第38話 大事だから
目を覚ますとそこはなにやら防音室のような所で、その部屋の中心にある椅子に俺はロープで縛り付けられていた。状況から考えて監禁と言ったところか?
しかし、この部屋には色々なダンボールがある。中身が気になるが、動けないってのもあるし、地味に屋敷にあったダンボールがトラウマなので、気になるが知りたくない。
まぁ、なんでこんなに呑気にしていられるのかと言ったら、この拘束くらいだったら一秒も掛からずに解く事が出来るからだ。
それにしても、なんでこんなことになっているんだ? 確か俺は今日も古沢と一緒にいて……昨日に引き続き報告をしに来た黒鉄先生とあって……それからの記憶がない。
なんで俺は寝ていたんだ? なんで俺はこんなところにいる? そのような疑問が頭を過ぎる。
その時だった。入口の重厚そうな扉が開いたのだ。
そこから入ってきたのは生徒指導部の雪川先生。そんな雪川先生はなんとなく晴れ晴れとした表情をしている。あの人は滅多にあんな表情をしないから、あの人が喜びそうなことといえば、俺の退学くらいなものだ。
そこまで考えたところで、雪川先生が口を開いた。
「お前、部外者を侵入させて俺らに復讐をしようとしたらしいじゃないか」
「…………」
「なんとか言ったらどうなんだ、あぁ? 仕方がないからお前の言い訳くらいなら聞いてやるって言ってんだよ」
なんだか高圧的な態度だ。低俗すぎる手法、呆れて声も出ない。
そもそもとしてそんな事はしていない。俺にそんなメリットは無いのだ。これから犯人探しをしようとしている時に学校で暴れ回ってどうする? そんな事をしたら犯人を取り逃がしてしまうかもしれない。俺にメリットなんて無いのだ。
それに復讐なんてしても意味がない。復讐は何も生まない……そう分かっている。
だがさすがにその高圧的な態度は頂けないと感じたので、少しだけ反抗させてもらおう。
「なら遠慮なく……なんの事ですか?」
「あ? お前が、この学校を部外者を使って落とそうとしたことだよ!」
「そうですか……ですが僕は身に覚えがありません」
「だーれがてめぇの言うことなんか信じるか。犯罪者はみんな最初はそういうんだよ」
やはり俺の言い分なんてはなから聞き入れる気はなかったようだ。無駄な時間を過ごしてしまったので、肩を落として落胆する。
でもそうか……この先生の頭の中では俺が何者かを侵入させて、この学校に今までの復讐を企んだという構図で確定しているんだな。まぁ、確かに、その容疑者が俺じゃなかったらありえない話ではないな。
しかし、俺を退学にするのに必死だな……この構図だと、退学だけに済まされなくて、警察のお世話になってしまうかもしれない案件だ。
「お前には今から色々と吐いてもらうぞ」
そう言って雪川先生は何かをダンボールの中から取り出した。それは――
「今からお前にこれを取り付ける。異論は認めない」
ヘルメットのようなものだ。それにはなにやらコードのようなものが取り付いていて、それがただのヘルメットではないことがすぐにわかった。
「これはな、嘘発見器だ。今から何個か質問をする。そして、嘘を言った場合、背後にあるランプが点灯して教えてくれるんだ」
なるほどな……しかし、俺はやっていないものはやっていない。だから何を聞かれたとしても、この発見機が反応するわけがない。
しかし、先生は俺が完全にやったと思っている。だから反応しないなどと微塵も考えていないのだろうな。
先生は俺の頭に嘘発見器を取り付けると、俺の前にある椅子に深く腰をかけた。そしてカメラを取り出すと、三脚にセットする。俺の退学&警察に突き出すための証拠映像を撮るつもりらしい。
「えーじゃあ、まず一つ目の質問だ。お前は庶民である、間違いないか?」
「確かに俺は庶民ですね。少し前に父の会社が倒産してしまって庶民になりました」
「そうか」
この質問は当然光らない。なにせ、俺は一切の嘘をついていないし、この結果は先生も予想していたようで、頷いている。
「次の質問だ。お前はこの学校に恨みがある。違うか?」
確かにここで本心である、恨みがあると言ったら心証が悪くなってしまうだろう。
もしかして、今回の結果を知っていて、こういう形で言質を取ろうと言う策か……あまり褒められたことじゃない卑怯な策だが、理にはかなっている。なにせ俺は今、嘘をつけないのだから。
「……はい。恨みは持っています」
「では! その恨みが原動力となって今回の事件を引き起こした。間違いないか?」
「それは違う。俺は今回の事件には全く関わっていないし、そんな事をしても俺になんのメリットもない。俺はこの学校に居なきゃいけないんだ。こんな馬鹿みたいなことをして、退学にでもなったら全て水の泡だ」
ここでは光らないだろう。なにせ俺は嘘は一つも言っていないのだから。
その時だった。背後から赤い光が差してきているのに気がついたのは。
慌てて背後を見る。すると、そこには驚きの光景が広がっていた。なぜなら、俺の背後にあったライトが赤く点灯しているのだ。まるで、俺の嘘を告げるために光っているかのように、そのライトは光っていた。
弾かれるように先生の方向を見てみる。すると、その先生の手の中にはなにやら怪しげなボタンが握られており、ニヤニヤとした表情をしている。
わかった……これは偽装証拠だ。俺のように粘って中々退学しない庶民を強制的に退学にする奥の手と言ったところか。これは禁じ手であると共に、使えば確実に相手を追い出せる必殺技。
しかし、こんな手で証拠を偽装しているなんて知られたら学園の信用問題に関わる。だから、こんな厳重な防音室にて執り行っているんだ。しかも、そのターゲットが暴れないように予め拘束しておく。
こいつら、俺の話をもとより聞く気は無いと思っていたが、まさかここまで酷いとは思いもしなかった。
ここの教師は異常だ。ここまでするのか……。
「クソが……っ!」
しかし、これは気がつくのが遅すぎたんだ。俺はもう、この状況から逃げ出すことは出来ない。なぜなら、今の証拠だけでも充分すぎるほど追い出す口実になってしまうからだ。
悔しい……だが、今悔しがっても仕方が無いだろう。もう俺の人生は何もかも終わったんだ。
そう思って何もかも諦めようとしたその時だった。突如として乱暴に扉が開かれたのだ。その奥にいたのはまた別の教師、俺の方を一瞥して渋い表情をしてから雪川先生の方へ向き直る。
「実は、大変なことになっているんです」
「どうした」
「実は、あの人物の他にも大量の黒服集団が侵入してきて、学校内で暴れ回っています。更に警察が来たのを察知したら、俺たちを人質として学校内に立て篭ってしまいました」
思い出した……そういえば俺はあの時、何かに気がついた直後に頭に強い衝撃が加えられたんだ。
考えろ……まず誰かが襲いかかってきたんだ。その人物は……そうだ、思い出した。あいつは昨日のニュースに映っていた。しかもただ映っていただけじゃない……銀行強盗だ。
しかし、なんでいる? そう考えるには次に俺の事を攻撃してきた人物の事を考える必要があるだろう。
確か俺の背後には黒鉄先生しかいな――まさか!
全部繋がった。なんで俺が銀行強盗の犯人に後ろを取られているのに動じなかったか。
黒鉄先生……俺の事を欺くとは良い度胸じゃないですか。
そんな感じで俺が推理していると、俺は耳を疑うような台詞が聞こえてきて一瞬だけ思考が停止してしまった。
「そうだが、俺らはここに居たから見付かっていないはずだ。俺らだけでも逃げよう」
「はい!」
……なんだよ、それ。意味がわからねぇよ……生徒を見捨てて逃げる? この二人は今そう言ったのか?
確かに命は大事だ。しかし、完全に生徒の事を疎かにするのは違うだろ……あいつらは少なくとも金持ちの皆さんだ。俺に対するこの待遇も納得いかねぇが、みんなはちゃんとお前らの意にそぐわった人達なんじゃないのか?
それなのに見捨てるなんて……。
「ったく……それでも教師かよ……教師なら教え子くらい守って見せろよ」
「あ? お前を守る義務がどこに――」
「俺じゃねぇよ! この学校にはたくさんの生徒が居るんだろうが! その中には俺みたいな庶民も居るだろうが、庶民じゃない奴らも居るだろうが!」
今は必死だった。俺はもう死んだってどうでもいい。しかし、俺は他のみんなを守って欲しかっただけなのだ。
そんな俺の言葉に対して雪川先生は鼻で笑ってこう続けた。
「あんなクズの集まりのことなんか見捨てて当然。少し煽れば、庶民の事を敵対視する。操りやすいものだったぜ」
「……俺は少なくとも全員がクズだとは思わない」
「なに?」
俺は今まで古沢の事を見て来た。その友達の犬飼さんの事も見て来た。その中で感じたのは、誰もがあんな奴らじゃないってことと、話せば分かり合えるってことだ。
確かに俺はずっと生徒の皆さんに虐げられていた。だが、古沢と犬飼さんを見ていると、全員が全員そうじゃないのではないかと思えてくるのだ。
そして何より、俺は古沢が大事だ。どんな状況下でも見捨てることは出来ない。
しかし、俺はこんな状態なので、先生にその事は頼もうかと思ったが、やっぱりダメのようだ……。
俺は先生の事を見限ると、ロープを自力で解いた。
「お、お前、どうやってそれを解いた!」
「……そんな事はどうでもいい。そこを退いてくれないか?」
「それよりも、どうやってロープを――」
「いいからさっさとそこを退きやがれ!」
怒鳴るように言うと、先生二人は意外と小心者のようで、俺の怒声一つで簡単に縮こまってしまった。
とにかく俺は古沢優先で助けに行かなくてはならないので、俺は古沢がいるであろう教室を目指して走り出した。




