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『次元融合』〜ゲームに侵食された世界【不屈の冒険魂ISAO外伝】  作者: 漂鳥
第6章 新たな大地で

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58 神の御心

 

「すっごい超常現象が起こっちゃったね。ねえ、もしかしてスバルって偉い人だったりする?」


 一列になって、狭くて長い螺旋階段を下りる。先ほどのあの現象。あれはいったい何だったんだろう?


「えっ、なんで?」


「なんでって、私もそう思った。スバルくんに対するさっきのNPCの態度、尋常じゃなかったもの」


「だよね。俺と香里奈は、きっとあのNPCの視界にすら入ってないよ」


 確かに俺はロック・オンされていた。なぜだか分からないが。


「そういえば。以前噂で、NPCに現人神(あらひとがみ)のように崇められているプレイヤーがいるって聞いたことがあるわ。もしかしてその当人とかだったり?」


「……香里奈だって有名人じゃないか。俺と似たようなものだろ?」


 それは違うとは言い切れない気がするので、香里奈に矛先(ほこさき)を向けてみる。俺が有名なら香里奈だって同類じゃないか。


「それがそうでもないのよ。私は歌ってばかりで、それ以外はあまり修道院に協力的じゃなかった。基本的に好きなことしかしなかったから、NPCからすれば催し物担当のプレイヤーに過ぎなかったんじゃないかしら?」


「歌姫って呼ばれてたのに?」


「そう。みんな親切だったけど、雰囲気は和気藹々(わきあいあい)というか歌のお姉さん? そんな感じ。修道院長様にしても、親戚の世話焼きなおばちゃんみたいだったし」


「スバルのISAOのユーザー名って『ユキムラ』だよね。俺もその名前は聞いたことある。ISAOを始めてすぐにやめちゃった俺が知ってるくらいに有名なんて、いったいどんなプレイをしてたの?」


「どんなプレイって……普通に、そう普通にゲームをして楽しんでいただけだけど」


 そうだよ。普通にクエスト受けて、ひたすら地道にクリアしただけだ。


 ただ、大規模イベントなのに疫病を治療できる神官が俺だけで、結果的に街の住人全員を治療しちゃったとか……いやいやいや。そんなのは、やむをえない事情だよな?


「怪しい〜。絶対に何かしてる」


「私もそう思う」


「NPCの好感度が高いのは否定しない。さっきのもきっとそのせいだ」



 *



 そんな会話をしながら、塔を下りて出口に向かう。すると、何やら出口付近が騒がしい。雑然としたざわめき。周囲に大勢の人がいる気配がした。


「戻られました!」


 入口にいた神殿騎士が、こちらを見てから外に向かって叫ぶ。


「なにか様子が変ね?」


「いったいなんだ?」



 外に出ると、広場は隊列を組んだ白い騎士服の一団と、白い神官装束の集団、更にそれを取り巻く住民NPCの姿で溢れていた。


「これは……」


 異様な光景に驚いて絶句していると、神官装束の集団から年配の男性NPCが一人、こちらに進み出てきた。


「ユキムラ大司教様、お待ち申し上げておりました。私は、カティミア大神殿の神殿長を拝しておりますセルヴィスと申します。この度は、こうして大司教様にお目通りが(かな)い、幸甚(こうじん)の至りに存じます」


「セルヴィスさん、初めまして。ユキムラです。これはいったい何事でしょう?」


「関所より、大司教様が我が国をご訪問されたという一報を得て、我ら一同、大司教様をお迎えに教都より()せ参じました」


「迎え? 私のですか?」


「はい。突然で驚かれたことと思いますが、この国は信仰が厚く、神のみ恵みに満ちている一方で、なくてはならない肝心なものが欠けているのです」


「それが私と何か関係が?」


「もちろんございます。関係どころかそのものと言っても宜しいでしょう。あるまじきことに、この国では猊座(げいざ)が空位のまま長い時が過ぎました。しかしここに至り、神のお導きで候補者たるお方が現れた。だからこそお迎えに上がったのです」


 猊座? それはいったい何を指している?


「意味がよく分かりませんが?」


「ご安心下さい。我々一同、大司教様が高みに昇られるための助力を惜しみません。大神殿にお迎えする以上、我が国の総力をあげて支援させて頂きます」


 つまり俺に、この国の宗教組織に入れということか?


「俺の意志は?」


「神の御心のままに」


「そうじゃなく……」


「大成の(あかつき)には、神の恩寵があまねくこの国に降り注ぐことでしょう。ああ、なんと素晴らしい!」


 困ったな……このオッサン、全然話が通じない。



 《ポーン!》


 アナウンス? このタイミングで?



 《ハイエンド・シークレットクエストの発動条件を全て満たしました》


 《ただいまより、最上級職クエスト「猊座(げいざ)へ至る道」が開始されます ※このクエストはキャンセルできません》


 《本クエストは、随時提示されるミッションをクリアすることにより進行します。※ミッションには予告のない「隠しミッション」や特殊な条件を満たしたときだけ発動する「限定ミッション」も含まれます》



 ここで……ここで転職クエストが来るのかよ!


 でもキャンセルできないってなんだ? 今までの転職クエストでは、こんな表示が出たことはなかった。わざわざこの注意喚起が出た意味は?



「スバル! これってどういう状況?」


 そうだった。転職クエストのアナウンスは、そのプレイヤー当人にしか聞こえない。だから、二人にはこの状況が何がなんだか分からないわけで。


「俺もいきなりでよく分からない。だが、最上級職への転職クエストのアナウンスが流れた。それによると、もうクエストは始まっているらしい」


「始まってる? じゃあ、スバルはここで何かしなくちゃいけないの?」


「分からない。ただクエスト絡みだとすると、このNPCたちが大人しく引っ込むかどうか……」


 そう言いかけたところで、セルヴィス神殿長が口を挟んできた。


「お二人は、大司教様のお連れの方たちですか?」


「そうです。ここまでずっと三人で旅をしてきました」


「それはそれは御苦労様でした。これまで大司教様の護衛を務められてきたことは、(ねぎら)いに値します。神殿から、なにがしかの報酬を差し上げましょう」


「彼らは護衛ではなく俺の仲間です。雇っていたわけじゃない」


「なるほど、無償の奉仕であると。敬虔(けいけん)な信徒の見本ですな。その善き行いは賞賛されてしかるべきです。ですが、今後はもうお二人のお手を(わずら)わせる必要はございません。謝礼を差し上げますので、お二人には、本来いるべき場所へお引き取り願いましょう」


「いや。俺たちは目的地へ向けて一緒に旅をしている。だから、これからも三人で行動するつもりだ」


「そういうわけには参りません。戦士の方は冒険者ギルドへ、修道女の方は修道院へ。それが本来あるべき道であり、あるべき姿でございます」


「それには同意できない」


「我々には()()()()()()が必要なのです。ご覧のように、ここには聖堂騎士(テンプルナイト)の精鋭が一個中隊きております。道中の護りは彼らにお任せ下されば万全。どうかここは聞き分けて下さいますようお願い申し上げます」


 やけに強硬姿勢だ。これもクエストの影響なのか?


 そして、神殿長の言葉がきっかけとなったのか、隊列を作っていた騎士たちが、じわじわと俺たちを包囲し始める。


「移動用の輿(こし)を用意致しました。ささ大司教様、お連れのお二人とお別れを」


「スバル、どうする?」


「やけに物々しいな雰囲気ね。これでスバル君が同行を拒否したらどうなるのかしら?」



 ……どうする。どうすればいい?


 長い北への旅。やっとだ。やっとここまで来た。なのにキャンセルできない職業クエスト。


 くそっ! 俺が取るべき正解の選択肢は?

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