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二話 ほら、普通は支度金とかあるじゃない

「ミルフィーユさん……は、まだこちらでの活動歴はございませんね」


 調べてもらった、すぐに。ギルドの受付のお姉さんに。

 木造の大きい建物は、中に入ると自然の香りに包まれていた。

 というのも、森林のような清々しい匂いではなく獣のような野性的な……


「その……それにしても凄いですね……」

「え? ……あぁ、こちらのデッドリーボアですか?

 先ほど『ランク5』のベラさんが持ち込んだんですよ」


 受付のお姉さんが座る後ろ。

 いくつか並ぶ魔物の中で、一際大きな猪の魔物『デッドリーボア』


 ゲームの中では初心者でもなんとか倒せる魔物ではあるが、実際に目の当たりにすると迫力は段違いだ。


「買取は確か500Gでしたよね?」

 一文無しの私はお金が欲しい。

 討伐して売ればヒールポーションが2つ買える金額だけど、今の私に倒すことができるだろうか……?


「いえ……銀貨5枚ですので50000Gですよ?

 あの、それよりも登録はどうなさいます?」

 驚いた。無言でしばらく呆然としていたところに、再び『どうなさいますか?』と問われてハッとした。


「す、すみません! 今は薬草採取だけにしておきますっ!」

「かしこまりました。

 薬草採取は期限がありませんので、一定数が集まりましたらお持ちください」


 手に握っていたスライム討伐の依頼書をクシャっと握る。

 魔物討伐なんて、私に受けられるはずがない。

 なんと言っても、そのデッドリーボアを倒したベラさんとはメインジョブのランクが違いすぎるのだ。


 メインジョブのランクは5段階、『☆1』が弱く『☆5』が強い。

 これはキャラメイクの際に決めることができることなのだが……


「やっぱりメニューもジョブチェンジの項目も出てこない……」

 本来ならばキャラメイクから72時間は変更可能なはずなのに。


 ☆1ではステータスが☆5の半分以下。

 しかも魔物使いの場合は、仲間にできる魔物がこのランクによって違ってくる。


 ただしメリットもあって、ランクが低い分生産職などのサポートに役立つサブクラスに割り振れるポイントが多くなる。

 それで入手した『パティシエ☆5』なのだが、これもせめて鍛治や木工に使えるものならば……


 結局、私のジョブやサブクラスは、戦闘には全く役に立ちそうもない。


「おい、嬢ちゃん。

 さっきから神妙な表情してスライム討伐を見つめていたが、訳ありか?」


 ギルドの隅。円卓がいくつか置かれ、そこに座るのが剣士二人と武闘家一人。

 格好は初期装備に籠手や脛当てがついたくらいで他とあまり大差ないが、持っている武器が少しづつ違う。

 比較的攻撃力重視の長剣と、軽さ重視の#細剣__レイピア__#。

 武闘家は手甲を紐にくくりつけて腰に。

 どれもゲーム内ではお馴染みの……


「なぁ、嬢ちゃん。聞こえているかい?」

「え? あ、ごめんなさいっ!」


 あぁいけない、ゲームの癖で相手の装備を見てしまう習慣が……

 よく見たらゴツいおじさんと、金髪細身のお兄さん。

 武闘家は60を過ぎたようなお爺さんだけど、どういう関係だろう?


 話しかけてきたのは一番若いと思われる青年。

「俺たちが協力してやろうか?

 なんだったら一角ウサギ狩りでも大丈夫だぞ?」

「えっと……お気持ちありがとうございます。

 大丈夫です、どうしてもってわけじゃなかったので……はは……」


 周りの二人も私を見てニヤニヤしていたのが怖かった。

 よく知らない世界だし、騙されてどこかに連れ去られる可能性だってある。

 そう思ったら、つい私は申し出を断ってしまっていたのだ。


 だけれど、後になって失敗してしまったかという気持ちになる。


 とにかく仕事が欲しくて食料品を扱うお店や路地に出ていたお店にあたってみた。

「ダメダメ、そんなこと急に言われたって雇ってなんてあげられないよ」

「うーん……可哀想だけど、うちも人を雇うほどの余裕は無いんだよ」


 あとは宿屋や武器防具屋へ。とにかく皿洗いでもなんでもよかったが、こちらは門前払いである。

 時間もどんどんと過ぎていき、このままじゃ食事はおろか寝る場所もままならない……


 時間が経って、再びギルドの扉に手をかける。

「ま、まだここにいるかなぁ……」

 お腹を空かせた私は、先ほどの三人組に頭を下げる覚悟を決めた。


 恐る恐る中へと入る。

 人々の動きを見るに、もう昼も回った頃だろう。

 受付には狩りから戻ってきた冒険者も数人並んでいて、手には獲物や麻袋が握られている。


 だが、三人組の姿はなし……か。

 先ほどの席には魔法使いか僧侶であろう若い女性が一人。

 清楚な感じの白い装いで、腰元にある杖も……なかなか良いものだ。


「ん? お嬢ちゃん、どうかしたの?」

「あ、ごめんなさい。狩りに行くのを手伝ってほしくて人を探していたんです」

「あら、今から向かうの?

 んー……そうねぇ……」


 しかし、この時間になると冒険者たちはもう1日の狩りを終えて、日の登っているうちにそれぞれ夜の準備をはじめるのだとか。

 食事か酒盛りか、はたまた公衆浴場に行って1日の汗を流しているだろうと言われてしまった。


「まだ少しだけなら時間もあるし……そうね、それだったらお姉さんと一緒に運動してきましょうか?」

「ほ、本当ですかっ⁈

 ありがとうございます! 良かったぁ……」


 衣装は白いというのに、攻撃魔法主体の黒魔法使い☆3だと言っていた女性ハギ。

 これは、素材も集められるし魔法も見れる。

 宿に泊まることもできると良いこと尽くめになりそうだ。


 お姉さんについていき、私は素材を採取できる近くの森へ。

 出るのはスライムと、チップと呼ばれているリスのような魔物。

 こんな世界でガッカリしたりドキドキしながらも、選んだサブクラス自体は初めてのものだったし、私はどこかワクワクした気持ちもあった。


「何が取れるかなぁー」

「ふふ、ずいぶんと楽しそうじゃない?」

「ええ、お姉さんに会えて良かったと思っています!」

「そう、それならお姉さんも嬉しいわ。本当にね……」

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