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五話 わかっていたけど、できなかったのは私のせい

 初期装備なんて、胸当てを取れば薄い『直垂(ひたたれ)』という衣類一枚だそうだ。

 公式で、その衣装を変更するアップデートがあったこともあり、少しだけ覚えている。


 ゲームの中でも直垂はただの服。

 防御力もへったくれもあったものではない。


 壁に押さえつけられて、胸当ての下に強引に滑り込んでくるゴツゴツとした手のひらが気持ち悪い。

 下顎を掴まれて唇の周りを舐められるのは、私の油断が招いた罰なのだろう。


 せめて痛いことだけはやめてほしい。

 そう願うほか無かったのだ。


 バァンと、小屋の入り口が突如開かれる。

「そこまでだっ!」

 細剣を構えて若い男が一人。

「なんじゃなんじゃ、たった3人かいの……」

 後からぬぅ……と姿を現したのは武闘家のお爺さん。

 後一人は、もしかしたら外で見張りでもしているのだろうか?


 助けに来てくれたっ?

 いや、この人たちも仲間か別の悪党だって可能性もある。


「やぁやぁ、細剣のカレンじゃないかい。

 こいつはとんでもないのに目を付けられちまったもんさね」

「あ、姉御っ逃げましょうぜ!」

 お菓子の皿を持っていた男が、それを思い切り投げつける。

 カレンと呼ばれた若い男は、腕を前にして防ぐと、ドカドカと奥の部屋へ駆け込んだ三人を追いかけた。


 押さえつけられていた私も解放されて、気持ちの悪い口の周りを袖で拭う。

 奥の部屋には魔物もいたが、きっと彼らなら問題など何もないのだろう。


「ひっひっ……嬢ちゃん、ちぃとだけ嫌な目に遭っちまったようじゃの。

 もう少し早く突入しておれば良かったか、すまんかったのぉ」

「い、いえ大丈夫です。

 何も失うようなことはありませんでしたから……」


 女は人身売買の常習と疑われている、闇魔道士ハギ。

 ☆3どころか☆5に匹敵する実力の持ち主なのだが、冒険者らしい行動を取らないため裏ギルドから目を付けられていた者なのだとか。


「人には自分のジョブやサブクラスを言ってはいかん。

 利用され、無関係の者を巻き込むこともあるからのぉ。

 逆に我らもハギの実力は不明のままじゃ。

 追い詰めたと思っておったが、おそらく……」


 お爺さんは名をチャイブと名乗り、私に色々と教えてくれた。

 もう一人の屈強な長剣使いがデュラルイ。

 皆、☆5の実力者だそうだ。

 私は、今こうやって助けてくれた人たちを見た目で怪しいと思ってしまったわけだ……


「ごめんなさい……気をつけます」

「ええんじゃよ、お嬢ちゃんのおかげで確たる証拠は押さえられたんじゃ。

 捕らえたいのはやまやまじゃが、奴らもいつまでも街に滞在もできんくなるじゃろて」


 奥の部屋からカレンも戻ってくる。

 口惜しそうな表情で、『逃した』とだけ言っていた。


 そっか、逃げられちゃったのか。

 うぅ、思い出したら口の周りがまだ気持ち悪い……

「それと、菓子を食っていたコイツはお前の従魔なのか?

 無抵抗だから斬らずにおいたのだが」

「えっ? 私は確かに魔物使いですけど、従魔契約はまだしていな……い……」


【フライングスコール:名前未設定】


「そうか、俺の気のせいならいいんだ。

 アイツらの従魔の可能性もあるしな、処分しておくとするか」

 カレンは左手に魔物を捕らえたまま、再び細剣を抜き構える。


「ちょ……ちょっと待って!!」

「なんだ? 逃がして欲しいと言われても聞けん話だぞ?」

「違うのっ!

 その子もしかしたら、いつの間にか従魔契約しちゃってるっぽいの」


 契約者には魔物のステータスが見えている。

 私自身のステータスではなく、別ウィンドウで見ることができ、詳細も表示可能。

 『フライングスコール:ニホンモモンガをモデルに作られた魔物で、木の実を使ったお菓子を好む』


 捕獲、使役、調査のいずれかで確認可能な詳細情報も同様に閲覧可能だった。

 つまり、お菓子を食べたことで勝手に仲間になったと……そういうことみたいだ。


「あっ!」

 フライングスコールは、カレンの手を振り解いて私の元へ。

「くきゅっ!」

 か、可愛い……

 ニホンモモンガといったか、茶褐色の毛色にぽちゃっとした見た目。

 リスと言われればリスにも見える。


 パッと手から離れて、今度は落ちたお菓子の元へ。

 チラッと私の方を見て、すぐに口一杯に頬張っている姿がまた愛らしい。


 そこにまた一人、外から例の剣士の男がやってくる。

 彼もまた逃げた三人を追いかけていたようなのだが、森の奥へと逃げられてしまったようだ。


「しかし勿体ないな。

 菓子など長いこと食べていないというのに」

 そう言いながら、フライングスコールの食べているお菓子を一つ拾い上げて口にするのが、物干し竿のデュラルイ。


 確かに歴史に出てくる佐々木なにがしみたいに長い剣を持っている。

 私の作ったお菓子も、美味しいと言って食べてくれるではないか。


 衛生的にちょっとどうかとは思うものの、私はこのデュラルイのことを優しくて素敵な男性だと思い始めていた。


「やめろって言っても、いつも物干し竿代わりに剣の鞘を使いやがる。

 おかげで恥ずかしいったらないぜ」

 まぁその直後に放たれたカレンの言葉で、そんな熱も一瞬で冷めちゃったわけで。


 小屋に残されていたのは来る途中に討伐したチップとスライムの核。

 酷い目に遭わされたことよりも、今は金策の方が大切だ。

 しっかりと頂戴して、私はカレン達三人と共に街へと戻ったのだった……

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