85 鍵穴の在りか
7/21発売!(集英社ダッシュエックス文庫)
【不屈の冒険魂 雑用積み上げ最強へ。超エリート神官道 3】
お手にとって読んでいただけたらとても嬉しいです。
☆こちらが店舗特典情報
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発売記念としてSS(店舗特典とは別のお話です)をなろうへ掲載することも検討中です。書籍もよろしくお願い致します!
刀彼方先生がユキムラの応援イラストを描いて下さいました。可愛いカッコいいユキムラをこちら(刀彼方先生のTwitter)でご覧頂くことができます。
↓
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今夜はやけに目が冴えて、眠ろうとしても眠れない。疲れてはいるはずなのに。
灯りを落とした寝室のベッドで、何もない暗い天井を見上げる。そうすると、自然とここ最近の己の行動が思い浮かぶ。
あれからできる限り手を尽くしてみた。
この大神殿内も、行けるところは隅々まで探索したつもりだ。でも、無限回廊の入口はまだ見つからない。手がかりすらない。
俺が行けない場所に入口がある。もしかして意地の悪い設定なんじゃないか? 一瞬、そんな悲観的な考えが頭をよぎる。
でも、おそらくそうじゃない筈だ。
ISAOはユーザーに対して、やけにリアリティのある研鑽を求めてくる。これでもかってくらいに。一見理不尽と思える設定もこれまでにあった。だが結局のところ、解のないクエストは今まで一度も課してきてはいない。
だから、答えはあるはず。きっとどこかに。俺がまだ気づいていない意外な盲点に。
……やっぱり眠れない。昼間頑張り過ぎたせいかな? なんとなく落ち着かない気分で寝返りを打つ。
何も進展がなかったことに、焦りや不安があるのかもしれない。ゲームなら、ログアウトボタンひとつで終わらせることができるのに。この世界はやけにリアルだ。
父さんは元気かな?
ISAOが落ち着いたら、またトレハンの世界にも行かなきゃ。俺以外にも、身内の安否が気になる人がきっといるはず。だから、次は大勢で旅をすることになるかもしれない。
賑やかだろうなぁ。
虫の王国を通るときは、またハルトに頼まないと。あの世界も、あのままじゃ多分ダメだろう。ハルトの背負うものが、あまりにも大き過ぎる。
まだずっと先の話。でも、遠過ぎるってほどでもない未来。その時は、みんなで力を合わせてなんとかしたい。
俺たちは、きっとできるはずだ。みんなISAOで頑張ってきた人たちなんだから。
そうそう。
俺のクエストは途中で進行が止まっている状況だけど、凄くいいことがあった。聞こえたんだ。レオと香里奈がとうとうやってくれた。
《これにより、タプコプ山の隧道が解放され、隧道を介して「神聖カティミア教国」への往来が可能になります》
このアナウンスがされた時には、思わず快哉を叫んだ。だってそうだろう?
レオと香里奈が、ISAOのプレイヤーたちと協力して、隔絶されていた二つの世界を繋げたんだ。凄いよ二人とも。そして共に戦ったであろうISAOのプレイヤーたちも。
俺の知り合いも参加していたのかな? 今頃みんな、どうしているんだろう? キョウカさんは、俺の現状を聞いたら凄く心配してしまうかもしれない。
……会いたい。でなければ伝えたい。俺は大丈夫だよって。
そんな風に取り留めもなく、遠いISAOの地に想いを馳せる。
就寝してから、もうだいぶ時間が経った。いい加減、寝ないとダメかも。明日もスケジュールの合間を縫って、扉探しをしないといけないから。
身体の向きを仰向けに直し、臍の下で軽く手を組んで目を閉じた。意識して身体の力を抜いていく。横になってはいるけど、瞑想の時の姿勢に近い。
それがよかったのか、騒ついていた意識が徐々に徐々に凪いで行く。背後に向かってスーッと吸い込まれていくような、下に向かって落ちていくような、解放感に近い感覚が生じた。
これなら寝られるかもしれない。
すっかり身体が弛緩して楽になり、暗闇に意識が紛れそうになったその時。視界の隅にチカッと僅かに光るものが見えた。星の瞬きのような一瞬の煌めき。
あれは?
身体を離れすっかり身軽になった意識が、その方向に滑るように飛んでいく。一切の抵抗がない。凄いスピード感だ。
水平に飛んでいるようでもあり、深く深く落ちていくようでもある。そんな方向感覚を無視するような不思議な飛行体験。
またチカッと光った。
その方向に意識を伸ばす。また落ちていく。真っ暗なトンネルの中を、あの瞬きの正体を確かめたくて。
……ここだ。ようやく着いた。すぐ目の前に光の源があった。
ああ。こんなところに。ここにあったのか。
一筋の明滅する光を通す狭い細隙。その縁が淡く銀色に輝く小さな鍵穴だ。扉は見えない。ただ鍵穴だけがポツンとそこにあった。
……鍵はどこだっけ?
そう意識すると、アイテムボックスにしまってあるはずの銀の鍵が、ふいに視界に現れた。そして鍵の出現に呼応するかのように、鍵穴から鍵の方に誘導するような光が伸びてきて、銀の鍵の先端とリンクする。
カチッ
微かに音がして、光に引き寄せられた鍵が鍵穴に嵌った。
*
ユキムラの眠る部屋の外に立つ、警護担当の二人の聖堂騎士。
彼らにいる場所に向かって、常夜灯がぼんやりと灯る廊下を進んでくる一団がいた。神殿長のセルヴィスを筆頭とする高位のNPC神官たちである。
「時がきました」
セルヴィスが聖堂騎士にそう声をかけた。
「時が? では大司教さまは?」
「既に回廊に入られたようです。『大いなる意志』からお言葉がありました。我々も助力のために祈りを捧げます。あなた方の行動には変更はありません。いつも通りに警護を続けて下さい」
それだけ告げると、彼らは静かにドアを開け、室内にそっと滑り込んだ。
一人で眠るには大き過ぎるベッドで、無防備に横たわるユキムラ。その身体は、暗闇の中で淡い銀色の光を放っていた。
「我々がお守りしなくては。この世界の行く末は、このお方にかかっている」
「本来の道筋を違える異分子の排除。お一人で可能でしょうか?」
「可能にするのです。だからこそ、我々にも使命が与えられたのですから」
ベッドを囲むように総勢七人の神官が立ち並び、セルヴィスの無言の合図と共に一斉に膝をついて祈り始めた。
淡く光り続けるユキムラ。
神官たちの身体も次第に淡く輝き始め、その光がユキムラを包むように集束していく。
《最上級職クエスト「猊座へ至る道」ファースト・ステップ「無限回廊」進行中です。サポートプレイヤーの欠落を確認。アジャスト・システム「祈り」が発動しました》
ここで今回の更新「第8章 ソトノセカイカラ」は終了になります。
またしばらく書き溜めに入らせて頂きます。
続きを読みたい!と思っていただけたら幸いです。
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