この言葉を紡がずにはいられなかった。
「お嬢様……俺は人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます」




