第21話 友達
そんなこんなで食堂に着くと、予想通り大量の食物が、そこには存在していた。そしてお嬢様は唐揚げが好きらしく、毎朝食に入っているような気がする。しかし、確かに肉汁が溢れてきて、肉の旨みもぎゅっと凝縮されているので、大変美味しいでございます。
しかし、一般人が朝からこれを食べるのはきついな。そう考えて今日も朝から気が重い。多分、これを食べきった暁にはぶっ倒れてしまいそうなので、残った分を古沢にあげる。
古沢は朝ならどんな量でもどんなに油っこいものでも食べられるので、あとの処理は任せることにしている。
しっかし、いい食いっぷりだな。どんどんとおかずが無くなっていく。その光景は見ていてなかなか楽しいものだ。
食べ終わったら急いで支度して屋敷を飛び出す。
昨日は送り迎えを見たので、別に歩く必要は無いんじゃ無いかと思ったが、古沢がそうしたいと仰られたので、今現在優雅に歩いている。
今まで通学路を歩くだけで気分が重くなっていた。しかし、今日は気分が晴れている。なにせ、今日の俺は古沢の執事なんだからな。
だが、そこで俺は大きな問題に気がついてしまった。
俺のお嬢様は絶世の美少女。そんな奴と冴えない奴が一緒に歩いていたら、どのような視線を浴びる羽目になるか、その事に気がついたのだ。
当然その視線はいいものでは無い。妬み、嫉み。その類が複雑に混ざりあって一つの凶器を作り出していた。
嫌な感じだ。前までとは全く別の方向性で注目を浴びてしまっている。元々俺は注目を浴びるのが苦手だ。なので、この視線を長時間浴びてしまうと体調に異常を来たしてしまうかもしれない。
しかし、お嬢様と一緒に学校に行きたいのは本当の事だ。なので、この程度の視線には屈しない。
その時だった。なにやら横から誰かが飛びかかってきたようだ。
咄嗟に俺は距離を取るが、狙いはお嬢様だったようで、お嬢様に一直線で飛んでいく。
しまった。ボディーガードとしたことが、お嬢様に飛び掛る何者かを止められない!
「ゆららん!」
その人物はなにやら奇怪な単語を叫ぶとお嬢様に抱きついた。この状況はお嬢様を人質に取られてしまったに違いない……くそ、俺が居ながら。
俺は相手の確認をするために目を向ける。
相手は中学生のように見える風貌。綺麗な赤髪。そして、お嬢様並みの童顔。たった一つの点を抜いたら殆どお嬢様と変わりない。
そのたった一つの相違点は、その暴力的な胸だ。あの幼い容姿には似合わないほどの暴力的な胸。あんなのを押し付けられたら並の男子だったら骨抜きにされてしまうだろう。
しかし、幾ら可愛い女の子といえども、警戒を怠ることはしない。なにせ、お嬢様が捕えられているのには変わりないのだから。
「お、お前は何が目的だ」
「「……へ?」」
普通の事を聞いただけなのに双方から気が抜ける声が聞こえてきた。
すると、赤髪の女の子は一瞬考えて、掌を叩いてポンと鳴らすと、その答えを教えてくれた。
「ふははは。彼女は私が確保した! 返して欲しければ、このまま私がゆららんを堪能すうるのを暫くそこで見ているがいい!」
「なんて卑劣なことをするんだ!」
「……お二人共、何の話をしているのですか?」
その古沢による純粋な疑問をぶつけられた事によって、俺の中での妄想は崩れ落ちて、俺は漸く現実世界に戻ってくることが出来た。
「彼女は私の友達の犬飼朱莉さんと言います。彼女は結構悪ふざけが過ぎることがありますので、全てを信じるのではなく、生涯を通しての一割を信じると言った工夫が必要ですね」
「生涯を通しての一割って少なくない!?」
どうやらこの人はお友達だったらしい。その事を知ったらさっきまでの自分の愚かな脳内被害は恥ずかしくて、とてもじゃないが口外出来るものではなくなった。
まぁ、多分、何を考えていたかは古沢と、この犬飼さんにはバレているだろうけどな。
しかし、お嬢様にお友達か……よかった、学校で一人ぼっちとかではなくて。とりあえず一安心だ。
と、そこで彼女の興味は俺の方へと移る。なにやら希少種の虫を捕まえた虫取り少年のようなキラキラとした瞳で俺の事を見てきている。
「ところで、この男性は? ゆららんの彼氏? それならそうと早く言ってよ〜」
「ち、ちちち、違うわよ!」
動揺しすぎだろ。それじゃ、ありえない事なのに、あたかも本当のように見えるじゃないか。
これはフォローしなくてはならないらしい。こういうのも執事の仕事だと思う。
「俺は風魔春人だ。そこの由良お嬢様の執事をやっている」
「あれ? そうなんですか? 私はてっきり付き合っているものかと……あ、でも執事と主の禁断の恋……興奮するわ」
「興奮せんでよろしい」
少し息を荒くして興奮し始めた犬飼さん。そんな犬飼さんの事を止めるように古沢がハリセンを取り出して頭に叩きつけていた。
それから少し言い合いをする二人。その会話を聞いているだけでどれだけ仲が良いかが伺えてくる。執事として、お嬢様に仲の良い友達が居るのは大変喜ばしいことだ。
「急に頭叩いて、アホになったらどうするん?」
「今も充分、似たようなものだけど、そうなっても安心して。……丁重に距離を置かせてもらうから」
「それ安心できない! 全然安心出来ないやつだからっ!」
なにやらコントのように聞こえてくる二人の会話。互いに憎まれ口を叩いているが、険悪なムードになることはない。その様子を見て思わず微笑んでしまった。
それに直ぐに気がついて気を引きしめる。幸いにも二人は会話に夢中で俺が微笑んだことには気がついていないようだ。今回はセーフだったってことだな。




