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【本編完結】人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます  作者: ミズヤ
第五章 人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます
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第36話 事件だ!

 次の日、今日もまた執事服を着用してお嬢様の部屋に向かう。

 それから優しくノックする。しかし、お嬢様はやはり朝が弱いようで、返事が返ってくるわけがない……なので、俺は「失礼します」と断ってから部屋に一歩踏み込む。


 今日こそは散らかっているはずだ。そう思って部屋を見渡したのだが、昨日と同じく全く散らかっていない綺麗な部屋がそこにあった。

 昨日の物を落としたのと言い、お嬢様が部屋を綺麗に使っていることと言い……。


「じ……事件だぁぁぁぁぁっ――がふっ」


 叫ぶと俺の顔面になにか柔らかいものが投げつけられた。

手に取ってみると、これは枕だ。お嬢様が投げつけたのだろう。恐らくお嬢様なりの煩いという文句なのだろう。しかし、この状況は煩くもなるだろう。寧ろ、煩くならない方が不自然と言えるレベル。

 色んな不吉要素が集まって、その不吉な出来事を現実化されようとしているように感じる。これはいよいよ大変なことになる気がする。


「お嬢様……朝ですよ」


 色々と不吉すぎて、俺はいつもの様に元気に起こすことは出来ない。しかし、お嬢様には学業がある。心配だからって休ませて授業に遅れさせる訳にはいかない……苦渋の決断だが、起きてもらおう。

 俺は何故か近くにあったシンバルを手に取ると、思いきりそのシンバルを鳴らす。


 すると、この部屋の空気が一斉に振動し、俺らの鼓膜に直接攻撃してきたかのような衝撃が走った。寝起きにこのシンバルの音は心臓に悪い。

 しかし、このダメージは二度寝を始めようとしていたお嬢様の方が大きいらしく、涙目になりながらこちらを睨みつけていた。

 そこでお嬢様の一言。


「バカじゃないの?」


 うん、今回の件に関しては俺もそう思う。俺もさっきから耳がじんじんしていたい。

 しかし、俺は分からないことがある。とても分からないことがある。


「何故そこで二度寝を続行しようとする」

「だってぇ〜」

「だってもないぞ。早く起きろ」


 俺が無理やり掛け布団を剥がすと、まるで子供のように「返して」と懇願してきた。しかし、俺はお嬢様を起こしに来たのだ。当然返すわけがない。

 駄々をこねるお嬢様を起こし、朝食を済ませると、俺も学校に行く支度を始める。

 この桟敷学園の制服こそが今日の戦闘着となる。そう考えながら制服の袖に腕を通す。


「よし……戦いの始まりだ」


 小さく呟いて気合を入れて俺は古沢と共に登校した。


 昼休み。もう昼になってしまって、俺が心配していたような事は一切起こらなかった。もちろん来て欲しいって訳じゃない。来ない方が平和的でいいのだ。


「なんかしゅんくん、今日一日ずっとソワソワしているね。なにかあった?」

「あぁ、いや、なんでもない」


 俺がなにか心配事を抱えていたのは犬飼さんにバレていたようだ。心配そうにこちらを見つめる犬飼さん。なにかいつもと様子が誓う。

 昨日だってからかって来たはずなのに、今日はなんだかしおらしい。まぁ、今日に関しては構っている暇などないので、なんでしおらしいのかは分からないけど、それならそれでいいだろう。

 でも犬飼さんのことだ。絶対なにか裏があるに決まっている。

 そう思って俺が訝しげな目で犬飼さんを見つめると、すぐに目をそらされてしまった。うん、この反応は黒だな。


「まぁ、何を考えているのかは分からないけど、程々にな」

「な、なんの事かな〜全然分かんないな〜。昨日、怖い話を聞いてしまって怖いからボディーガードのお零れを頂戴しようとしていたとかじゃないからね!」


 前々から思っていたけどさ、犬飼さんって馬鹿なのか? 聞くまでもなく全部完璧に自白した。しかも本人はその事に気がついていないようで、隠し通せたと思っているらしく、ホッと一息。

 うん。アウトだ。

 しかし、まぁ、確かに犬飼さんに世話になった部分もあるしな……今日くらいは犬飼さんを守ってやっても良いか……しかし、目に見えないものから守るってどうやったらいいんだ?

 すると、隣に居た古沢が小さく俺の制服の袖をつまんで引っ張ってきた。


「なんだ?」

「……風魔君は私の執事。幾ら朱莉でもあげない」


 小動物が必死に自分の所有権を主張しているような、その構図はとても可愛らしい。そんな古沢を見ては俺はその頭を撫でずにはいられなかった。

 すると、さっきから何かの敵のように犬飼さんを睨みつけていた古沢も目を細めて上機嫌になったようで安心する。なんだか本当に古沢は小動物のようだ。


 しかし、ここは学校。そんなことをしていたら当然注目を浴びることになる。まぁ、他の人ならバカップルを見るようなめなんだろうけど、俺の場合はちょっと特殊な事情を抱えているので、俺の方は『古沢の頭を気安く撫でる常識のない庶民』として蔑んだ目を向けられている。

 なんでもそんな目を向けられて俺は慣れているはずなんだが、こうもはっきりとそういう目で見られるとかなり厳しいものがある。

 そういえば、古沢はこんな目で見られて嫌じゃないのか? 俺と一緒に居たら変な目で見られることも多いだろうに、それでも古沢は頑なに学校に居る時は殆ど俺と一緒に居る。


 思えば最初からだ。なんで古沢は見ず知らずの俺に対してあんなに親切に振舞ってくれたんだ? そこら辺の事を聞いたことがなかったような気がする。


「なぁ、ふるざ――」

「風魔君、ちょっといいかな」


 ちょうど聞こうとしたその時、良いのか悪いのか分からないタイミングで黒鉄先生に呼び出されてしまった。確かに古沢に聞くのも重要な事だが、黒鉄先生の情報提供は俺にとって一番大事な話だ。なので、俺は黒鉄先生の話を優先して聞きに行くために席を立った。


「少し行ってくる」


 そう言い残して俺は昨日と同じく廊下に出る。

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