9. 酔い痴れるドラッグ Phenibut フェニバット
名 :Phenibut
別称 :β-Phenyl-γ-aminobutyric acid, β-Phenyl-GABA
作用分類 :鎮静、抗不安、睡眠導入・増強、刺激、向知性
化合物分類:Gabapentinoid
危険度 :Exitium
●概要
PhenibutはGabapentinoidの一つであり、GABAのβ位にフェニル基がついた構造を有します。化学構造的にGABA骨格だけではなくPhenethylamine骨格も有していることは注目に値します。Phenibutは不安障害、うつ病、注意欠陥障害、心的外傷後ストレス障害等の治療のためロシアやウクライナ等で医療用に販売されていますが、ほとんどの欧米諸国や日本では2020年現在治療薬としての認可はされていません。よって、それらの国では主に栄養補助食品やサプリメントとして販売されています。筋弛緩薬であるBaclofenとPhenibutの化学構造は類似していますが、その中枢神経活性はBaclofenのおよそ1/30程度とされています。Phenibutは投与量によって異なる作用を示すといわれてます。低用量(<20mg/kg)では脳内のDopamine濃度を穏やかに増加させ、穏やかな刺激と抗不安作用をもたらします。中用量では徐々に鎮静が刺激を上回り、傾眠や陶酔感が強くなっていきます。高用量(>50mg/kg)以上では陶酔感や抗不安作用も強くなりますが、ふらつきや吐き気、頭痛などの不快な作用も現れ始めます。Phenibutは一般的に経口摂取されますが、その場合効果の発現まで数時間かかるとされています。直腸や鼻腔経由で摂取された場合発現までの時間は経口よりやや短縮されるようですが、本物質の塩酸塩(一般的に提供されている形態)は腐食性が強いために強い痛みや苦痛を感じることが多いようです。
●薬理
Phenibutはその骨格化合物であるGABAと異なり血液脳関門を通過することができます。中用量程度まではGABA-B受容体の完全アゴニストとして作用しますが、高用量以上では選択性が低下しGABA-A受容体アゴニストとしての作用も現れます。また、電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに対する遮断作用も有しています。これら作用によりGABA作動系が影響を受けることで、鎮静や抗不安といった作用が生じます。また、Phenibutは脳内のドーパミンレベルを増加させ、それにより軽度の刺激や陶酔感がもたらされると考えられています。Phenibutの経口バイオアベイラビリティは約60%程度であり、脳に移行するのは全投与量の約0.01%程度と考えられています。消失半減期は約5時間であり、あまり代謝を受けず多くがそのままの形で尿から排出されます。
●投与量
・閾値線量 200mg~
・軽度 300mg~
・中度 1.0g~
・重度 2.0g~
・深度 3.0g~
●摂取方法
オーラル、スニッフ
●効果時間
・知覚 1.5h~2.0h
・発症 1.5h~3.0h
・ピーク 2.0h~3.0h
・残効果 3.0~4.0h
・作用時間合計 6.0h~24h
●正の知覚的効果
・鎮静(中用量~)
・刺激(低用量)
-高用量では鎮静効果に覆われます。
・多幸感
・抗不安
・睡眠の強化
・筋弛緩
・陶酔感
●負の知覚的効果
・吐き気(高用量)
・ふらつき
・脱抑制
・傾眠
・二日酔い
●毒性
Phenibut自体の毒性は比較的低く、単体で高用量未満の使用に努める限り安全とされています。しかし、Phenibu塩酸塩は腐食性があるため経口摂取であっても一部のユーザーは胃の痛みや不快感、下痢などの症状をきたす可能性があります。
●依存性
Phenibutは慢性的な使用によってアルコールと同等の強い肉体的・精神的依存を形成する可能性があります。
●耐性
Phenibutの耐性は数日の連続使用によっても構築されます。耐性がついてしまうとこれまでのようなポジティブ体験をするために必要な摂取量が増加していきます。さらなる摂取を行わない場合、約1~2週間で耐性はベースラインに戻るとされています。また、Phenibutは全てのGABA作動系薬物と交差耐性を構築します。
●効果終了後、離脱症状
Phenibutはその薬理上、悪名高いBenzodiazepineやアルコールに匹敵する苛烈な離脱症状を呈する可能性があります。そのため本物質の漫然な摂取は強く避けるべきです。Phenibutは低用量であっても週に2回以上の使用をするべきではありません。
●禁忌
・Alcohol、Benzodiazepine等GABA受容体作動物質
-これらの物質との組み合わせは呼吸抑制、鎮静、健忘、筋弛緩の作用を相乗・増強するため、予期しない意識消失や深刻な呼吸抑制、混乱をもたらす危険性があります。また、意識消失中に吐瀉物が気管につまり死亡するリスクを増大させます。
・Opioid
-呼吸抑制の増強、過鎮静、意識消失などの可能性があります。
・解離性物質
-嘔吐や意識消失の危険性を高めます。
・覚醒剤
-覚せい剤の刺激作用はPhenibutの鎮静効果を覆うため、脱抑制効果とも相まって両者の過剰摂取をもたらす危険性があります。
●その他特筆事項
・PhenibutはPsychedelic摂取時の不安を軽減し刺激による不眠を緩和します。
-Phenibutの抗不安と鎮静効果は使用者を落ち着かせ、Psychedelicの使用を快適にするとの報告があります。
・Phenibutは摂取から効果を知覚するまで数時間かかります。
-特にこの物質の使用に慣れていないユーザーにとって、この摂取から効果発現までの時間の長さは過剰摂取につながる危険性があります。本物質の使用は必ず低用量から始め、摂取から最低でも3時間程は追加摂取をせずに様子を見てください。
[効果レビュー]
報告日時 :20〇〇年δ月α日
報告者 :■■ ■■博士
被験者 :■ ■ [Cクラス被験者] 管理No.C-00094
17:15 シャワー
17:35 300mg 6cap 計1800mg 水
18:35 軽めの食事。
20:55 軽く酔いを感じてきた。
21:00 心地よいしびれを感じる。
21:05 全身に軽くむずむずする、チクチクするような感覚。
22:00 時折ぞくっと震える。気持ちがいい。
22:22 好きな音楽を流しながら目を閉じると全身から力が抜けとても心地よい。
22:50 何度か軽く意識が途切れた(たぶん睡眠)、でもとても心地が良い。
23:30 ピークはおそらく過ぎた。まだ鎮静と軽い陶酔は感じる。
01:10 酒でいうほろ酔いのちょうどいい感覚がずーっと続いている感じ。
10:40 そのまま心地よいまどろみに包まれ寝落ち
所感
上記被験者の経過は重度用量(1.5g~)使用者の典型的なもののように見えます。程度の差はあれ、どの被験者も概ね本物質について「デメリットがずっと少ない酒」と評価していますし。向知性薬としては何とも言えませんが、上記被験者は中度用量(900mg)において上記のような向精神作用はほぼ感じず、軽度の刺激と抗不安をずっと感じていたとは注目すべきです。
■■ ■■博士
●入手方法
日本国内においてはサプリメントとして個人輸入等で入手可能です。
●法規制
〇日本
Phenibutは現時点で規制されていません。
〇日本以外
オーストリア、イタリアなどの一部を除き多くの国と地域で規制されていません。