第34話 黒鉄章翔
俺が廊下に来ると歩いてこっちに来る一人の教師。
白衣を纏っていることから科学分野の教師だと言うことはすぐにわかるだろう。そして黒いフレームのメガネ、酷いくせっ毛は尖りに尖って触ったらとても痛そうだ。
そして人相はとても良く、優しい笑みを浮かべるこの人の名は――
「なにか見つけたんですか? 黒鉄章翔先生」
「あぁ、面白いものを見つけたよ。これで二人の人物は候補から消える」
「本当ですか!?」
今回、黒鉄先生は二人の候補が潰れると言った。確かに俺の候補は三人だが、それも確証はない。つまり、他の先生方の調査もお願いしていたのだ。
だからあの三人の内の誰かが削れるとは限らない。だが、他の先生でも削れるのはありがたい。そして、出てきたのは――
「実は君の両親と同じ時に先生として居たようだが、関わっていなかった先生方がいる。その二人はこの二人だ」
そう言って見せてくれた写真に載っていたのは一枚は社会科の井口先生。ここまでは予想済みだ。しかし、次の写真を見て俺はガッツポーズを取った。なぜなら、その人物は俺の候補である稲光先生だった。
確かに稲光先生はいつの時代もレアキャラだと言われるほどの先生だ。関わったことがなかったとしても何ら違和感がない。因みに俺も見たのは入学式以来で、それ以来は稲光先生の事を見ていない。
稲光先生のレア度は常軌を逸しているので、新聞部に見つかった暁には一面の特大記事になることは間違いない。
でも、俺の中での候補が二人まで絞れたのはありがたい。
「ありがとうございます。これからもお願いしてもいいですか?」
「もちろんだ。君の父さん母さんの事を考えると俺もやらずにはいられなくなってきてしまうからね」
人当たりのいい先生だ。生徒からの信頼も厚い。確か独自に行われた教師人気投票ではトップ三に入るレベルの人気だ。
しかし、俺は気になることがある。それはなんでこんなにこの人は協力的なのかということだ。こんなこそこそと調べ回っていたら危険なこともあるだろう。例えば犯人に見つかった時の事とか……。
あの人は他にもおかしな事がある。
なぜなら俺は両親が稲田正助と達川優子だとは言っていないのだ。だと言うのに入学してすぐに彼は俺のところに来て俺の両親がその二人だという事を見抜いてきて、更に何も言っていないのに犯人探しに協力すると申し出てきたのだ。
今は何もして来ないので、この事には目を瞑っているが、普通に考えれば怪しさしかない。だから警戒を怠ることはしない。
だが、それは最悪のシナリオだ。あの時の犯人に手伝いを求めていたのだと考えただけで寒気がする。まぁ、もしそうなんだとしたら今までに何度も口封じをするタイミングはあったはずなので、その間に何度も口封じをされていただろう。そう考えるとその可能性は否定したい。
だが俺は信頼はしていない。
「風魔君、黒鉄先生と何を話していたの?」
「あぁ、古沢か……ちょっとな」
「えー言えないの?」
あんまり内通者が居るってのは信頼していても言えるものでは無いだろう。だから古沢にも内緒にしておく。
それに古沢ならあの先生を怪しいと言って消してしまいそうだしな。
でも今回のでかなりの進歩だ。三人のうち、一人が外れたことによって残り二人となった。二分の一。これでかなり探しやすくなった。
あともう少し証拠が集まれば見つけることが出来る。
そして、俺は去って行く黒鉄先生の後ろ姿を見つめる。それによってなにか既視感を覚えた。頭にモヤモヤした何かがある。しかし、その正体が全く分からない。黒鉄先生の後ろ姿なんて飽きるほど見ているはずだ。なんで今更既視感なんて……。
まぁ、良いか……。憶えていないって事は大したことじゃないってことだ。
「あの……風魔君?」
「何だ?」
「難しい顔をしてどうしたの? 悩んでいるなら聞くよ?」
そうか……そんなに俺は難しい顔をしてしまっていたのか……。それによってお嬢様に心配をかけてしまったので、とても申し訳ない気持ちになる。
でも今考えても答えは出ないので俺は再び元の席に戻る。
その後の授業も犬飼さんにからかわれたり、ノートを取っていない古沢の看護だったりで忙しく、黒鉄先生の既視感の事はすっかり忘れていた。




