第32話 圧力
想像以上に重たい話が出てきたので、驚いているのだろう。しかし、俺がなぜあの学校に通うかを語るにはこの話は必要不可欠。絶対に語らないといけない話なのだ。
もう何年も前だ。記憶も曖昧なくらい前なので、低学年くらいの時の事だったはずだ。
「俺の両親はどんな人達だったのか、良くは覚えていない。だけど、とても優しい人たちだったってのは覚えている。そしてとんでもない金持ちだったってことも……だけど、ある日、俺の両親は仕事先で殺されたんだ」
「え、殺された?」
「金持ちだ。金に目が眩んだ奴らに狙われるなんて珍しくも何ともない……だが、俺はその真相はそんな簡単なものじゃないと睨んでいる」
俺の両親は仕事柄、色んなやつに狙われるのはよくある事だった。それは仕方がないことなので、常に一流のボディーガードをつけていた。
そんな中でそうそう殺されるようなこと、あるはずがない。俺は予想外の人物に殺されたからこそ、ボディーガードが役に立たなかったと考えている。
「俺はその真相を解き明かしたい」
「ん? でもそこからなんで桟敷学園に通うことに繋がるんですか?」
「俺はこの桟敷学園に真相が隠されていると睨んでいる」
俺はあの家に引き取られてからずっと事件を追っていた。そしてやっとあの学校が怪しいとの情報を掴んだのだ。
しかし、なかなか尻尾を見せないもので、もう一年かかってしまっている。これじゃダメだ。もう二年無いというのに……時間が足りなすぎる。
「まぁ、そんな感じに入ろうとしていたんだけど、親に反対されまくってさ、結局入れて貰えたんだけど、条件として成績を学年で上位をキープしないと退学、しかし、俺は目立ちたくないからあんな目立っているのに目立っていない的なことをする必要があったんだよ」
少々面倒だったが、この条件さえクリアすれば調べることが出来ると必死になって勉強、目立たない工夫をしまくった。
そのお陰で少し情報が集まったのだ。なんでも桟敷学園の教員が怪しいと……。
桟敷学園の教師は入れ替わりがないのだ。なので、昔居た教師は高確率でいる。つまり、俺の真の両親の事件に関わっている教師はまだ居る可能性は高い。
俺は今更その人をどうこうしようとも思っていない。だが、俺は両親が死んだ真相が知りたかっただけなのだ。
確かにあんな学園に居る理由としては薄いかもしれない。だが、それでもいいのだ。
俺の両親が油断する人物であり、騙し討ちができた人物。
「でも、どうしてそれでこの学校の先生が怪しいと思ったの?」
確かにこれだけじゃ理由としては不十分だ。俺の両親が油断した理由にもならない。だが、俺はあるものを見て確信したのだ。
今までの証拠と、そのある物を見たらここしかないと。
「俺は過去の生徒名簿を見た。そこに書いてあったんだよ。俺の両親の名前、稲田正助と達川優子の名が」
俺の苗字である風魔は引き取られ先の苗字だ。本当の名前は稲田春人。
稲田財閥の御曹司として生まれたのだ。
「い、稲田!? それに達川って……」
古沢が驚くのも無理はない。俺も調べているうちにわかったことだが、俺も物凄く驚いた記憶がある。
どちらも凄いところの子供として生まれたのだが、母さんが嫁に入る形で収束して、稲田を受け継ぐことになったらしい。
そして、その二人はこの学校を出ているのだ。もし恩師であれば、油断するのも無理はない。なにせ、信頼を置いている人なんだから疑うことも無いだろう。だが、このような悲惨な事件は発生してしまった。
「だから俺はこの事件は桟敷学園の教員による犯行だと考えるのだが、古沢はどう思う?」
「えっと……急に物凄い重い話になっていて、ついていけてないというか……」
まぁ、そうだよな。急にこんな話をされてついていける人なんていない。だから今まで誰にも話さなかったんだ。
そして捜査を続けていたある日、急に父さんの会社が倒産。俺は虐げられるようになって、前みたいに目立たずに悠々と捜査をしていることが出来なくなってしまったので、俺はもう諦めてもいいんじゃないかと思って、あの日、屋上に向かった。
そしてもう少しで飛び降りるってところで古沢が来たんだ。
俺は古沢に命と野望の二つを助けて貰ったってことになる。
「本当に……ありがとう」
俺の手はいつの間にか古沢の頭を撫でていた。すると、古沢は静かに顔を紅潮させると、俯きがちになりながらぽつりぽつりと言葉を呟き始めた。
「風魔君は今の今まで頑張ったよ。虐げられながらも己の信念をしっかりと持って行動出来る人はそうそういないよ。そんな風魔君だから私は……」
そこで古沢は一泊置いた。そしてニコッと笑みを浮かべながら次の言葉を放った。
「今までよく頑張りました」
その言葉に俺の涙腺は耐えきれなかった。静かに俺の目から涙の粒がこぼれ落ちる。
いつの間にか撫でられている人は逆になっていた。古沢が優しい手付きで俺の頭を撫でてきている。撫で慣れていないだろうと予想の付く撫で方だが、それが俺にとってはすごく安心出来る状況だった。
「それに、風魔君はいつも私に助けられてばかりだと口にするけど、私だって助けられているんですよ」
「え?」
「覚えているでしょうか……一年生の頃、わた――」
「おっまたせ〜っ!」
なんと間が悪いのだろうか。今、古沢が話そうとしている時に犬飼さんが帰ってきた。
随分と元気で楽しそうな犬飼さんを見て古沢は睨みつけた。その睨みは彼女には似合っていないので可愛らしいものだが、犬飼さんには効果覿面のようだ。
「で、なんだって?」
俺は話の続きが気になるので、その先を聞く。しかし、古沢は頬を膨らませて「知りません」と俺の言葉を一蹴した。
「じゃあ、私も料理を頼もうかな」
そして犬飼さんがメニューを見始めるや否や、古沢は犬飼さんからメニューを奪い取ってナポリタンを追加注文した。
俺ら二人が古沢の行為に何がしたいのか困惑していると、古沢は爽やかな笑顔で言い放った。
「ここは犬飼さんの奢りですので、好きなだけ食べてもよろしいと思われますよ」
「よろしくないよ! なんで私の奢りなのさっ! それに犬飼さんって何!? いつも通りに朱莉って呼んでよ〜!!」
「どうしたんですか犬飼さん?」
「いや、だから――」
「何か問題でも犬飼さん?」
「だ、だから――」
「犬飼さん?」
「……はい」
あの犬飼さんを圧力だけで鎮圧させただと!? 確かに間が悪い時に入って来たからイラッとしたのかもしれないけどこれはちょっと可哀想だな……。
しかし、ここで古沢の新たな一面が見られたかもしれない。古沢は怒ると怖い……。
そしてここでの会計の時に犬飼さんが少し可哀想だと思ったので、俺も半分出そうとしたのだが、財布を出そうとした瞬間に古沢に肩を掴まれて無言の圧力を掛けられたので、結局会計は犬飼さん一人で持つ事となった。
そして今日はここで解散ということになった。目当ての物も買えたようだし、古沢はニコニコ顔で満足そうだ。
そんな時に犬飼さんが問いかけてくる。
「きょ、今日はどうだったかい?」
いや、涙目のあなたがどうだったのか俺は知りたいよ……まぁ、涙目の理由は最後のあれなんだろうけどな。
あんなに怖い古沢は初めて見た。
でも感想を言うとしたら、
「楽しかったですよ」
「そう、それは良かった」
そこで犬飼さんは安堵の表情をした。しかし、なんで安堵の表情をするのかがわからなくて呆けていた俺に古沢が教えてくれた。
「今回のこの外出は彼女が企画したのです。コンセプトはあなたを楽しませることだったので、それで安堵しているのでしょう」
そういう事か……犬飼さんなりに俺の事を考えてくれていたのか……ならお礼を言わないとな。
俺は犬飼さんの方へと一歩踏み出した。二人とも、俺が何をしようとしているのか分からないらしく、首を傾げている。
そんな犬飼さんの頭に俺は手を乗せて、ゆっくりと撫で始めた。
「今日はありがとう」
そこで犬飼さんが顔を紅潮させた。犬飼さんのこんな表情は初めてなので、とても新鮮だ。なので、俺は調子に乗っていつもより多く撫でてしまった。
「うん、確かにこれはいい……ゆららんが虜になるのもわかる気がする」
「わ、私は別に虜になんかなってないから!」
古沢は少し怒ったような口調で言い返すと、犬飼さんの頭の上にある俺の手を掴むと、強制連行並みの力で俺を引き摺って帰り始めた。
その時俺らは見ていなかった。犬飼さんが自分の頭に手を当てて優しく微笑んだところを――
「たらしは困るね……じゃ、私も帰ろうかな」
はい! これにて第四章終了です
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