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【本編完結】人生に疲れたので人生をお嬢様に捧げます  作者: ミズヤ
第一章 人生に疲れたのでお嬢様に付き合います
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第10話 恩返し

 俺たちは食堂に来たのだが、俺は驚きの光景を目にしてしまった。


 俺はいつも朝は少食派なのだ。でも少し多いくらいなら大丈夫、少し怠くなるものの、動けなくはならない。

 しかし、これはきついな。何がきついってその量だ。俺たちは朝から大食い大会でもやっているのかよって思うくらいの量がある。これは一般人の朝の胃には入り切らない量だぞ。


「美味しそうですね」


 何呑気なことを言っているんだよ。

 俺はこの量に圧倒されていた。確かに美味そう、美味そうなので運動部の部活帰りの学生には大変喜ばれる量だろう。しかし、さすがにそんな人たちでもこの量を朝からはキツイんじゃないか?


 俺的には飯の暴力だ。


 しかも、朝から唐揚げってどうよ。俺にとっては胃もたれ確定のメニューだ。どうしてこんな事になってしまったんだ。何を血迷ってこんなメニューにしたんだよ加川料理長!

 まぁ、文句を言ったってしょうがないか……そう思って俺はとりあえず大人しく席に着くと小声でいただきますと言って食べ始めた。


 まずは水を流し込んでから唐揚げに手を伸ばす。随分とこってりとした唐揚げで、何やら味が付けられているようだ。なので大変美味しそうだ。しかし出来ることならば、これは昼か夜に食いたかったものだな。夜にしたってここ最近エネルギー消費の少ない生活をしている俺からしたら多いんだがな。

 そんな唐揚げを俺は溜息をつきながら一口食べる。その瞬間、口内に大量の肉汁がいっぱいに広がり、口中を美味しい肉汁が支配した。更に衣の甘塩っぱい味付け、これがまた唐揚げの美味しさを引き立たせている。

 ごちゃごちゃ言わずに簡潔に言うとすれば、とんでもなく美味しいということだ。


「美味い……」

「ですよね! うちの料理人の料理はなんでも美味しいんです!」

「あぁ、美味い。それは昨日も夕食を食っているから知っている。だが、これは昼食か夕飯に食いたいものだ。起き抜けに食うものじゃねぇ」


 この量に俺が落胆していると、正面では古沢はそんなことは関係ないとばかりに唐揚げをどんどんと食べていく。まるで胃に限界が無いんじゃないかと思えるくらいに唐揚げがその小さな体に消えていく。


 この状況でのベタなツッコミだとわかっているが、これだけは言わせてくれ。――その小さな体のどこにそんなに入ってくんだよ。

 しかし、古沢は幸せそうに食うな……。俺は唐揚げを何個か、サラダを少し、頑張って茶碗飯は完食したが、もう俺の胃の限界が来ていた。なので俺は残った唐揚げや、サラダを持って静かに立ち上がると、古沢の前にそっと置いた。


「これは?」

「……食うか?」

「くれるんですか!?」


 これだけ食っておいてよくそんなにキラキラした表情を出来るな。こいつはなかなか大食いの才能がありそうだ。

 しかし、昨日の夕飯は俺と同じくらいしか食っていなかったと記憶しているんだが、こいつって大食いだったのか。

 そして唐揚げを美味そうに頬張っている古沢を横目に食堂をあとにしようとすると加川料理長がそこに居た。


「いやー、驚かせてすまん」

「全くだ。俺は朝はあんなに食えん」

「つい、いつもの癖で君にも同じものを出してしまった」

「ふるざ――お嬢様って大食いだったんですね」

「がはは、俺の前だからってお嬢様呼びじゃなくていいぞ? そうだな、お嬢様は朝だけ大食いになられるんだよ」


 普通逆じゃないか? なんで寝起きの方が食べられるんだよ、古沢の体の構造がだんだんと気になってきた。

 でも健康的なのでそれはそれでいいとしよう。健康的には理に叶っている。朝昼は活発的に行動することが多いから沢山食べても大丈夫だが、夜は活発に動くことが少ないから少食の方がいいのだ。

 しかし、こんな身近に大食いの方がいらっしゃったなんて思わなかったな。


「では俺は部屋に戻りますので」


 俺は断って部屋に戻ろうとする。すると、背後から服を引っ張られた。

 なんだろうかと、恐る恐る見てみるとそこには控えめに服を引っ張っている古沢が居た。

 俺は驚いて弾かれるように古沢が座っていた席の方へと視線を向ける。するとそこには何も無かったのだ。確かたくさんの料理が並べられていたはずなのだが、その料理たちがこの短時間でどこかへ失踪してしまったというのが。

 まぁ十中八九、この古沢の胃に一瞬にして仕舞われたのだろう。なんて言うことだ。食べるスピードが人知を超えているとしか言えない。もしかして、寝起きの古沢は超人的なそんな存在なのか?


「それでは学校に行きましょう」

「む? ちょっと早くないか?」

「だって、風魔君のことをもっと知りたかったですし、何組かだけでも知りたかったんです。なので早く出て調べます」

「いや、そのくらいは教えてやるけどさ」

「本当ですか!?」


 俺の言葉にキラキラとした瞳を向けてくる古沢。そんな古沢に少々罪悪感を覚える。これは俺が庶民になった時から考えていたことだ。

 この学校では庶民は邪魔な存在でしかない。そんな俺は――


「俺、学校辞める事にした」

「……え?」


 その言葉に、古沢は素っ頓狂な声を出して固まってしまった。恐らく理解が追いついていないのだと思うが、俺の決意は揺るがないものとなっていた。


 あの場所に居るくらいなら、どこかでひっそりと暮らしていたほうが俺の精神衛生面的にも良い。そうすれば、あの学院のみんなも庶民の俺が居なくなって清々するだろうよ。

 だから俺はもう学校には行かない。近いうちに退学届けも出すつもりだ。


 そんなことを考えながら古沢を見る。すると、古沢は大粒の涙を流していた。その様子を俺が不思議そうに見ていると、その事に気がついたのか古沢は涙を拭くと、その場を走り去ってしまった。

 なんだったんだ、全く分からない。


「ははは、坊主も罪なものだな」

「何が罪なんだよ……」


 俺には料理長の言葉がよく理解できなかった。しかし、そんな俺にもわかったことが一つあった。それは、俺が彼女を泣かしてしまったということだ。

 そのことは償わなくてはならない。更に彼女には借りがある。どうしたものか……。

 すると、丁度そこを焦燥執事長が通り掛かった。俺は恩返しの事なんか全く思いつかないが、そういうことの……って言うか、奉仕のプロがここに居たじゃないか。


「あの、焦燥さん。少し相談に乗っていただいてもよろしいですか?」

「ええ、もちろんでございます。お嬢様のお友達のお願いで御座いましたらなんなりと……」

「ありがとうございます。では、僕はこの家のお嬢様である古沢さんに助けられたと言っても過言ではありません。なので、その恩返しをしたいのですが、どうしたらいいと思いますか?」

「恩返しですか……そうですね、私共は普段からお嬢様に忠誠を誓って御奉仕させていただいてます。しかし、風魔様のそれは私共のそれとは異なります。なのでどうアドバイスをして差し上げるのが一番いいのか、私には判断しかねます。しかし、一つ申し上げるとするならば、お嬢様なら何が喜ぶのか、それを考えて行動。まぁ、簡潔に言いますと、相手の事を慮るってのが大事だと私は思います」


 相手の事を慮る……ねぇ。

 正直、学校でも古沢と絡んだことは無いから何が好きで何が嫌いなのかは全く把握出来ていない。だから慮るって言っても、それは俺の自己満足になってしまうのは確定だろう。

 ならば、自己満は自己満でも、相手に喜ばれる自己満がいい。

 そう考えた時に一つ思いついたものがあった。

 俺は確かにみんなと同じ金持ち出身だ。しかし、一つ違うことがあるとすれば、暮らしが父さんの趣味で庶民並ってことだ。そのため、一通り家事を会得している。

 ならば、他の金持ちには出来ない俺だけの恩返し、俺だけの自己満がある。

 そう決めたからには俺は息を整えて、焦燥さんに向き直った。焦燥さんも俺の雰囲気を見て何かを察したようだ。

 俺は人生に疲れてしまった。なら最後くらい、この命を我が恩人の為に使ってやる。


「焦燥さん、折り入って頼みがあります」

「ふむ、頼みとな?」


 多分焦燥さんは俺が次に何を言い出すのか既に想像が着いているだろう。

 しかし、だからこそ、俺は次の言葉を言い放つのにものすごいプレッシャーを感じている。だが、ここで引く訳にはいかない。俺は実行すると決めたら実行する!


「焦燥さん、俺をこの家で雇ってください!」

「……それは私に言うことではないと思うのですが……」


 あ。

 そこで俺は自分の過ちに気がついた。

 そうだよ、これは雇い主に言うことであってこの人に言うことじゃないだろ! 何やってんだ俺は!


 なんだかすごく恥ずかしいんだけど……。焦燥さんも微笑ましそうにこちらを見てきている。なんだが、今なら穴があったら入りたい気持ちが手に取るようにわかる。

 なんか、まだこの場を去っていなかった加川さんまで笑いを堪えているように、手で口もとを隠しながらクスクスと笑っている。


「でも、風魔様の真剣な気持ちは、これ以上ないってくらいには伝わりましたよ」

「おう、そうだな。坊ちゃんも隅に置けねぇ男ってこったな」


 なんだか二人の言葉が微妙に食い違っているような気がする。


「でも、そうですね。ここまで真剣な言葉を無下にする訳にはいきません」

「と言いますと?」

「簡単な事でございます。私共の方で風魔様がお嬢様の使用人に相応しいかテストを致します」

 今回で第一章終了です。

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