七話 でもやっぱりどうにもならないじゃない
「先日はありがとうございました!」
ギルドの開店前、受付のお姉さんに挨拶を交わして私はセルフィと共に街を歩き始めた。
魔物使いの基本的な戦い方は、戦闘中に使役した魔物を呼び出して代わりに戦ってもらうこと。
もちろん自分自身でも戦うことはできるのだけど、ランクが高い魔物使いでもステータスは低いので、あくまでも緊急措置となっている。
だから、チュートリアルではレンタル従魔として一角ウサギが貸し出されていた。
ここまでがゲームの世界。
だが、実際には一角ウサギはいなければ、セルフィも24時間召喚されっぱなし。
もう一つ、昨日の夜に寝ているセルフィのステータスを見ていて分かったことがある。
それがスキルの習得とステータス向上。
ステータスは、与えたアイテムによって成長するゲーム内と同様のシステムのようだ。
何度かパーティーを組んだことのある女性キャラの人が、そんなことを言っていた。
レベルの概念が失われていたことで、もはや冒険者としては絶望的なステータスのまま生きなければいけない私であったのだが、これで一つの希望があることがわかったのだ。
「契約の指輪を探さなきゃ。
魔物使い専用ダンジョンだから、西の洞窟だった……かな?」
当面はセルフィに弱い魔物と戦ってもらい、力を付けてもらったところで西の洞窟に行って指輪を入手。
従魔のステータスの半分が私にも加算される、魔物使い必須のアイテムだ。
……まぁ、それでも他の職業よりずいぶんと弱いみたいだけどさ。
チップとスライムの核を引き取ってもらった軍資金を使って、私は薬草を買い込む。
お目当てはドロップアイテムと、フィールドに落ちているアイテムの収集。
街の外に出て、昨日と同じ東の森へ。
ちょうど強そうな冒険者の男女二人組がいたので、私はその少し後ろをついて歩く。
「ね、ねぇ……後ろの子、ずっとついてくるんだけど……」
「あぁ、魔物を横取りするわけでもないし、なんだか不気味だよな……」
後ろを歩く私を時々見やりながら、ヒソヒソと話す二人組の冒険者。
明らかに怪しまれているのはわかるのだけど、それでも私は苦笑いを浮かべながらついていくしかなかった。
今はまだ、まともには戦えないだろうと思うものだから。
「おっと、忘れずに拾わなきゃ。
私にとっては貴重な生命線なんだから……」
前を歩く冒険者の倒した魔物からのドロップアイテム、それに昨日拾ったのに再び復活しているフィールドのアイテムも。
チョイと足元を光るエフェクトに当てると、アイテムボックスの中で数字に変化が起きる。
茂みの中に魔物がいるかもしれないと思いつつも、我慢できずにあちこちふらふらと……
「絶対に不審者よね、私……」
自分でもそう感じながらも、決してアイテム集めはやめない私であった。
しばらく歩くと、昨日襲われた小屋が見えてくる。
日中は幾人かの冒険者も来ているようで、小屋の中には横になっていたりお喋りをしている者もいた。
そんな中に私も入っていくと、前を歩いていた二人組に声をかけられてしまったのだ。
「あ、あの……私たちに何か用事でしょうか?」
私と同じ、初期装備に近い女性の方が近付いて聞いてくる。
同じと言っても身長は向こうのほうが高いし、おそらく歳もひと回り……
私みたいな冒険者の真似事をしているのと違って、見た目はもう立派な戦士といった感じ。
槍を持っているし、おそらく槍術士だろう。
そして、その質問に対しての切り返しはすでに準備済み。
「ここのキッチンを使用したかったので、ご迷惑かと思いながらついてきました。すみません、あはは……」
「そ、そうだったの? 街の宿の方は混んでいたのかしら……珍しいわね」
「……あ、えっと……そうなんですよっ! あっちが混みまくって予約もいっぱいで!」
……あ、あぁ宿にも自由に使える施設があったのか……
そういえばギルドが運営をしているからってお姉さんに教えてもらったんだっけ?
だとすると、冒険者を支援するような施設がこの小屋にあるのも、つまりはそういうことなのだろうな。
「そうなのね。多分誰も使っていないから、向こうの部屋は空いていると思うけど。
えっと……あなたは生産職の方なのかしら?」
「私、ミルフィーっていいます。
生産職っていうか……その、戦士系も調教系も中途半端なもので。あはは……」
自身の力で戦う戦士系や射手系と呼ばれる職業、もしくは魔物や精霊を呼び出して戦わせる調教系。
このどちらかが戦闘系のメイン職業で、生産系というのはそのメイン職業に『鍛治師』や『木工師』を選んだ人のこと。
戦いには関係のないパティシエは、その生産系職業でもないオマケ要素。
しかも生産系のくせに、技を習得しづらいだけでステータスは魔物使いより上だという……うぬぬ。
「ちょ、ちょっとキッチンの方に行ってきますねっ!」
私は居たたまれなくなって、そそくさと奥の部屋へと小走りで向かった。
「はぁ、やっぱり恥ずかしいなぁ……」
キッチンの前に立ち、自分の行動を省みる。
もう少しやり方があったのではないか? しかし、また同じように騙されるかもしれない。
そう思うと、私は他にどうしていいのか分からなくなるのだった。