第7話 エイプリルフールだから?...
軽い流血シーンと戦闘シーンが最初の方に有ります。お嫌いな方はサクッと飛ばしてお読み下さい。
お読み下さりありがとうございます。
改稿1:なるべく読みやすく改稿してみました。
あくまでもなるべくです。
内容は変えておりません。(21年1月27日)
(大変だ...)
人が邪魔で目視は出来ないが、確かに感じる。
喚きながら刃物を振り回してる男が一人、切られて倒れてるのが二人。
腕を押さえてる人が三人。
まずい、倒れた人の一人の気配が消えかかってる...
『怪我人を助けますか?襲撃者を抑えますか?』
そういう二択か...考えるのは一瞬。
至極当然の事だが、怪我人を治療すれば、その間に更に襲われる人が出るかもしれない。
逆に襲撃者を抑えれば、死ぬかもしれない人が居る。
(どちらかなんて関係無いっ‼両方同時だっ‼)
『いやはや、驚きましたわ。
両方を否定し両方を実行しようとする矛盾の意思は相当に強かったのですわね』
ティアさんの言葉だけが響いてくる...
『現界を表とするなら、ここは裏の世界。
表裏を成す異界ですわね。
術者とその術者が対象とする者は来れますが、それ以外の現界の生き物は来れませんの。
そして、維持するのには莫大な魔力が必要ですわ。
今の聖さんでは保って30秒...後は2、3日寝込みそうですわね』
不思議な感じだ...
今、ここにいるのは俺とティアさん、そしてもう一体...
「30秒...上等‼一瞬で十分‼」
黒い煙の様な物体の2m程度離れた所に転移する。
この黒いのは生き物か?...
その瞬間、ゆらゆらとしていた黒い煙は、収束するかの様に姿がハッキリしていく...
全身真っ黒で細長い体躯、全ての指が長く鋭い。
[キシャアッ‼]長い爪を振りかぶって迫ってくる...遅いっ‼
手が振り下ろされる前に瞬時に近寄り、腹に拳で一撃。先制攻撃。
煙っぽかったけど体をくの字にしながら吹き飛んでいく。
全力だったが...気配は衰えていない。
なる程、物理攻撃は効かない訳ね、ああいった手合の定番だったか。
影には光‼
思った瞬間、俺の前方に規則正しく円状に皿状の光が浮かび上がる。
直径10cm程の光で三角を作り、その周りを同じ位の大きさの五個の光が周回している。
それを1セットとし、円状に八セット並んでいる。
「いけっ‼」叫ぶと同時に、黒い影が飛びかかってきた。
皿状の中心から光のパルスショットが黒い影に向かって放たれる。
太い大きな針を無数に連射して飛ばすイメージ。
黒い影は空中で動きが止まり、光が突き刺さり、穴を穿ち、その体積を減らしていく。
[グッガッガッガッガッガ‼]
...もうそろそろ、良いかな?
黒い影は、貫通穴だらけになり文字通り蜂の巣の様にも見える。
蜂の巣よりも不規則だけどね。
斉射を止めると、黒い影は、散り散りとなって霧散していく...
...何とかなったね。
人が居なかった場所に移動して現界に戻ってみる。
辺り騒然となっていた人垣の外。
ナイス記憶力!
後は...怪我人の状態を確認し、急いで回復を行う。
五人の血は止まり、傷口は塞がり気配も感知出来る。
間に合った、ホッと胸を撫で下ろす。
後はあの人だね。
男が持っている刃物を次元収納に入れる。
多分、この人も被害者だからね?
罰は受けるだろうけども...
『これはサービスですわ...リターン...オブリヴィオン』
右肩の上から声が発せられる。
一瞬で血痕が消え、切られていた服も元通りになっていた。
ん?最後の言葉は何処かで聞いた様な?
所々で「あれ?」なんて声が聞こえてくる。
襲っていた男も突っ立って呆けている。
最後のは、記憶を消す魔法かな?
(何秒だった?)
歩き出しながら、神力の心配もあったので聞いてみる...
『異界転移から治癒まで凡そ10秒ってところですわ。
戦闘だけなら4秒弱...』
(勢いで一瞬っなんて叫んじゃったけど、まぁ、合格ラインかな?。寝込まずに済んだよ)
苦笑いしながら返す。
ん?何かティアさんの雰囲気がいつもと違う?
『あの黒い影はリッパーと言いまして、時折異界より現れて存在力が足りない時は生物に憑依して生物を殺して満足したら帰っていきますの。
犠牲者は一度に何百体にもなりますわ。
犠牲は妖精族にもありましてよ』
(如何にもって感じの奴だったね。話通じなさそうだし)
『人族に頼まれて退治のお手伝いをした事も有るのですが...
普通、部隊を率いて相手しますわね。
脅威的な切れ味の長い指が10本あるのに加え、長いリーチ。
素早く、細い体型を生かした捉えにくい動き。
翻弄されて切り刻まれる仲間も居りましたわ...』
(大変な奴だったんだね...今度から俺が相手するよ。
今日ので大体分かったし。
あんなのは野放しにできないよ)
『ありがとうございます』
...頬が赤くなり、目がウルウルしてる。
...余程辛い過去だったんだろう。
という事にしよう...
(それにしても、さっきの光魔法?は初めてだったんだけど...
何故か使い方が分かったんだよねぇ)
『あれは魔法ではありませんのよ。
本とかでご存知かもしれませんが、魔法は神の奇跡を体現したい願望から作り上げられた技術ですの。
本来、詠唱や陣、札等々が必要になります。
聖さんの使われたあれは神代の能力で、奇跡そのものですわ。
その全てを理解しておりませんので推測でお許し頂きたいのですが。
恐らく、聖さんのイメージした効果、威力だったのでしょうね』
(ほえ〜っ、確かに光をイメージしたよ。
放射イメージ強いし。
そんな事も出来る様になったんだねぇ。
っていうか、俺はいつも詠唱とか陣とか使ってないよね?)
『気付かれちゃいました?』
悪い笑顔だ...
『昨日、神力のご説明をしましたが、魔力とは存在そのものが違います。
聖さんがご使用されている力が体現するのは神威。
魔法とは全てにおいて一線を画しておりますの。』
...言葉通り解釈するなら、神の御業って奴なんじゃないだろうか?
(なるほど〜、で、何故それが俺に元からあった力なの?
元からあったら、これまで平凡じゃ無かった筈だけど)
『それは追々、アリエル様からご説明頂けますわね、
きっと...』
きっと、ですか...
まぁ、あって便利な力なんだから、聞ける時が来たらでいいや...なんて思ってると、もうバイト先のレストランに着いた。
誰かと話してると時間も早く感じるね。
そして、俺って忘れっぽいなぁ...
さっきの事が有って忘れてたんだけど、昨夜の公園の気配の人がずっと後ろから付いてきてるんだよね。
そして、もう一つ気になる事が...その人の存在と被って違う【存在】も居るんだよね...
敵意は無いからリッパーみたいなのじゃないけど、間違いなく奴より強いね...
近付いて来る気配に合わせて丁度良い頃合いで振り返る。
自然さが大事だよね。
そこには、赤色を基調としたチェック柄のスカートに白い長袖のブラウスを着た長身の女子が立っている。
俺と同じくらいの身長だ。
髪は赤に近い茶色に染め上げ、うなじは刈り上げ、ボーイッシュな感じ。
日に焼けていて、いかにもスポーツしてますって感じでスタイルも良い方だ。
顔付きはやっぱり精悍で中性的?と表現すべき美人顔だ。
「あぁ、南風原さん?おはよう、今日も同じシフトだったね」
「おはよう、聖君。今日もヨロシクね」
まぁ、いつも通りだな。いつもと違うのは...
以前は感じられなかった【存在】を感じる事だ。
「南風原さん、最近身の周りで何か変わった事とか無かった?」
ドアを開けながら聞いてみる。
「う〜ん?特に無いかなぁ」
目線は斜め上、首を傾けながら答える。
俺の視線は実体の無いその【存在】に釘付けだが...
俺の後に続いて入りながら答えてくる。
感じからして、直接的な影響を与える様な【存在】じゃなくて、その人との絆の為にマーキングしてる様な感じかなぁ?
契約?とかかな?
「まぁ、何も無いのが一番だよね‼また後でね」
「うん」
何か変な事を聞いてるなぁって自覚と変な人だと思われるのも嫌なので、強引に話を終わらせる。
更衣室に入りながら、うん?ティアさんが近くに居ない?
あっ、居た。
『あの子は私が見えるかもしれないので、ちょっと気配を消して隠れてましたの。
気配感知の感度を上げれば聖さんなら感知出来ますわよ』
「やっぱりあの子は特殊な子なの?」
『聖さんの感じたままですわね』
チャっとバイト服に着替えて、
「ティアさんはこれからどうする?」
『ちょっと疲れますけど気配を消していれば気付かれそうにないから、お側に居ますわ』
さて、とバイトをしますか。
って言っても裏方の仕事で料理作ったり食器洗い、後は定期的な清掃くらい。
昼まではそんなに忙しくないから、食器洗いがメインだな。
気配を消してるティアさんは見えないんだよなぁ...
食器を洗いつつ少し感度を上げてみた。
うん、分かる様になった。
昨日からのお付き合いの筈なんたけど、近くに居てくれるだけで何だか落ち着く様になった。
と、同時に感知感覚にちょっとした変化があった。
今度は体格とか性別とかもはっきり分かる様になった。
人の形がイメージできてて意識が何処に向いてるかが分かる。
ふむふむ、確かに客は少ないな。
今ならバイトをしながら、能力の訓練するのも悪くはないな。
仕事に関した能力の練度を上げてみよう‼
今の仕事なら水元素だね。
皿が割れない様に強さを調整して...と。
おお、良いね‼
サムズアップボタンを連打したくなる。
ん?顔を上げると南風原さんが驚いた様な顔でこちらを見ている。
視線は...俺の視線と合っている。
ティアさんがバレた訳ではないな。
まさか俺?バレた?
視線を合わせていると顔に出そうなので、下を向いて食器洗いに戻る...
偶然、視線が合ったアピールだね。
(角度的には流し槽の中に突っ込んでる手元なんて見えないでしょ?)
『神威を感じ取ったのだと思いますよ。
未熟ですがそれなりの訓練はされている様ですわ』
(マジっすか...
そりゃあんな【存在】連れてるんだから分かるのかもしれないけど...)
『しかも、その【存在】さんも驚いてるみたいですわ』
目を合わさない様に、皿を水切り用のカゴに入れながらさりげなくそっちに目をやると...
ほっ、その確かに両眼を見開いてこっちを見ていらっしゃる。
ダブルの視線が突き刺さる...敵意が無いのが救いだ。
視線を痛いと感じるのは初めてだなぁ...
バレてるな...確定だ...
なるべく自然に視線を流し槽に戻す。
配膳が終わって戻ってくる所だったのだろう。
トレイに汚れた食器を載せて、視線をロックオンしたまま歩いてくる。
視線は合わせていないけど、感じる視線が全くぶれないのがこんなに怖いとは...
目の前の汚れた食器を置くカウンターに辿り着くと、汚れた食器をトン、トンと置きつつ...
「バイトが終わったら私と付き合って頂けませんか?」
...口調がいつもと違う...
もっと軽いドライなノリだったじゃん‼
間違ってるし‼言葉間違えてるし‼
そこは"と"じゃなくて"に"でしょう‼
「エイプリルフールだから?...」




