三話 アイテムボックスは便利ですよね
「嬢ちゃん、さっきから何を拾っているの?」
「えっと、小麦……とか卵、砂糖とバターが落ちているみたいで……」
「ふ、ふぅん……ごめん、お姉さんにはよくわからないわ……」
もしかしなくても、落ちているアイテムは私にしか見つけられない?
街の東、『チップの森』に入ってから辺りに光るアイテムが落ちている。
触れば自然とアイテムボックスに保存されるのだけど、このゲームのシステムは私にしか使えないのだろうか?
森のバターは知っているけれど、森にバター……というのはちょっと違うのでは。
小麦も砂糖も、私のサブスキルがパティシエだから入手できるだけなんだろう。
どれも☆1の素材だし、基本の材料ってことで深くは気にしないでおこう……ここはゲーム世界だもの……
他にも、ミルクやココア、ゼラチンも⭐︎1素材で簡単に入手できるようだ。
本来は簡単ではないとしたら、きっとサブクラスのパティシエ⭐︎5が影響しているのだろう。
「さっそく出てきたわね、スライムとチップ。
まぁ見ていなさい、お姉さんが華麗に倒してあげるわよ」
スッと胸の前に杖を構えると、まずは動きの素早いリスの魔物チップへ風魔法ウィンドスラッシュ。
「スライムもやっちゃうわよ!」
さすが魔法使い、低ランクの魔法でもアッサリと片付いてしまう。
スパスパッとかまいたちのようにダメージを与えていき、魔物たちはその動きを止めてしまった。
倒した魔物は、血抜きもそこそこにずた袋に放り込まれた。
スライムは中心に存在する核が街の灯りなどの様々な用途に、チップはとても安いのだが食用に買取をしているそうだ。
この2匹だけでおそらく800Gといったところか。
ゲームよりもかなり相場は高そうだった。
「持てるだけは狩りたいわよねぇ。
もう少し奥に行ってみる?」
「あ、はい。その前に割り振りを……って、あれ?」
最初の戦闘では必ずレベルアップがあり、そこでまたチュートリアル。
好きなステータスを強化できるはずなのだけど、そういえばメニュー画面が無い。
そもそもステータスにレベルが表記されていない……
もしかして、この非常に低いステータスのまま一生過ごしていかなくちゃいけないの……?
「う……嘘でしょー⁈」
私は叫んだ。それはもう森中に響き渡るくらいの大声で。
辛いのは最初だけ……少しレベルを上げればチップの森くらいは私一人でも余裕なんだから。
だから、これでもう大丈夫だ……なんて思っていた3分前の私が憎らしい……
「ど、どうしたのよ一体?」
「す、すみません大丈夫です!」
「そう……なら良いんだけど。
この先に小屋があるから、少し狩ったらそこで休憩してから戻りましょう」
地理に関しては正直ハギお姉さんよりも詳しいと自負する私がいる。
「あっ……と、これも拾っておかなきゃ」
【2Gを拾った】
【もりの木の実(☆1)を拾った】
倒した魔物のそばに落ちている光るアイテム。
お金に関してはゲームと同じなのか……
ギルドに魔物を引き渡す相場に比べるとずいぶん安く感じてしまう。
「ねぇ、さっきから何を拾っているのよ?」
「あ、いえ見間違いだったみたいです……ごめんなさい」
なぜか謝ってしまう。
いや、悪いことをしているわけじゃないけれど、私にしか無い力なんて、周りに知られたくはないじゃない。
アイテムボックスを活用すれば運び人とかも可能な気がするけど、騒ぎになるのは困る。
拾ったアイテムを使ってお菓子を作って……それを売り込みに行く!
きっと稼いだばかりの冒険者の人達なら買ってくれるだろう。
問題は、その素材はダンジョン内でした見つからない……という事なのだけど。
その後も魔法で魔物を倒していくハギお姉さん。
そして倒した魔物は私が回収していく。
もしも全員がレベル1だとすると、そろそろハギお姉さんの魔力も尽きる頃。
休憩してから引き返すのが無難なところだが、日もずいぶんと傾いてきた。
いつもの私なら、マップをほとんど覚えているから夜でも平気。
ただ、リアルだと若干の不気味さも感じてしまう。
小屋に着いた頃には、辺りは薄暗くなってしまった。
こうも視界が悪いと、普通だったら魔物のいる森になんて近付かないよね。
ゲームはやっぱりゲームだなぁ……
「そうそう、お嬢ちゃんのジョブとサブクラスって何か聞いてなかったわね。
せっかくだから小屋の中でお話を聞かせてよ」
「あ、はい! それが酷いんですよ、私ももう誰かに聞いてほしくて仕方なかったんです!」
カチャリと扉が開かれ、中を覗いてみれば、特に不便さは感じなさそうだった。
日中は冒険者が多くいるらしいのだが、その者たちが残していったであろう使いかけの燃料や干し肉が少々置いてある。
私は#☆__ランク__#1の魔物使いであることを説明し、サブクラスも戦闘には全く向かないのだと説明する。
それを聞いたハギさんは、ニコッと笑って『お菓子なら食べてみたいわ』なんて。
「でも残念だわ。
奥の部屋に調理道具はあるけれど、材料が無いもの……」
少しだけ悲しそうな表情を見せられたものだから、私も食べてもらいたいという気持ちが強くなる。
「そうだっ、少しだけなら材料もありますし、ちょっと奥に行って作ってきます!
魔力の回復って1時間くらいかかるんですよね?
ちょうどそれくらいで焼き上がると思うので、待っててくださいっ!」
「あら、それじゃあお言葉に甘えようかしら。
ふふっ、美味しかったらお姉さん困っちゃうわぁ」
レベル上げに関しては非常に残念だった。
だけど、狩った魔物は私にも分けてくれると言うのだ。
美味しいお菓子を作って、しっかりと喜んで貰わなくては。