表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/86

08 暴風

 


 外は、叩きつけるような強い雨が降っている。


 心配していた天気だが、残念なことに結果は悪い方に転がった。


 出発予定日前日の夜半から雨が降り出した。


 次第に風が強くなってきて、そして翌日には、外に出るのも躊躇うほどの暴風が吹き荒れ、北へ向けての出発は、残念ながら延期となった。



 *



 嵐なので、外には出たくない。でも、 じっとしているのもなんなんで、俺はギルド訓練所で、買ったばかりの槍の扱いを自主練習することにした。


 【刃状槍[鉄]】[槍]★★


 今の状況では、このレアリティでも文句はいえない。手に入っただけでもよしとしなければ。


 さて。まずは、この長さに慣れないといけないな。


 突く、払う、打つ、回す


 打ち上げ、打ち下ろし、薙ぎ払い


 絡め、引っかけ、叩き斬り


 槍は、棒と似たような長柄の武器だが、棒とは重心が違う。実戦となると、これがとても重要で、感覚から修正していく必要がある。


 このゲームはスキル補正が強いので、オートプレイに任せて戦うこともできる。でも、それだけに頼っていると、いざという時に困るのは自分だろう。


 自分の体は自分で思う通りに動かせるようにしないとな。



 基本動作を繰り返し繰り返し身体に覚えこませ、訓練用に借りたダミー人形相手に間合いを把握する。


 このダミー人形が結構使える。


 簡易的だが戦闘AIが入っていて、こちらの打ち込みに対して、ちゃんと反応を返してくれる。


 訓練所チケットを使えば、初心者がいきなりNPC教官と戦うこともできるが、それだと、何をしているかも分からない内に、一方的にボッコボコにされるだけだ。


 基礎訓練はダミー人形が最適。


 しばらくぶりに訓練に没頭していたら、あっという間に時間が経った。



 *



 昼頃になって、そろそろ休憩するかというところで、レオがやって来た。



「源次郎、飯にしようぜ〜!」


 しようぜ〜って、タメか?


 まあ、こんな状況で3歳年上を主張するつもりはないけどな。レオにはなんか懐かれてる気がするし。


「今行く、先に食堂で席を取っておいてくれるか?」


「おう! 任せとけ! 待ってるからな!」


 ダミー人形を倉庫へ返却してから食堂に向かう。



「こっち! こっち!」


「待たせて悪かった。さて、何を食うかな」


「今日の日替わり定食は、『牛肉のトマトン煮込み』だって。俺はそれにする」


「牛肉の煮込みか。美味そうだな。俺もそれでいいや」



 ポチポチ、ポチポチ。


 卓上オーダーなのでタッチパネルで注文完了。精算も同時に済む便利仕様。


 そして、すぐに注文した品がテーブルに届いたので、早速食べ始めた。



「なあ。変な噂が流れてるんだけど聞いたか?」


「変な噂? いや。聞いてない。なんだ?」


「昨日の夜から、NPC達が、今までと違う台詞を言い出したんだってよ」



 ……嫌なフラグだ。


 こんな状況になっているのに、まさかイベントが起きるっていうのか?



「NPCが? もしかしてイベントか?」


「かもしれないって」


「どんな内容だ?」


「言い伝えがあるんだって。こんな嵐の時には、海から魔物がやってくるって。最近、その言い伝えに関する会話が増えているみたいだ」


「十分怪しいな。そのやってくるという魔物についての情報は出てないのか?」


「今のところ、ないみたいだな。この嵐で街中にはあまり出られないから、うまく聞き取りができないみたいだけど」



 この感じだと、すぐにイベントが起こるってわけじゃなさそうだが、そう遠くもないってところか。


「そうか。……それは困ったな」


「なんで?」


「なんでって、魔物の襲来なら恐らく防衛戦になる。イベントが始まったら、終わるまでここから動けなくなるだろう?」


「なるほど! 防衛戦になるのか。気づかなかったぜ」


 おいおい。


 しかし参ったな。ゲーム同様にイベントが起こるとか。いったいどこまで実装されてるんだ?



 ……いや。


 実装具合とイベント発生が関係あるかどうかも、実際のところは不明だな。


 今は「フォッサマグナ地域」になってしまった首都圏にゲームサーバーがあるとは限らないが、こんな異常が引き起こされている以上、サーバーが無事であるとも思えないし、管理者だってそれどころじゃないだろう。


 今現在、いったいどういった仕組みで、仮想世界の運営がなされているのか。……俺ごときが考えて分かるものでもないけどな。



 *



 課金前提のこのゲームでは、当然、レイドクラスのイベントになると、課金にものを言わせて力押しで攻略されることが多かった。


 今回は、それが通用しない。


「課金縛り」の元に起こる防衛戦。


 ……装備も消耗品も、何もかもが足りない。


 戦えるプレイヤーの数だって不明だし、そもそもこんな状況で、みんな気もそぞろだ。防衛戦で戦う気があるかどうかも分からない。レイドをまとめるリーダー的な存在も、この1週間見た限りでは居なかった。


 ……条件が悪過ぎる。


 こんなんで防衛戦ができるのか?


 考えれば考えるほど、マイナス要素しか見つからない。……心に沸き上がる不安を、俺はいつまでも払うことができなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ