第27話 手伝うは隠語である
暫く走ると屋敷に帰ってくることが出来た。
久しぶりの登校で疲れた俺は執事服に着替える前にベッドに少しだけ横になった。
「よし、今日も頑張りますか!」
頬を叩いて気合を入れると、今まで着ていた学校の制服は脱いでハンガーにかけ、執事服を手に取ると袖を通した。
まだ一回も着た事の無かった服だったので、生地がまだ固くて動きにくい。しかし、この執事服を着れるのが地味に嬉しく思ったので、そんな事は些細なこととなった。
執事服に着替えたら今日の仕事開始だ。
古沢の専属執事である俺の仕事は基本的に古沢の世話だ。ということで、まずは古沢の部屋の掃除から始めることにする。
今朝見た時は地獄絵図となっていたので、掃除したくてしたくて仕方がなかったのだ。
「お嬢様〜部屋の掃除をしに来ました〜」
「へ? 風魔君!?」
中から古沢の慌てる声が聞こえてきた。そして何やら中から騒がしい音が聞こえていている。何をしているのかは分からないけど、あれは大丈夫なのか?
ドタンバタン、ガーゴー、時折お嬢様の悲鳴が聞こえてくる。
そんな状況に耐えきれなくなった俺は部屋のドアノブに手をかけた。
「お嬢様、入りますよ〜」
「ま、まってぇっ!」
中から古沢の必死な声が聞こえてくるが、もう我慢の限界だ。
俺は古沢の言葉を無視して強行入室を決行した。すると、そんな俺の視界に映り込んできたのは、何から何まで散乱してしまっていて、今朝の状況よりも酷くなった室内。極めつけは、転んだのか服に埋まった古沢が倒れていた。
そして近くには掃除機が転がっていた。
そこでさっきの騒がしさの合点が行った。多分、古沢は自分で掃除をしようとして失敗したのか……いや、待てよ? 掃除をして逆に散らかるなんて事は有り得るのか?
「もしかして、俺が誰かに掃除をするのが好きだって聞いて掃除量を増やしてくれたのか? 俺、別に掃除が好きなわけじゃないぞ?」
「違うんです!」
どうやら俺の考えは違ったらしい。しかし、そうなると残り考えられるのは失敗したことしか――
「風魔君が来たから、少しでも好印象を持って欲しくて……掃除していたら、こうなりました」
この子、ダメな子だ……。
しかし、好印象ねぇ……別に他の部分に関しては好印象だから問題はない。しかし、掃除に失敗するとは……俺の好感度がダダ下がりだ。
「いいよ、執事である俺が掃除ならやっとくから気にしなくても――」
「だ、だけどだけど、手伝いくらいは」
「やめてくださいお願いしますベッドの上で大人しくしていて下さい」
「ど、土下座!?」
古沢に掃除関連の事をやらせたらどんなことになるか想像もできない。以前の俺は若かったので、もしかしたら手伝いくらいならお願いしていたかもしれない。しかし、今回のことで分かった。
多分、掃除関係は何やらせてもダメだ。
「むー」
「膨れてもダメだ」
俺は古沢の申し出を一蹴して掃除に取り掛かった。
まずは見回してみる。多分、これは前に一回掃除した時より散らかっている説があるな。しかし、掃除してここまで散らかすとは……センスの問題ではなく、態とを疑った方がいい。なにせ、仕舞ってあったはずの物も出てきているのだから。
その光景に圧倒されながらも俺は片付け始める。
この狭い空間なのに圧倒的に広い世界を掃除しようとしている様に感じる。
それでも俺は古沢の専属執事だ。このくらいの事をこなさないとこの先やっていけない。
「よしやりますか」
意気込んで片付け始めた――のはいいが、それは予想以上の難敵で、掃除は夕食を跨いで行う事となった。
その調子で掃除を続け、やっと掃除が終了したのは開始から夕食の時間を抜いて三時間後の九時の事だった。
「やっと終わった〜」
「お疲れ様。ありがとうございます。なにからなにまで……」
「いいや、大丈夫だ」
「こ、今度こそ手伝うからっ!」
今度こそって……またすぐに散らかす気満々かよ……まぁ、そうなりそうな気はするけど、今聞き捨てならない台詞が聞こえてきたような気がする。
手伝う……だと!?
それは何かの隠語なのか? どちらにせよそうはさせない!
「そ、それだけは勘弁してください! この場所が早まってはダメです。お命は大事になさってください……っ!」
「なんか手伝うって言っただけなのに、微妙に壮大なスケールになっているような気が……。そ、それに命を大事にって、会った時に今にも校舎の屋上から飛び降りそうになっていた人には言われたくありません!」
お、仰っている事はご尤もだ。
確かに俺は自殺しようとしているところを古沢に止められた口だもんな、俺は人の事言えるやつじゃなかった。
それにしても散らかって酷かった部屋を綺麗にすると、疲労感と達成感で幸せな気分になるな。そして、その疲労が心地よくて……なんだか眠くなってきて……。
そこで俺の意識は途切れた。
☆☆☆☆☆
俺は朝日が差し込んできたのを感じて意識が覚醒した……って、ちょっとまて。
俺は常にカーテンを閉めている部屋で寝ているんだ。なんで朝日が差し込んできているんだ?
俺は慌てて重たい瞼を開く。すると、そこは俺の部屋ではなかった。いつも状態を起こすと見えていた俺の制服も見当たらない。
その代わり、状態を起こすと、そこに見えたのは女子の制服だった。
この屋敷に桟敷学園の女子制服がある部屋なんて一つしかない。
「お、おはようございます。ふふっ、お寝坊さんですね」
「お、お嬢様? あぁ、疲れてお嬢様の幻覚が見える……」
「げ、現実だよ!?」
現実逃避をしようと押ていた俺の体を古沢は前後に揺らして、ここが現実であることを教えてくれたが、この事実は知りたくない事実だったよ……。
つまり俺は昨日、お嬢様と一緒に寝てしまったということだ。
なんて言うことだ……こんな事が他の人に知られたらクビなんかじゃ済まない。きっと、佐藤さんの持っていた刀で首を一刀両断されてしまう。
そんな事を考えながら脅えていると、古沢お嬢様は何か悪いことを思いついたのか、ニヤリと口元を歪めると、突拍子も無いことを言い出した。
「今日、朱莉と一緒に買い物に行きます。その時にボディーガードとして着いてきてくれませんか?」
「放課後にか?」
「放課後? 何言っているんですか、今日は土曜日ですよ」
言われて日付を見てみる。確かに今日は土曜日のようだ。学校もないし、朝から出かけることも出来るだろう。
「しかし、なんで俺なんだ? ボディーガードなら幾らでも居るだろう。俺は仕事をしているからさ、行ってこいよ」
すると、古沢は頬を膨らませながら呟くように言う。
「なんか、風魔君と同じ部屋で一晩過ごしたってメイドたちに自慢したくなってきたな〜」
これは来ないと、ここで寝たことをメイドにばらすという脅し!?
そんな事をされたら俺の人生が終わってしまう! 社会的にも、肉体的にも!
なんて卑怯な手を使うんだ!? 俺がその程度の脅しに屈するわけ――
「謹んでお受けします」
「よろしい」
ありました。
かくして俺はお嬢様の付き添いとして同行することになりました。
はい! これにて第三章終了です
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