第19話 ボディーガードとして
五時。古沢――お嬢様の帰宅時間だ。
その時間に俺は門の前で古沢の帰りを待っていた。
すると、やっと古沢を乗せた車がこちらへ走ってきた。どうやら、あの夜は何故か徒歩だったようだが、普段は送り迎えがあるようだ。
車から降りると古沢は丁寧にお礼を言って戸を閉める。そこで俺は古沢の前に出ていった。
「よ、古沢お嬢様」
「っ!?」
その瞬間、古沢は俺から逃げようとしたのだ。俺はそんな古沢の手を掴んで引き止める。勢いで掴んでしまった手だが、お嬢様――女の子の手は華奢で、柔らかくて力を入れたら直ぐに折れてしまいそうだと感じた。
すると、古沢も諦めたように、こちらに向き直る。
「強引なんですね」
「男はみんな強引なんだぞ」
ニヘラと笑ってみせる。そんな俺を見て古沢はクスッと笑った。
その笑いに釣られて俺も笑みが零れる。一緒に笑うことによって少し離れかけていた距離が一気に縮まったように感じた。
「古沢。やっぱり、これ以上受け取ることは出来ないわ」
「……そうですか」
古沢は俺の言葉を聞いて残念そうな声を出して俯いてしまった。その様子を見て俺の胸は傷んだ。やっぱり古沢には笑顔でいて欲しい、本能がそう訴えかけているような気がした。
でも、俺は事前に考え、頭の中で整理した言葉を並べ続けていく。
「そうだ。これ以上古沢から施しを受けるのは、申し訳ないんだ」
「そ、そんな事は全然ありません! 風魔君が負い目を感じることなんて何一つない。寧ろ謝らなくてはならないのは私の方なんです……私が勝手に一緒に通いたいと思っただけで、こんなに風魔君を悩ませて苦しませてしまって……もう合わせる顔がありません」
「いや、苦しませていたのは俺の方だ。本当に悪かった」
「いや、苦しませてしまったのは私の方です! 風魔君が謝ることなんて何一つありませんっ!」
「いや、俺が」
「いや、私です!」
いつの間にかどっちが悪いかという話になっていた。互いに互いの事を思いあった喧嘩だった。その事に気がついて共に顔を見合わせると一緒に小さく笑った。
なんだ……もう既に答えはあったじゃないか。
「古沢。執事としてこれ以上施しを受けることは出来ない」
「だからそれは――」
「だけど、執事としてボディーガードとしてなら、一緒に行くことを考えないでもない」
「ボディーガード?」
「あぁ、そうだ」
古沢のガードの甘さには目に余るものがある。
多分違うクラスだから四六時中ボディーガードをする事は出来ないだろうが、俺には他の使用人とは決定的に違う点が一つある。
それは俺が桟敷学園の在校生だって事だ。
桟敷学園は基本的に教師か在校生しか入れない。そのため、ボディーガードなんかも学校には入れず、学校に居る間は守る人が誰も居なくなってしまう。
仮にもお嬢様たちだ。幾ら学校の方針だからといってボディーガードをつけないのは不安が残ってしまう。
だからこの俺がボディーガードをやろうと考えたわけだ。
俺は執事だ。――執事というのは清掃員、料理人、ボディーガードの全ての試験で合格しなければ成れない使用人だ。
そのため、執事の俺はボディーガードとなることもできると実質的に認められていることになる。
「俺がお前を命に代えても守り抜いてみせるさ」
「……もう、バカ」
「おい、バカとはなんだバカとは」
俺を罵倒してくる古沢だが、俺の胸に抱きついてきた。本当は不安だったのかもしれない。だが、これからは俺がボディーガードをすると決めたから大丈夫だ。
「古沢」
「ねぇ、風魔君。ボディーガードとして私と一緒に学校に通って下さい」
俺は古沢のその言葉を待っていた。だから俺はその言葉を聞いた瞬間、ニカッと笑って古沢の頭をそっと優しく撫でながら言った。
「勿論だ」
初めてだった。こんなに心を揺れ動かされたのは……だが、古沢ならいいと思える。
俺は人生に疲れて自殺しようとしたところを古沢に助けられた。だから今度は俺が古沢を助ける番だ。
俺は人生に疲れたのでお嬢様に、命の恩人に……人生を捧げます。
はい! これにて第二章終了です。
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