バカ一行とわたし
とある王国から少し進んだところにある森の中を、とある一行が歩いていた。
「おい、クズ。さっさとあの邪魔なモンスターを蹴散らせよ。」
「は、はい。」
わざと怯えたように話す私に気付きもせずにいちゃいちゃしだすおバカ一行を無視し、私は通せん坊しているモンスターを見据える。そしてわざと力を弱めて攻撃し、モンスターが逃げれるようにしてやる。別にモンスターには罪はないからね。
普通ならそこでいろいろ文句が言われるだろうが、こいつらおバカ一行は本当に周りが見えていない。
「お、終わりましたー。」
「わーい!
早く行きましょう、フェイト、ジョン、フルール!」
いなくなったモンスターには目もくれず、私を空気とでもいうかのようにドン!と押しのけ、三人の取り巻きを呼ぶ聖女こと自己中暴走女のハリー。そしてその呼びかけに応えるかのようにハリーを取り囲む取り巻き1の王子様ことフェイト、取り巻き2の狩人ことジョン、最後に取り巻き3こと僧侶のフルールであった。
なぜ私がこんな奴らと一緒に旅をしているのかというと、取り巻き1の父親である王様に頼まれたからである。王様は聖女の本性を見抜いており、王子がこんなやつにぞっこんなのが不安でしかたないのだという。なので様子見として私が選ばれたのである。お金がたんまり貰える仕事なので面倒くさいことではあるが、そこは割り切って仕事をしている。
前髪で顔を隠した私はいかにも陰険な魔術師ルックスになり、こんな見た目の私には取り巻きたちは振り向かないと認識したらしくこころよく同行することが許可された。
ちなみにこいつらバカ一行はこうやって私に全部バトルを任せているのでレベルはクソである。たとえるなら私が80位だとしたらこいつらは10にも満たないだろう。これで魔王討伐なんかをしようとしているとか正気じゃないというかただのバカだと思う。
もう一度いうが、ただのバカだ。
そんなおバカ一行がいちゃいちゃしながら旅を続けると、ついに魔王城に着いてしまった。おかげで私のレベルは100近いだろう。
「あ!これが魔王城!
すっごーーい!!
ねぇ、フェイト!私こんなお城に住んでみたいわー!」
「ふっ、もちろんハリーのためなら準備してやるぞ。」
「よーし、たのもーーーーー!!!」
門を壊すくらいの勢いで叩くバカ聖女を横目で見つつ、私は巨大な魔力を感じ取り気を抜かないようにした。しばらくすると突如私たちの足元に魔法陣が展開され、シュン!という音と共に別の場所へと転送された。
暗い中を目を凝らしていると、徐々に明かりが強くなり、部屋の全貌が明らかになる。
どうやら大広間のような場所のようで、私の視線の先には真っ赤なカーペットがあり大きな玉座があった。そしてその玉座にどっしりと堂々と座る男とその玉座の手すりの部分に蝙蝠が止まっていた。男は長い黒髪を垂らし、その髪の間から赤い瞳を覗かせていた。
「我が城の門を叩いて、貴様らいったい何用だ?」
玉座に座っている男性はぎろりという効果音が付きそうなほどうざそうに聖女をにらみつける。しかしそれをもろともせずに話しかけるのがこのお馬鹿である。ほんとにおバカ。
「っ、あ、貴方が魔王?
倒しに来たわよ!おとなしく倒されなさい!」
「ふん、雑魚がよく吠える。
用件はそれだけか?
なら、さっさと自分の国に帰るがいい。」
そういって男が手を一薙ぎすると、突風が起こる。私は慌てて守護壁を作り上げたが、私以外は強い衝撃にHPが削られ気絶してしまった。
「(おい、少しくらいは耐えろや。嘘だろー。)」
気絶した面々に心の中で悪態をつきながら、玉座の男を見つめ返す。そして衝撃波を受け止めた私を男も見つめていた。
「ほう、あの衝撃を防ぐか。
面白い。貴様、名はなんという?」
「私はティリエル。
ねぇ、1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「あんたさ、魔王じゃないでしょ。
本当の魔王は、そこにいる蝙蝠。
ちがう?」
私が質問したと同時にポフンという音と共に、椅子に座っている人と同じ見た目の血のように赤い瞳と漆黒の髪をなびかせた男が現れる。ただこちらは整った顔立ちとすらっとした体躯、いかにもイケメンといわれる部類の男である。
「我の正体を見破るとは面白い。
貴様はそこの雑魚どもとは少し違うようだ。
確かティリエルとかいったな?
そんなやつらなど放っておいて我のモノにならぬか?その力はもちろんだがそなたがぜひとも欲しい。」
「んー、何かしらの見返りはありますかー?
一応このバカの子守りでお金をたんまりもらってるんですけど。」
別段、私にとって条件さえよければどんな仕事だってやれる自信がある。
この子守りからもそろそろ解放されたくなったところだったしね。
「ふむ、それならそなたが望むものを何でもやろう。
これでどうだ?」
思ったよりも良い返事を聞けた私は目を輝かせてすぐに答えた。
「あ、あのあのあのあの!
それなら是非わたしにいろんな本をください!わたしはいろんな知識を知りたいんですよー!!王国の本も読み尽くしちゃってて、こちらにある本とかを読みたいです!!そして得た知識で実験して遊びたいんですー!」
「ふむ、そんなのでよいのか?」
「私にとっては大事なことなんですよー!これでも王国一の魔術師ですから!最近はおバカたちのせいで忙しかったので久々に実験できますー!ふふふ...
あ、ちなみに、魔王さんのお名前は?」
「我か?
我はレナルドだ。」
「レナルド、さん?様?
何て呼ぶといいですかねぇー?」
「ふむ、呼び捨てでよい。
我もそなたのことをティリエルと呼んでよいか?」
「お好きにどうぞ。」
その後、バカ勇者たちは魔王ことレナルドが国に送り返した。そしてティリエルはそのまま魔王城に住むことになり、レナルドの一目惚れからの猛烈アタックによりティリエルもなんだかんだでレナルドのことを好きになったりするのだがそれはまた別の話で。
おバカ一行が帰ってから、約半年。
いつものように実験室を爆発させ、魔王の幹部たちを困らせてひと休憩をとっていた私はレナルドと共に玉座の間にいた。恋人同士になり時々2人でティータイムをする時間があり、今がその時であった。
いつもなら楽しい一時なのだが、今日は違うようであった。
「ねぇー、レナルドー。」
「ん?どうしたティリエル。」
「私の目が悪くなったのかな?
あのバカどもが視界に入ってんだけど。」
「いや、我にも見える。」
「そっか、まじかー。」
目の前には以前追い返した筈のバカ勇者一行がいた。そしていろいろぎゃあぎゃあと喚いていたが何言っているのかほとんどわからなかった。だって防音魔法をかけちゃったもの。
「もうさ、君たちバカでしょ。
レベルも結局ほとんど変わってないし、何したいわけ?
わざわざ一回レナルドが見逃してくれたのにまたくるとかバカでしょ、バカ。ほんんんんとに、おバカ。
あ、でも一つだけ感謝しなきゃね。
貴方たちと一緒にここに来たことでレナルドと会うことができたんだし。
でも邪魔なのよねー。
てなわけで、じゃ、あとはさいならーー。」
そういいながら私は強制送還魔法を発動させるのであった。
レベルがカンストした私にはお茶の子さいさいである。
そのあとおバカたちがどうなったかは知らない。風の噂では聖女は資格を剥奪されたとかいうし、王子は別の王女と結婚したとかいろんなことは聞いた。
まぁ、わたしとレナルドが幸せに暮らせたのは言うまでもない。
~完~