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【本編完結】人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます  作者: ミズヤ
第五章 人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます
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第39話 古沢由良

 数分走るとすぐに教室が見えて来た。あそこは滅多に見ない場所だけど、あの近辺はたまに授業で使うので教室を目指すのは難しくはなかった。

 という訳で慎重に教室内を覗いて見たのだが、これは厄介だ。確かにあの教師の言った通りに立て篭られているようだ。外からは警察がメガホンで出てくるように説得している声が聞こえてくる。


 しかし、これは厄介だな。この教室の中には五人ほどの敵がいる。普段ならこの数を相手にするのは造作もないことだ。だが、ここには生徒たちもいる。逆上して近くの生徒を殺されたりとかしたら困るのだ。

 でも、今の俺にはやれる自信があった。なぜなら俺の視界の端に古沢が見えたからだ。古沢を守ると約束した。俺は約束を破るのが大嫌いだからな。

 なので、俺はそんな教室に正面から堂々と侵入した。


「き、貴様、まだ生徒が残っていたのか!」


 当然気がついた奴らは数人掛りで俺を取り抑えようと飛びかかってくる。しかし、そこには既に俺は居なかった。空振り、三人ともぶつかり合ってダウン。意外と簡単に数を減らすことに成功した。

 思い切りぶつかった事によって気を失っている。今どき飛び掛るって……もう少しマシな動きをして欲しいものだが、楽に三人も倒すことに成功したので良しとする。


 だが、他のみんなには俺がどんな動きをしたのかが見えていたため、どうして奴らがあんな動きをしたのかが不思議でならないようだ。

 今、俺が何をしたかと言うと、つま先を左に向けたあと、その状態で右に飛んだだけだ。それだけでこいつらの視界から俺は消えたのだ。


 ミスディレクション。相手の注意を別のものに逸らすことによって、自分から注意を逸らさせるというテクニックだ。まぁ、マジックなどにも使われている手法だ。

 今回の場合は相手に予備動作を伝えることによって嘘の認識をさせたのだ。俺は左の方に行くって言うご認識。これのお陰で、すぐさま右に行くと、相手の視界から俺は消えることができるってことだ。


 次に俺は黒板消しとチョークを手に取った。


「コノヤローっ!」


 男の一人がナイフを取り出して俺に向かって走ってきた。そして突き刺そうとしてきたので、黒板消しでガード。そのまま腕を掴んで、壁に向かって投げ飛ばした。

 すると、当たりどころが悪かったのか一瞬で意識を刈り取られるナイフ男。


「て、てめぇは何もんだ!」

「俺? 俺はただの一般庶民だ」

「く、なんで俺たちがこんな奴に!」


 これは不穏な展開だ。逆上して被害を出してしまうかもしれない。


「こうなったら一人でも道連れに――」

「それは危ないので、カバーをつけてくださいね」


 ナイフを取り出して近くの生徒に突き刺そうとする最後の一人だが、俺はそのナイフ目掛けて黒板消しを投擲。見事ナイフが黒板消しに刺さって即席カバーの完成だ。これによって、勢いで黒板消しで殴られた痛みはあるかもしれないが、ナイフが刺さることはなくなった。

 王手だ。


「畜生っ!」


 そう叫んで投げやりになって俺に殴りかかってくるが、そんな投げやりでは俺には勝てないので、適当にあしらって押し倒すと俺はヘッドロックをキメて意識を奪い取った。

 これにてこの教室の殲滅完了。俺は自分を縛っていたロープを取り出して、今度は男たちを纏めて縛り上げる。それも俺でも自力で解けないくらい厳重に。


「ふ、風魔君……」


 声のした方向に顔を向ける。そこには古沢が目に涙を浮かべてペタンと座っていた。多分怖かったのだろう。さっきまで恐怖していたのか未だに足の震えが止まらないようだ。


「大丈夫だったか?」

「大丈夫だったけど……風魔君こそ」

「俺はこのくらいでピンチになったりしない。それよりも、お前らに危害を加えさせないように戦う方が神経を使って大変なんだが」


 その言葉に四方八方から「庶民が助けるのは当然だろ」や、「完璧に助けてみなさいよ」と言った執事の事を完全に勘違いしたお花畑的な台詞や、傲慢な台詞が飛んできた。しかし、そんなことに一々構っていたらキリがないので、スルーしておく。


「さて、これから俺はこの事件にケリをつけに行こうと思う。お前らは助けを求めに行くなりなんなり好きにするといい」


 助けて貰ったというのに恩知らずの奴らだ。所々から「助けてもらうなら違う人が良かった」とかいう台詞が飛んで来ている。

 しかし、そんな中で、二つほどの視線からは感謝の意を感じた。その視線は、古沢と犬飼さんだ。

 でも同時に悲しそうでもある。どうしたのかと見ていると、古沢は意を決したように次の言葉を紡いだ。


「私も連れていってください!」


 恐らく俺がケリをつけに行くと言ったことに対してだろう。しかし、俺はその言葉に対して首を降った。なぜなら危険に巻き込んでしまうからだ。

 更に俺にはもう一つ考えがあった。それには他の人が居たらダメなんだ。だから俺は一人で行く。


 廊下に出て静かに歩いていく。静かに闘志を燃やしながら、ゆっくりと歩いていく。

 俺は教室からチョークを持ち出した。これもミスディレクションに使えるので、持っておいて損は無いと判断したのだ。

 そんな俺が向かってきたのは屋上だった。なんでかは分からないけど、俺の感がここだと言っていたのだ。


 屋上の扉を静かに開ける。すると、やはりそこに奴――黒鉄章翔はそこに居た。

 いつもの白衣の姿ではなく、茶色のコートを羽織っている。いつもの黒鉄先生とは違う、黒鉄章翔としての姿なのだろう。

 その姿を見て気がついた。――なるほど、前に怪しげに電話をしていたのは黒金先生だったのか。姿が違いすぎて気が付かなかった。


 そんな黒鉄章翔は俺に気がつくと、ゆっくりと振り返った。その顔は人気の先生なんかではない、憎しみに歪んだ表情だった。


「やぁ、風魔春人君……君なら来ると思っていたよ」

「そうかよ……もう正体を隠す気はないんだな」

「あぁ、僕はもうここで終わりにすることにしたからね……もう取り繕う必要も無いんだよ」


 取り繕う……か。その嘘の人相だけでここまで人気を稼いだのだ。なかなかなペテン師だ。俺も最後の最後まで気がつくことは出来なかった。

 しかし、それほどまでして成し遂げたい何かがあったのか?


「……あと一人、殺したい人物が居るんだ」


 その言い回しが俺にとっては少し引っかかった。何で、あと一人なんでそんな単語を使うんだ。黒鉄がすぐにその答えを語り出した。


「君の両親を殺したのは稲光先生? 違う。妥当先生? これも違う。鹿島先生? 全部ハズレだ。君の両親を殺した犯人は……この僕だ」


 その言葉を聞いて俺は俯いた。その様子を見てショックを受けていると勘違いしたのか、その理由まで語りだした。


「君の両親とは親友だった。しかし、なんで殺したか。それは嫉妬だよ。僕はね、庶民に落ちたことによって、この学園を退学になっているのさ。そんな中、親友である二人だけ金持ちで裕福な暮らしをしているのが許せなくてね……」

「殺したのか」

「大正解! しかし、僕は致命的なミスを犯してしまった……赤ん坊である君を見逃してしまったことさ。その事を知った時、僕は焦ったね……どうやって君をこの世から消そうかと、そう考えた時に、君が入学してくるのを知ってね。面白い案を思いついたのさ」


 話が読めてきた気がする。つまりこいつは、俺が入学してきたことを知って、父さんの会社を――


「君の父上の会社を、潰したんだよ」


 右手に握りこぶしを作る。強く握りすぎて血が流れるほどに力を込めている。

 つまりは、俺の本当の両親を殺したのは、この黒鉄。そして、俺の新しい両親の職を奪ったのも黒鉄って訳か。

 随分なことをしてくれたものだ。


「いやぁ、会社一つ潰すのは時間がかかったけど、君が自殺にまで追い込まれた時は腹抱えて笑ったよ」


 こいつが……全ての元凶。俺の捜し求めていた、両親殺しの犯人。そして、今回の事件の首謀者……そうなんだろ、黒鉄。

 しかし、これはこれで好都合だ。俺は復習はしない、ここまでしてくれたお礼はしたくなるほどの怒りは覚えているが、俺は復讐のために殴ったりなどはしない。

 なら、なんのために殴るのか――そう考えると真っ先に思い浮かぶのは古沢の笑顔だ。だから俺は古沢由良を守るために、この拳で奴を殴る!


「ありがとよ……おかげで直接殴ることができるよ。あんたのことを!」


 俺は走った。それによって黒鉄は防御の体制に入る。しかし、そんな防御などあってないようなものだ。

 俺は急激に方向転換して黒鉄の不意をつく。すると、黒鉄は俺のスピードには着いて来れないようで、ガラ空きになった脇腹に右でぎゅっと握った拳を思い切り叩きつけた。


「がはっ!」


 黒鉄はあまりの衝撃に唾を吐き出す。そんな黒鉄にもう一発、今度は腹のど真ん中に打ち込んだ。


「が、は……」


 腹を押さえて蹲ってしまう黒鉄。そんな黒鉄を見て俺は笑っていた。暫く心からの笑顔になっていなかったと言うのに、黒鉄が苦しむ姿を見て俺は心から笑顔になっていたのだ。

 これには自分でもびっくりした。まさか、黒鉄を殴るだけでこんなにスカッとした気分になるとは思っていなかった。


「稲田の一族はやはり僕をイラつかせてくれるねぇ」


 そう言って黒鉄は二本のナイフを取り出した。さしずめ二刀流ってことか。しかし、俺は何も武器を持っていない――いや、違うな、あるにはある。だが、これは俺の最終兵器。今は出すときじゃない。俺は素手で立ち向かう。

 チョークをポケットに入れて両手をフリーにした。


「この俺を殴ったことを後悔させてやる、稲田春人!」

「違う、俺は風魔春人だ!」

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