第11話 使用人テスト1
「テスト……ですか?」
「ええ、テストでございます」
「テストって、使用人のテストですか?」
焦燥さんはそんな俺の問いに頷くと、このテストの概要の説明を始めてくれた。
「このテストはあなたはどの分野の仕事が得意なのか、そもそも使用人としての能力は如何程のものかを試すためのテストです。項目は三つほどあり、それぞれに対応したテストが決められています。本来はお嬢様監視の元で行われるのですが、今回は居らっしゃいませんので、お嬢様の不在時を任されております、この焦燥が試験監督を務めさせていただきます」
なるほど、能力検査というわけか。確かに役立たずを使用人にしても意味が無いから、本当に使用人としてやって行けるのかを検査するために必要なものなのだろう。
俺は家事などには自信があるが、如何せん人の元で働くのは初めてだ。
そんな俺がまともに使用人をできるのか、正直不安なところである。だが、ここまで来たらやらざるを得ないだろう。
「了解しました。ではまずはどんな試験なのですか?」
「はい、まずは掃除でございます。これはどの種類の使用人になるとしても必須でございます。この項目をクリアすると清掃員になる資格を獲得できます。逆にクリア出来なければどの使用人にもなることは出来ません」
なるほど、使用人になるための最低条件というわけか。
確かに改めて見てみると、この屋敷の中は埃一つ見当たらない。確かに清掃が行き届いているようだ。
しかし、この広さは清掃員だけでは厳しいものがあるだろう。しかし、そうならないのは使用人全員が協力して清掃しているからなのだとわかる。
では、なぜ清掃員が居るのかと言うと、清掃だけの人も居ないとみんながみんな掃除をしている時間がある訳では無いというところだろう。だからこそ清掃員を雇っているのだ。
なるほど、確かに必須条件のようだ。
「分かりました。では俺はどこを掃除したらいいのでしょうか?」
「そうですね……着いてきてください」
――そう言われて着いてきたのだが、ここは倉庫のようで、やたらとものが散乱していた。同じ屋敷の中とは思えないくらいの散乱具合に俺は苦笑いをするしか無かった。
「この倉庫は確かに使ってはいるのですが、皆さんお忙しいみたいで掃除が行き届いていないんです。さすがに清掃員に倉庫を清掃させる訳には行かず……」
それはそうか。倉庫には大切なものもあることがある。そんな倉庫をお嬢様に近い訳でもない清掃員に任せる訳には――って、あれ?
「その理論だと俺もダメじゃないですか?」
「いえ、風魔様は良いのでございます。お嬢様はあなたにとっても信頼を置いてますよ」
会ったばかりの人間に信頼って……その信頼はどこから湧いて出てきたものなのか非常に興味があるが、なにやらツッコんではいけなさそうな雰囲気を感じたので、ここはツッコミたい衝動を喉で抑えて飲み込んだ。
しかし、この倉庫を掃除するのか……これはなかなか掃除のしがいがありそうな部屋だな。
とりあえず、圧倒されていてもどうしようも無いので近くのダンボールを開けてみることにした。そこには沢山の――武器が収納されていた。
……なんで武器? 刀やスタンガン、パチンコなどなど。相手を傷つける道具がこのダンボールにはぎっしりと入っていた。……とりあえず、あのメイドの刀の出処は分かった。でも普通に銃刀法違反のような気が……。
そこまで考えたところで俺はそっとそのダンボールを閉じた。この箱は見なかった事にした方がいい。そう感じたのだ。
次に開けたダンボールには沢山のアルバムが入っていた。もしかして、成長記録とかか? だとしたら微笑ま――
『お嬢様の盗撮記録』
……なんでこんなものがここに包み隠さずあるのかは分からないけど、なにやらこの屋敷は闇が深そうだなってのは分かった。
古沢のストーカーが、この屋敷に居るみたいだけど、これもやはり見なかった事にした方がいいので、そっと閉じた。
この倉庫にはまともな物は無いのか? そんなことを思い始めた。
その他にも仮装セット――お前らはスパイでもするつもりか! 怪しい薬――怪しい薬ってなんだよ! 捕まるような物じゃねぇよな!?
という風にまともな物はごく少数で、殆ど知ってしまったら身の危険を感じるものばかりだった。もしかしたら、この倉庫を出た瞬間に口封じに殺されてしまうのかもしれない。
でも、言いつけられた仕事だけはこなそうと、内心怯えながら作業を開始した。
と言っても、ダンボールが散らかっているだけで、中身が散乱している訳では無いので単純にダンボールを重ねるだけだ。
しかし、その数がなかなか多いのでかなりの時間がかかる。
そんな感じで黙々と作業をし続けて、二時間ほどで倉庫の片付けを終える事ができた。これはなかなかの重労働だったので、結構疲れてしまった。
そんなわけで、掃除が終わったので焦燥さんに見てもらうために呼ぶと焦燥さんはとても驚いたような表情をした。
「はやい、幾らなんでも早すぎる。ベテランの清掃員でも三時間はかかる量ですよ。それを二時間だなんて早すぎる」
「いえ、そうでも無いかと。あのダンボールは意外と軽かったので」
「あのダンボールを軽いというのは風魔様だけですよ」
そうか? あのダンボール、持ってみたらいつも通りに走れるレベルで軽かったんだけど、あれで重いのか?
しかし、それは焦燥さんが本気で驚いている様なので、そうなのだろうと納得しておく。
まぁ、俺は体を鍛えていることもあるし、普通よりも力があるのかもしれない。これは正直今になって鍛えておいてよかったと思う。
焦燥さんが、これで重いものだと言うのならば、この屋敷での力仕事は全般的に出来そうだ。これで一つ、希望が見えてきた。
「しかし、随分と綺麗になりましたね。幸い、掃き掃除などはしていたので埃はありませんが、ダンボールが散乱していたので助かりました」
あれ? これ、テストだよね。なんで俺、褒められてるの?
「ゴホン、とりあえず掃除はこれで良しとしましょう。掃き掃除などは見るまでもなく出来るでしょうから」
なんか信頼されたらしい。




