第22話 普通の反応
そんなこんなで歩いていると、いつの間にか学校に辿り着いていた。
俺がこの学校に来るのはあの時、屋上に行った時以来だ。あの時にお嬢様が来てくれなかったら俺はこの場に居なかっただろう。
しかし、問題はまだまだ山積みだ。なにせここは俺にとって充分な勉強ができる場では無いのだから。
この庶民に落ちてからは授業中の学習妨害は当たり前。教科書は墨汁の海に沈めれらる。
極めつけは登校したら俺の席だけ無いのだ。
しかし、このような行為を教師は黙認している。俺の見立てでは生徒と共に、このような行為を行っている教師も居ると考えている。というかこれは殆ど確定のようなものだ。
学園側は『自分たちが退学するように進めた』という筋書きではなく『飽くまでも自主的に己の身の丈に似合わないと気がついて退学して行った』という筋書きが欲しいのだろう。そのせいで、苦しんでいる人は沢山いる。
しかし、お嬢様に頼んで来させてもらっているのだ。もうあんな陰湿な嫌がらせに屈する訳にはいかない。
「ねぇ、ゆららん。あの人って執事なんでしょ? この学校は使用人は連れ来ちゃダメなんだよ」
「分かっているわよ。彼は服装を見て分かるとおりに、在校生」
「え、えぇぇぇぇええぇぇっ!」
犬飼さんの驚いた声が響き渡った。
でもそれは仕方がないだろう。普通は同い年の使用人が居るなんて思わないもんな。
だが、事実だ。俺の今着ている制服は、この学校の桟敷学園の制服。そして胸に執事バッチをつけている。これらのことで、俺はこの学校に通いながら古沢の執事をやっているってことも分かる。
しかし、ここで疑問が生じる。この学校は別にアルバイトは規制されてはいないが、なんでお嬢様学校に通っている人がアルバイトの様なものをしているのだろうと。
そこで、一つの可能性が思いつく。庶民に落ちてしまった人なのでは無いかと。
しかし、その連想は当たっているし、そう連想してしまうのは仕方がないことなので、もう諦めることにした。
犬飼さんは何かに気がついたような表情をしている。ついにここまでのようだな。
「……ゆららん、行こう? ああいう人と関わっちゃダメだよ」
仕方がない事だ。それは分かっている、分かっているが、傷つくな……。
でも仕方がないことなんだ。それがこの学校では常識になっているんだから……。
古沢まで連れていかれてしまった。多分、これからは犬飼さんのガードが入るから学校では一緒に居ることは出来なくなるだろう。
俺は祈る。どうにか、古沢には災いが降りかかりませんように……と。
その時だった。
「ふざけないで!」
古沢の怒号が周囲に響く。それに驚いて俺も足を止めてしまった。
何かを怒っている? どうやら犬飼さんに言ったようで、今の凄みのある怒号に犬飼さんは恐怖してしまって腰が抜けてしまったようで、その場で尻もちを着いている。
まったく、何やってるんだあいつは……折角の友達にあんな風に怒号を飛ばして……。
すると、少しだけ会話の内容が聞こえてきた。
「庶民だから近寄っちゃダメ? 庶民が移る? ふざけないでよ……それは学校側が勝手に言っているだけ……風魔君の事を何も知らないくせに……っ! 風魔君は私の大切な人なの!」
……は?
少し古沢の演説に聞き入っていたがこいつ、最後になんて言った?
最後の言葉に反応してスルーしようとしていた通行人たちが立ち止まってしまったじゃないか。
古沢の目尻には涙が浮かんでいた。
多分、俺の事を悪く言われたから怒っているのだろう。だが、そんな事で怒る必要は無いのに、なんでそんな喧嘩を売りに行くような事を言うんだよ……。
これは一種のイジメだ。助けようとしたら助けた側もイジメられる。それがこの世の理だ。そんなのは見ていられない。
お嬢様がイジメられて居るのは絶対に見たくない。お嬢様をイジメようという不貞な輩が居るのだとしたら、殴ることも致し方なしだ。
そんな事を考えていると、ゆっくりと犬飼さんが立ち上がった。そして古沢にぺこりと頭を下げると俺の方へとやってきた。
「良かったね。大切な人だって〜」
「あんなことを言われたからってお嬢様に何かしてみろ。再起不能レベルまで追い込んでやる。精神的にも、物理的にも」
「あはは、そんな事はしないって。ゆららんは私にとっても大切な人だからね。でも、少し妬けちゃうな……。ねぇ、風魔君。ゆららんっていくらでお持ち帰りOK?」
「うちはそのようなサービスは行っておりません」
何故か古沢は女の子に好かれやすいみたいだ。性的にだが……。
でもその事は当の本人は全く気がついていない。多分古沢にとっては本当にただの友達って感覚なんだろうな。
でも、少しいいことを知れたしいいか。この事は、今後犬飼さんを揺さぶるネタに使えそうだ。これで信頼出来る仲間が誕生したな。
全く情のない仲間の作り方だが、今の俺に情を求める方が間違っているのだ。今の俺は情なんて言っている暇はない。
なにせこの学校全体が敵なのだから。




