第26話 優良物件
教室に戻ると、さっきまでの重い雰囲気は解消され、古沢は犬飼さんと何やら楽しげに話していた。まぁ、俺には関係ないが、さっきまでの雰囲気が解消されていて良かった。
そして俺は古沢の頬に冷たい緑茶を当てた。
「ひゃんっ!」
なんだか可愛らしい声が飛び出したな。その声を聞いて犬飼さんもニヤニヤしているし。
「も、もう〜」
「わ、わりぃ」
俺の胸をポカポカと叩いてくる古沢。怒っているようだが、全く怖くなく、可愛らしい怒り方なので、何故かホッコリとしてしまう。
「で、でも……ありがとう」
小さくお礼を言って緑茶を受け取って飲み始める古沢。両手で持って飲んでいるところが小動物を連想させる。とても可愛らしい姿だ。
その光景にホッコリとしていると犬飼さんが小声で俺に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、風魔さん」
「なんだい犬飼さん」
「ゆららんって優良物件だと思わない?」
「確かに可愛いな、そして気遣いも完璧だ。これほど良い子はいない」
たった一つの問題以外はだがな。
「お、お客さん、分かってるね〜」
誰がお客さんだ誰が!
「今が買い時ですよ。私が丹精込めて育てあげたゆららん、どうっすか?」
「何がどうっすか? だ。あとお前は古沢の親か!」
やっぱり犬飼のボケに付き合っていると疲れてしまう。ただでさえ、朝から色んなことがありすぎて疲れているってのに、これ以上体力を使わせないで頂けるとありがたいんだけどな……。
確かに優良物件だとは俺も思うけどさ、たった一つの問題のせいで台無しなんだよな……。まぁ、直ぐに散らかってしまう。あれは最早魔法と言っても過言ではない。
それくらいのものだ。
数日前に掃除したばかりなのに、直ぐに足の踏み場も無いくらいにするって……何をしたらあんな風になるんだろうか。
「それじゃ、帰るか……」
俺は自分の荷物と古沢の荷物を持つ。
「お持ちしますよ。お嬢様」
「あ、ありがとう……」
すると、古沢は顔を真っ赤に紅潮させた。なんでかは知らないが、怒っているのか? もしかして、この荷物を持たれたくなかったとか?
だとしたら直ぐに謝らないといけない。
「す、すまん!」
「……へ?」
俺が頭を下げた瞬間、古沢の口から素っ頓狂な声が聞こえてきた。そして少し顔を上に上げて表情を伺ってみると、何やら呆けたような表情をしていた。
すると、犬飼さんが俺の隣に来て、肩を叩いてきた。
その行為に俺が怪訝な目で見ると、犬飼さんは面白いものを見たとでも言いたげな感じで笑いながら言った。
「いや、今のは怒ったわけじゃないよ。くくく、ただ、ゆららんはて――」
犬飼さんがその先を言おうとした瞬間、古沢の手が恐らく光の速さを越えたであろうスピードで飛んできて犬飼さんの口を塞いだ。
古沢の表情を見てみると物凄く必死だってのが伝わってくる。
どうやら犬飼さんは古沢にとってNGなワードを言おうとしてしまったらしい。
しかし、怒ってないってどういうことだ? 顔が真っ赤になるレベルで怒っているんじゃなかったのか?
「と、とにかく帰りましょう!」
「お、おい!」
俺の手を引いて足早に教室を後にする古沢。犬飼さんを置いて行ってよかったのか?




