第35話 不吉な予感
その日、帰ってクタクタになっていた俺は普段見ないテレビをつけながら着替えていると、とても気になるニュースが放送された。
『今日、集団での銀行強盗が発生しました。犯人らは未だ逃走中。警察によると、このまま捕まえられなかったら大変なことになる可能性あると供述しております』
銀行強盗か……確かこの近くにも大きい銀行があったような。そう思って興味が引かれた俺は、ニュースをじっくりと見てみることにした。
この近くの銀行なら何度か入ったことがあるので、内装は覚えていた。なので、一つ一つ検証していく。
イスの種類、配置。張り紙の内容、位置。そして、カウンターの数。それら全部を見てみた俺は目を見開くこととなった。
なぜならこの配置、全てが俺の記憶にある銀行の配置と同じなのだ。これは正直まずいかもしれない……本当にこの近くの銀行が強盗され、犯人が逃走中なのだとしたら……お嬢様の身が危ない。
これは警戒しておいた方がいいな。
気を引き締めて古沢お嬢様の執事である証の執事服に袖を通す。
念の為にお嬢様には注意喚起をしておいた方がいいかもしれない。
「それじゃ、やるか……」
パチンと自分の両頬を叩いて気合を入れる。これからが俺の本業の開始だ。
とりあえず朝見たら部屋が散らかっている様子がなかったので、掃除が必要そうな部屋を見て回る。しかし、ここの使用人たちは優秀だ。そう簡単に掃除が必要な部屋が見つかるはずがない。
何も無ければ料理人たちの調理を手伝うだけだが、俺はいつの間にか体育館、厨房、そして、倉庫の前を歩いていた。多分、無意識に試験をした場所を巡っていたのだろう。
俺はこの試験を乗り越えたからこそ、今ここで古沢の専属執事なんかをやらせて貰っている。その事が誇らしい。
なら尚更お嬢様は守り抜かないといけない。全力で、どんな手を使っても、お嬢様には指一本触れさせない……。
そんなことを考えていたら、俺は手にいつの間にかスタンガンを握っていた。
スタンガンをオンにすると、かなりの電圧が流れ始める。これは問題なく起動しているようだ……って、なんで俺はこんな事をしているんだ!? これじゃまるで何がなんでも男からお嬢様を守るメイド長の考え方と一緒じゃないか……。
でも今ならばその気持ちは痛いほどわかる。お嬢様は絶対に失いたくない……。
俺は包丁は使えるけど、メイド長のように刀を持ち歩くなんて怖くてできた物じゃない。この部屋には刀や金属バット、ナイフといった武器になりそうなものが沢山ある。
なぜこんなものがここにあるのかは謎で、闇を感じるが、今はそれでもこれに頼りたい気分だった。そんな大勢の人達に正面からぶつかるだけじゃ勝つことは出来ないだろう。
そして俺は手に持ったスタンガンに目を向けた。
手に馴染む。それはただの箱のような形だからだ。刀のように重心がズレているわけでもなく、バットはそもそも野球をやったことがないので咄嗟に振れるかが心配だ。ナイフなんてどう考えても大勢を相手する武器じゃない。
なら確実に……不意を着いて……このスタンガンで……。
「風魔様!」
この声は焦燥さんの声だ。俺を探している様子。
焦燥さんは何故か俺が部下になったというのに様付けをやめてくれない。焦燥さんによると、それでもやはり俺が古沢の友達であることには変わりないからだという。なんともお堅い考え方だ。
俺はそっとスタンガンを胸ポケットにしまうと、部屋から出ていく。
要件は掃除して欲しい部屋があるとのことなので、その指示に従って掃除していく。
その間も俺の頭からは強盗のニュースが頭から離れなかった。もし、俺が失敗してしまって、古沢を危険に晒してしまったら……そう考えるだけで俺は憂鬱な気持ちになってしまう。そして最悪なのは古沢を失うってことだ。そうなったら俺は責任を取って屋上から飛び降りることになってしまうだろう。
「はぁ……」
図らずため息が漏れてしまう。
この部屋には俺以外にはいないので、今のため息が聞かれた心配はない。だが、そんな事ばかりを考えていたせいで、手に持っていたものを落としてしまった。
下はカーペットだったので、その落とした物には傷一つつかなかったが、俺はそれを見て生きた心地がしなかった。
確かに俺の注意が散漫だったせいで落としたので、誰かに見つかったら怒られることは各自だ。しかし、俺が青ざめた原因はそんなことではない。
「不吉だ」
物を落とすのは昔から不吉だと言われている。
例えば入試勉強中に落とすや落ちる等と言った言葉を連想する事象が起きると、とても不屈だとされている。
俺は今まで入試だろうが、なんだろうが、そんな事は気にしたことがなかった。しかし、今回は意識してしまったのだ。なぜなら今回は俺の大切になった人、お嬢様である古沢の事を考えていたからだ。
このままでは良くないことが起こる。そう確信した俺は落としたものを拾い上げて握りしめた。
「そうはさせない……俺はお嬢様に命を救っていただいた御恩がある。なら次は俺がお嬢様を救うんだ」
その事を口にすることによって気合いの入った俺は、気合を入れて掃除をし、焦燥さんですら驚くほどの掃除をして見せた。




