第17話 行きたいです
そんなこんなで共に食堂へ来るとやはり昨日や朝食と同じように両端に料理が置いてある。しかし、一つだけ違うものがある。それは、メニューだ。
今日の夕食のメニューは確かに俺が考えたメニューとなっているようだ。
ふんわりたまごのコンソメスープ。シーフードサラダ。そしておろしハンバーグ。
まぁ、おろしハンバーグだけ和食なのは気にしないでいただけるとありがたいと言ったところか。
席に着くと古沢は目を輝かせる。どうやらお気に召していただけたようで一安心だ。
それから俺と古沢は同時にいただきますと言ってから食べ始めた。
うん、美味い。多分これは俺のレシピ以外にも美味しくなるように工夫されているような気がする。さすがプロの料理人だ。
そして古沢の方の確認もしてみる。
とりあえず古沢は今のところニコニコしながら食べているので問題は無さそうだ。というかあんなに嬉しそうに食べられると考案した側としては嬉しいような照れくさいような不思議な気分だ。
古沢が美味しそうに食べている。その光景を見ていると俺の頬はだんだんと緩んできた。
「風魔君?」
「は、はいっ!」
「ん? 変な風魔君」
危ない。もう少しで古沢を見て頬を緩ませているところを古沢本人に見られるところだった。
「で、なんだ?」
「本当に学校に通う気はないんですか?」
「ない。今の俺は庶民……いや、それ以下だ。学費なんて払えねぇ」
「そうなんだ……でもでも、学費くらいなら私が出しても――」
「ダメだっ!」
少し強い口調で断ってしまったことによって古沢に若干の恐怖を感じた。今のは失敗だな。
嫌なわけじゃない。寧ろそんなに高待遇でここに匿ってもらってありがたいくらいだ。しかし、そんなに受け取る訳にはいかない。
何せ、もう既に返しきれないほどの恩を受け取っているというのに更に受け取るというのはダメだと判断したのだ。これ以上求めるのは傲慢だ。
しかし、古沢は何か言いたげな様子。その古沢をじっと見ていると俺の視線に気がついたのか頬を赤く染めて顔を逸らしてしまった。本当に古沢のやつは何がしたいんだ?
「もう……じゃあさ、風魔君」
「今度はなんだ?」
「風魔君はさ、本当に戻りたくないの?」
戻りたくないか……か。確かにあそこは碌でもない学校だ。金持ちしか人権は与えられない、今の俺にとっては地獄のような場所だ。
しかし、あそこには確実に俺の求めるものがあった。
歯を食いしばって必死に喉から出かかった言葉を外に漏らさないように堪える。
ダメなんだ。
すると古沢はそんな俺を見兼ねたのか、優しい表情をした。その状態で俺に言葉をかけてくれる。
「行きたくなったら直ぐに言ってね。私は応援するよ!」
くそ、今そんな表情をするんじゃ、ねぇよ。そんな表情をされたら思わず口にしてしまいそうだ。
――行きたいです。という言葉を……。
だが、必死に堪える。
そして俺も必死に崩れかけた表情を繕って返した。
「考えてみる」
それが今の俺にとっては精一杯の台詞だった。だが、お嬢様にとってはその言葉だけで充分だったようで、俺に対して微笑んだ。
俺は心が疲れていたせいもあるのか、そのほほ笑みを見た瞬間、頬を何か液体のようなものが流れて行った。
指で救ってみると透明の液体で、それが何なのかは一瞬分からなかった。だが、その答えは直ぐに出た。
そう、それは涙だった。
気がつけばもう流さないと決めていた涙が溢れてきて止まらなかった。まるで、ダムが決壊したかのように、どんどんと溢れてきて止まらなくなった。
「風魔君。大丈夫?」
頼むから、そんな表情を今俺に向けないでくれ……。涙が止まらなくなってしまう。
「……悪い……俺、部屋に戻る。今は一人にしてくれないか? 執事として職務放棄することは許してくれ」
もう耐えきれなくなった俺は、それだけ言うと食堂を飛び出していき、自分の部屋に駆け込んだ。




