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【本編完結】人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます  作者: ミズヤ
第一章 人生に疲れたのでお嬢様に付き合います
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第4話 始まり

 女の子の台詞に俺は一瞬思考が追いつかなかった。

 こんな見ず知らず。今まで同じ学校に居たというのに話した事が無かった男を? 危なすぎる。もちろん俺は下手な事はするつもりは無い。だが、軽々しく男に対してそういう事を言うものでは無いと思う。


「あなたを絶対に死なせません」

「はぁ? お前、何言っちゃってんだ? 俺は絶対にお前の世話になんか――」

「ダメです。だってあなた、放っといたら死ぬ気じゃないですか」


 図星だった。だから何も言えなくなってしまった。

 俺はこの後、人気の無い場所に行ってひっそりを生涯を終えるつもりだった。その事がバレ、バツが悪くなった俺は静かに舌打ちをした。


「そうか、そうかそうか。俺をどうしても繋ぎ止めたいか」

「はい! 当然です」


 元気のある声だ。必ず俺を連れて帰るって言う強い意志が感じられる。ならばその意志を砕かなければ俺は解放されないわけだな。

 少し心が痛いし、こんなことは言いたくないが、こんな俺と一緒に居た方が不幸になるのは分かっているから言うことにした。


「じゃあ、君が俺を連れて帰った瞬間、俺は君を襲う。間違いなく、確実に確定で襲う。どうだ? 俺の事を軽蔑したか?」

「……」


 一瞬フリーズした。効果は覿面のようだ。

 この調子でやる気を砕けば俺を嫌いになり、解放してくれるだろう。そうなれば後はもう現世に居る必要が無くなるわけだ。


「俺はこう見えて肉食なんだ。隙を見せればいく。それが俺のスタンスだ。どうだ? 引いたか? 俺の事を軽蔑したか? なら今すぐその手を離せよ」


 さすがにここまで言えば相手も引いてくれるだろう。しかし心が痛い。久しぶりの他人との会話でこの会話はハードルが高かった。

 そこで女の子は口を開いた。


「……しません」

「なに?」


 とても小さくて聞き取れないほどの声。俺は思わず聞き返した。

 すると今度は叫ぶ様な声で言ってきた。


「ぜーったいに離しません! 何があってもこの手を絶対に離しません! 私を襲う? 上等です! それであなたの気が済むならばあなたに幾らでも体を捧げます! なので死ぬなんて言わないでください!」


 その覇気に圧されたのは今度は俺の方だった。

 この子の必死の声、自分の体を捨ててまで他人を助けようとするその姿。いつもなら俺はそんな姿を見て『偽善』だと鼻で笑うだろう。

 だが、この子の覇気には明確なある事があった。それは100%の善意。澱んでいない純粋で、そして強い正義感。それが感じられた。

 普通、見ず知らずの人に体を売ってまで助けるなんてことするか?

 この一言で俺はこの子に興味を持った。

 親が両方居なくなって、全てが灰色に染まった。その景色が元の色を取り戻した。そんな気がした。


「くくっ」


 思わず笑ってしまった。

 この真剣な空気だ。そんな状況で笑ったらなんて言われるかは目に見えていた。


「な、なんで笑ってるんですか! 私は真剣に!」

「悪ぃ悪ぃ。まさかここまで頑なに繋ぎ止めようとして来るとは思わなかった」

「頑ななのはあなたじゃないですか」

「そうかもしれないな」


 俺は今まで人に興味を抱いたことは全くなかった。他人なんてそこに居るだけの存在だとそう考えていた。

 俺にとって他人はどうでもよかった。

 初めてだったそんな感情を抱いたのは。


「なぁ、俺を繋止めて何のメリットがあるんだ?」

「そ、それは……」

「自己満足、だろ?」


 会って間もない人を助ける。それは所詮、自己満足でしかないと俺は考える。

 だから俺はメリットも無いことを行いたくない為に今まで見て見ぬふりをしてきた。この子のだって自己満足だろう。


「ならその自己満に乗っかってやろう」

「え?」

「まさかここまでだとは思わなかった。お前となら俺の人生にも色が着くかもしれない」

「で、では!」


 女の子はとても嬉しそうな声を出した。

 こんな見ず知らずの男を助けて何が嬉しいのか分からないが、向こうがそれでいいならそれでいいってことにしよう。

 ここで頑なになって断っても何も変わらない気がするしな、これからの事はこれから考えればいいんだ。


「ああ、俺に住処を提供してくれないか?」

「はい!」


 俺は流れでこの子の家に住むことになった。

 強引に事を進める彼女に若干呆れながら俺は彼女について行く。

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