6. 心と体の鎮痛剤 Tramadol トラマドール
※警告※
レクリエーション用途を目的とした医薬品等の適応外使用および過剰摂取は本質的にリスクの高い行為であり、使用者に対し死をも含む不可逆的かつ重篤な障害をもたらす可能性があります。医薬品に関しては極力医師および専門家の指導・監督のもと用法用量を守った適切な使用に努めてください。自己判断による摂取は使用者自らの完全な責任の下、十分な情報収集を行い危険な状況を回避するあらゆる予防措置を講じたうえで行ってください。馴染みのない物質の使用は必ず低用量以下から始め、trip sitterを用意する等の対策が推奨されています。また、許可を経ない処方医薬品の譲渡および売買は法律で禁じられています。責任ある薬物使用を十分に心がけてください。
名 :Tramadol
別称 :Tramal、Tramacur等
作用分類 :鎮痛、抗鬱、鎮静
化合物分類:Opioid
危険度 :Monitum
●概要
TramadolはOpioidクラスの化合物であり、中程度の効力を有する鎮痛剤として慢性疼痛や抜歯後疼痛等の非Opioid系鎮痛薬で抑えるのが困難な痛みに対し処方されます。Opioidとしての効果はCodeineと同等レベルであり、いわゆる弱Opioidに分類されます。Tramadolは単純なOpioidではなく、Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitors作用 (以下SNRI作用)やSerotonin放出作用、発作閾値低下作用等も有しています。それらが複合した作用が発現するため、効果や副作用には個人差が生じやすくまた併用禁忌な物質も多いです。そのため使用は必ず低用量から始めるべきであり、高用量以上の摂取や他の精神活性物質との併用は強く推奨されません。Tramadolは単体で使用される限りOpioid化合物の中では比較的安全で依存性は低く、乱用性も低いと考えられています。よって、国際的な輸出規制の対象にはなっていません。日本においても麻薬指定はされておらず、個人輸入等で入手できる数少ないOpioid系鎮痛薬の一つです。
●薬理
TramadolはOpioidに分類されていますが、Tramadol自体のμ-opioid受容体活性はMorphineの6000分の1程度と非常に低く、ほとんどOpioid活性を有していません。しかしTramadolは肝臓内のCYP2D6酵素による代謝を受け、O-Desmethyltramadol (以下O-DSMT)へと変化します。O-DSMTはTramadolと比較し約300倍のμ-opioid受容体活性作用を有しているため、Tramadolは結果的にOpioid作用を示します。Tramadolが弱Opioidとして扱われるのはこのO-DSMTへ代謝される工程が律速となるためであり、個人個人のCYP2D6酵素活性の違いが本物質作用の個人差にもつながります。Tramadol自体はOpioid活性を示しませんが、そのかわりSNRI作用を有しています。そのため低~中用量のTramadolは他のOpioid物質と比較して刺激性であり、抗不安や抗鬱作用も示します。
●投与量
・閾値線量 25mg~
・軽度 50mg~
・中度 150mg~
・重度 250mg~
・深度 400mg~
●摂取方法
オーラル
●効果時間
・知覚 30min~90min
・発症 30min~60min
・ピーク 2h~4h
・残効果 2h~3h
・作用時間合計 6h~10h
●正の知覚的効果
・刺激 (軽~中用量)
・鎮静
・鎮痛
・多幸感
-Tramadolによってもたらされる身体的および精神的多幸感は、他のOpioid物質のそれと比較して強度が低いとされています。それは暖かく心地よい液体が体内にじわじわと広がっていくような感覚であると報告されています。
・共感、愛情の向上
-Serotonin量の増加による作用です。
・抗不安
・抗鬱
・音楽鑑賞の強化
●負の知覚的効果
・便秘
・排尿困難
-投与量によっては深刻な尿閉に至る場合があります。
・吐き気
-効果の初めに生じやすいです。
・脱水
・頭痛
・オーガズム抑制
-SNRI作用も有するため他のOpioid物質よりも顕著です。人によってはオーガズムへ至るのに必要な時間が5~10倍以上増加、もしくはオーガズムを迎えるのが困難になります。
・不安
-Norepinephrineの増加によって生じますが個人差があります。
・痒み
-TramadolはHistamineの放出を誘発する能力が高いためです。その作用は他のOpioid物質よりも比較的強く、効果の終盤に発現しやすいです。
●毒性
Tramadolの毒性は比較的低く、単体で高用量未満の使用に努める限り安全です。長期間の慢性的な摂取による影響は他のOpioid物質と同様に性欲減退や無気力等が生じます。
●依存性
他のOpioidと同様、Tramadolは慢性的な使用によって特定のユーザーに中程度以上の依存を形成する可能性があります。依存が形成されたユーザーが突然その使用を中断すると、渇望や禁断症状が生じることがあります。
●耐性
Tramadolの各効果に対する耐性は長期にわたる慢性的な摂取によって構築されていきます。各効果に対する耐性構築の速度は一様ではなく、例えば便秘や尿閉に対する耐性は比較的ゆっくりと構築されるといったように様々な速度で発現します。耐性がついてしまうとこれまでのようなポジティブ体験をするために必要な摂取量が増加していきます。さらなる摂取を行わない場合、約1~2週間で耐性はベースラインに戻るとされています。Tramadolは他のOpioidと交差耐性を構築します。そのためTramadol使用中は他のOpioidの効果は下がりますし逆もしかりです。
●効果終了後、離脱症状
高用量以上のTramadolの使用後、もしくはOpioid物質の感受性が高い人は軽用量であっても尿閉や深刻な便秘等の副作用が残る可能性があります。Tramadolの慢性的な使用後の中断は、OpioidやSNRIの中断にみられるような悪寒、傾眠、不安感等の離脱症状が生じる可能性があります。
●禁忌
・Alcohol、Benzodiazepine等GABA受容体作動物質
-これらの物質は呼吸抑制、鎮静の作用を増強するため予期しない意識消失をもたらす危険性があります。そのため、意識消失中に吐瀉物が気管につまり死亡するリスクを増大させます。
・Ephedrine、Caffeine等興奮刺激物質
-いわゆるスピードボールの状態になります。これら物質はOpioidの呼吸抑制と鎮静の効果を緩和するため過剰摂取につながる危険があります。
・DXM
-セロトニン症候群、肝臓毒性、呼吸抑制等多くの面で致命的な相互作用を示す可能性があります。
・解離性物質
-嘔吐や意識消失の危険性を高めます。また、Opioid耐性の緩和と効果の増強作用を示すことがあり過剰摂取へと繋がる可能性があります。
・MAOI作用物質
-セロトニン症候群のリスクが高まり非常に危険です。
・SSRI作用物質
-セロトニン症候群のリスクが高まり非常に危険です。
●その他特筆事項
・痛みを感じている状況でのOpioid物質投与は多幸感や依存を誘発しません。
炎症性および神経性疼痛を感じている場合、脳内では内因性OpioidであるDynorphinやβ-endorphinが放出されています。これら物質はOpioid物質と拮抗、もしくはDopamine放出を抑制します。そのため鎮痛効果は生じますが多幸感や陶酔、依存形成は通常生じなくなります。
[効果レビュー]
報告日時 :20〇〇年ε月μ日
報告者 :■■ ■■博士
被験者 :■■ ■■■ [Bクラス被験者] 管理No.B-00568
※被験者は鎮痛剤が必要な疾患や怪我をおっていません。
※被験者はOpioid物質のレクリエーション使用や依存経験はありません。
18:00 食事
22:00 シャワー
22:56 300mg経口摂取 水
23:24 鎮静が出始めた。
23:47 吐き気を感じめた。
23:56 陶酔を感じ始めた。吐き気は軽くなっているように思える。
0:00 排尿、特に問題なし。
0:07 明瞭な陶酔が始まった。
0:17 背筋がぞくぞくする。心地よい。
0:34 呼吸の軽い抑制を感じる。
0:52 吐き気は収まった。突然脳内に温かい液体が満ちるような感覚。
先ほどまでとは違う感覚。
1:11 全身を温かさが包む。
1:43 多幸感は継続している。心地よい。
2:17 排尿、特に問題なかった。
2:59 かゆみが出てきた。
3:19 強い陶酔は抜けた。今はただ穏やかで温かい幸せに満たされている。
3:33 鎮静は続いているが眠気はない。
4:42 痒みは続いている。
4:50 ほぼ素面。しかしまったりとした気分は続いている。
所感
ある程度排尿障害の副作用がでることを予想していたが、被験者は出にくい体質のようだ。もしくはトリップ頻度の問題だろうか。慢性的な摂取になると問題になるのかもしれない。
■■ ■■博士
●入手方法
・Tramadol含有の医薬品は医師の処方によって入手可能です。
-鎮痛薬として処方されます。ただしTramadol単独剤として処方されることよりも、Acetaminophen等他の成分との合剤として処方されることが多いです。
・Tramadol含有の医薬品は個人使用に限り海外からの個人輸入による入手が可能です。
-個人輸入した医薬品は完全な自己責任であることを認識したうえで使用してください。
●法規制
〇日本
・Tramadolを含む医薬品には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」が適用されます。日本国内においてTramadolの個人使用、所持は違法ではありません。が、処方薬の無許可での譲渡・売買は違法です。
〇日本以外
・Tramadolは世界のほとんどの国で処方医薬品として扱われています。個人使用の範囲での所持と使用は多くの国で合法ですが、Benzodiazepineや他のOpioidと同レベルの規制がされている国もあるため注意が必要です。